迫る不穏な火の手
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「…!?」
何か感じ取ったのかルイは徐ろに立ち上がると部屋の扉を開けた。するとそこには偵察から戻ってきたジェハとシンアがいた。その彼らを見てルイはホッとしたかのように表情を緩ました。
「おかえり、二人共」
「どうだった?」
ルイの言葉にシンアは小さく頷き、ジェハは久々に見た彼女の表情に目を細めた。そんな彼らにユンは状況を尋ねた。その言葉に二人は表情を一変させ神妙な面持ちを浮かべた。
「雲行きが妙な方に流れているよ。」
皆の輪に入り座るとジェハが口火を切った。外に出たジェハが屋根の上で小耳に挟んだのは、
「スジン将軍が破れた…!?」
「今は援軍を求め後退中だってさ。」
「彩火の兵と千州軍の戦況は?」
前のめりになってユンが現状を尋ねる。それに対してジェハは言葉を濁らせた。が、その彼の言葉を代弁するかのように声を上げたのはまさかのルイだった。
「…それが」
「衝突はまだ起こってなかったんじゃないか?」
「え!?」
「そうなのか?タレ目??」
「あぁ…
彩火の門前で睨み合いやってるよ」
ルイの発した言葉に対してジェハは驚きながら、シンアが見た光景を話した。でも、どうしてルイが…っとジェハは不思議そうに隣に座るルイに視線を投げた。その視線に気づいたルイは困ったように眉を顰めた。
「戦によってもたらされる生臭い血とか独特の高揚感とかが風に乗っていなかったから、薄々そう思っていただけだよ」
「やけに静かだとは思ったけど…」
「しかし次々と砦を突破した千州軍がここに来て攻めないとは何かの作戦か?」
もたらされた情報に一同は困惑した。夜明けとともに開戦していると思われた戦は行われていない。一体何が狙いなのだと一同が首を捻る中、キジャがシンアに問いかける。
「シンア、千州軍の数は?」
「…二千…くらい…」
「二千!?」
その言葉に対してハクが大きな声を上げて驚く。その彼の珍しい様子にヨナが不思議そうに彼の名を呼んだ。その声に我に返ったハクは重たい口を開いた。
「…裏町の奴らの情報が正しければリ・ハザラは一万の軍勢を率いているという話だ。
火の部族最大の要である彩火城を攻めるのにたった二千とは…」
「カン・スジンは大群を率いて行ったと聞いたぞ。
それに対抗する為にリ・ハザラも大群をカン・スジンにぶつけたのではないのか?」
険しい面持ちを浮かべたハクの疑問に対してキジャが思った考えを口にした。それに対して、腑に落ちないルイが確かめるようにハクに視線をやる。
「…そうだとしても本陣を叩く方に対して戦力を集めるのが定石だと思うが」
「…そこも引っかかるんだよな」
ルイの視線を感じ取ったハクは小さく頷いた。その二人の歯切れが悪いさにキジャがどういうことだと声を上げた。
「何がだ?」
「……いや、整理するとだな」
キジャの言葉に対して、ハクは今までの情報を整理してかいつまんで説明を始めた。
まず火の部族の国境を抜けたリ・ハザラは1つ目の
「思うに、彩火の門の前にいる千州軍はキョウガを足止めするための軍。
本陣はカン・スジンを追っている方だ」
「恐らくそこにリ・ハザラはいるだろうね…」
目を伏せて淡々を話すハクに付け加えるように深く息を吐いたルイが付け足した。
「カン・スジンが彩火城まで敗走して来たら、リ・ハザラは今ここにいる軍と合流して彩火城を一気に攻め落とす気だろうか。」
「…かもな。」
それらの話を踏まえてキジャが口を開く。それに対して、ハクは間を置いて相槌をした。その話に対して、今まで黙って聞いていたヨナが口を開く。
「キョウガは援軍を出すかしら。」
「彩火の前で陣取ってる千州軍がいるからそう簡単には出せないと思うよ。」
「このままだとスジン将軍は彩火に戻りたくても戻れないね。
来たらここにいる二千の軍と挟み撃ちにあう。」
「キョウガも戦を有利に導く為には門の外に易々と出られないだろうね…」
ヨナの漏らした言葉に対して、ユンとジェハとルイがその可能性は薄いことを述べていった。それらを神妙な面持ちで聞いていたヨナは暫く考え込んだ後、重たい口を開いた。
「…ユン、ここから出る方法はある?」
「えっ…」
「ここから出て彩火の前にいる二千の兵を蹴散らす。」
ヨナに呼ばれたユンは彼女の言葉に目を見開いた。そのユンの視界の先にいたヨナの紫紺色の瞳は確固たる決意を秘めていた。真っ直ぐ鋭く外を見据えるヨナが発した言葉に、この場にいた者は皆、意表を突かれてしまい固まる。だが数秒後、ユンは慌てふためきだすのだった。
「何言ってるの、ヨナっ!」
声を荒げたユンは、ね!!と同意を求めるように他の者を見渡す。が、シンアは静かに剣を手にし、ハクは悪人面を更に助長させるように不敵な笑みを浮かべ、キジャはパァッと目を輝かせて右手を大きくしていてやる気満々。
「雷獣もニヤけてる場合か!」
「お任せ下さい、姫様っ!!」
「腕をしまえ、珍獣!!」
的確に切れのいいツッコミを入れていくユンは助けを求めるようにキョロキョロと辺りを見渡す中、ヨナは勢いよく立ち上がった。
「スジン将軍のやり方に全ては賛同出来ないけれど、ここでリ・ハザラに討たれては火の部族はめちゃくちゃになる。
彩火を取り囲む千州軍を何とかすればスジン将軍も彩火に戻れるし、キョウガも動けるでしょう。」
「でもそんな騒ぎを起こしたら…」
右往左往するユンに対して、やる気満々のキジャが大きな右手を顔に近づけ不敵な笑みを浮かべていた。
「賊の仕業に見せかければ良い。」
「”暗黒龍とゆかいな腹へり達”、久々の出動ってワケだね。」
そのキジャの言葉に、ジェハは笑みを溢した。その懐かしい響きに隣にいたルイは目を細めた。そんなルイを視界に捉えたユンは救世主がいたといわんばかりに助けを求める。
「ルイ~、こいつら止めて~!!」
だが、ユンの予想に反してルイは諦めろといわんばかりに彼の肩を軽く叩いた。それにガクリと肩を落とすユンに畳みかけるように無邪気な笑みを浮かべたゼノが口を開いた。
「ゼノ、裏町の人達と仲良くなったから外へ通じる秘密の地下道教えてもらったから~」
「いつの間に!?」
ゼノの口から発せられた驚愕的な事実にユンは愕然としたものの、不安要素は拭えず心配そうにヨナに詰め寄った。が、ヨナは凛とした表情で真っ直ぐユンを見つめ微笑んだ。
「でも二千の軍勢だよ…」
「ユン、行こう。
ユンとユンの故郷は必ず守るから。」
「~~~わかったよ。」
そのヨナの迷いのない表情に、ユンは大きく息を吐いて折れるのだった。
「でも俺だって!!
ヨナを危険な目に遭わせたくないんだからね。」
「うん、わかってる。」
遂に覚悟を決めたユンはヨナに近づき彼女の両手を掴んだ。その想いの籠ったユンの言葉にヨナは握り返して小さく頷くのだった。