迫る不穏な火の手
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「…さん、姫さん。」
酒場から移動し小さな宿の一室を借りた一行は、見張りを交代しながら一晩を明かしていた。そして夜が明け、空の色が明るくなった頃合いに見張りで起きていたハクが寝ているヨナの名を呼んだ。その声にヨナはガバっと飛び起きた。
「ごめんなさい!私寝過ごした!?」
「いえ、だがそろそろ夜明けです。」
「ハク…踏んでるよ…」
慌てて飛び起きたヨナをハクは落ち着いた声音で制した。その屈んだ彼の左膝元にはハクが居ない間に寝ているヨナの隣をゲットして横になっていたジェハの頭があった。グリグリとハクにより全体重が頭に乗しかかっている状態のジェハは苦笑いしながらも満更でもない様子だった。
「戦闘は…千州の軍は攻めて来た?」
「それが都の門付近は一般人立入禁止になっていて情報が入って来ないんですよ」
仕方なくジェハからどいたハクにヨナは状況を尋ねる。だが、今の戦況の情報は入ってこない状況でハクは苦虫を潰した表情を浮かべていた。
「でも何か不気味な静けさだね」
「……ホントだね」
続々と起き上がる一行。その中で、目をこすりながらユンが声を上げた。それに対して、窓の外に視線をやりながらルイが小さく相槌をした。一方で、ヨナは難しい表情を浮かべ頭を悩ませていた。
「なんとか外の状況を知る事は出来ないかしら。
もし戦火が都の人にまで及ぶなら…」
「じゃあ僕が見て来るよ。」
ポツリと嘆いたヨナの言葉に対して反応したのはジェハだった。彼は小さくヨナに微笑みかけながら外套を被った。そのジェハの提案にその手があったかとユンが手を叩いた。対して、起き上がったゼノは無邪気な笑みを浮かべてジェハの背に勢いよく抱きついた。
「そっか、ジェハは跳べるもんね!」
「緑龍~乗せてって。ゼノ退屈だから。」
「お子様はまだ寝てなさい。」
少年のようにジェハの背に飛びついたゼノに対し、ジェハは小さく溜息を吐きながらハイハイと軽くあしらった。そしてなんとかゼノを落ち着かせ下ろすことに成功したジェハは、部屋を出ようと踵を返した。その彼の背にヨナが声をかけた。
「ジェハ、ちょっと待って。」
「どうしたの?一緒に来る?」
その声に瞬時にクルリと身体を反転させたジェハは、ヨナに向き合い顔を合わせるとニッコリと笑みを浮かべた。阿波の街であった時と同様、彼女も行きたいのだろうと思ったジェハはヨナに甘い言葉を囁く。そのお誘いにヨナは直様頷いた。
「ええ、連れてって。」
「いいとも♡」
ギュッと抱いてあげると嬉しそうにジェハは両手を広げた。そこに誰しもがヨナが飛び込むと思っていた。だが、ヨナがとったのは驚くべき行動だった。ヨナがとった行動は、ジェハの胸に飛び込むことではなかったのだ。ポカンとするジェハ。その彼の両手にはヨナによって抱える羽目になったシンアがいた。元々ヨナはシンアを連れて行ってほしくてわざわざジェハを呼び止めたのだった。
「え…ナニ?これナニ?ナニこれ。」
「連れてって、シンアを!」
想像と違うとジェハは目を点にする。その傍らではこの組み合わせは妥当だとユンとキジャが大きく頷いていた。
「そうだね。シンアの眼があった方が何かと便利かも。」
「シンア、しっかりとお役目を果たすのだぞ。」
「ぎゅっと抱いてやれよ、ジェハ兄さん。」
「そうだね
くれぐれも途中でシンアを落とすような真似をしないようにね」
対して、滑稽な姿にハクは遠い目をし冷やかしの言葉を投げかけ、ルイもそのハクの言葉にのっかるかのように言葉を付け足した。そんな彼ら二人にジェハはジト目を向けた。
「デカい男二人謎のお姫様抱っこ…僕なら撃ち落とすね。」
ヤレヤレとこの状況に対してジェハは肩を竦めた。そして抱えていたシンアを背に担ぎ直すのだった。
*****
「ルイは、さっきから浮かない顔をしているな」
ジェハがシンアと共に跳んでいった後、部屋に待機組となったキジャは窓を開けて外を眺めているルイを心配そうに見ていた。そんなキジャの言葉に同意とユン達は頷いた。
「さっきというより、ココ最近だよね」
「一体、ルイは何を感じているのかしらね??」
濃紺の髪を吹き付けてくる風に靡かせたルイの背を心配そうに一同が見守る中、黄色がルイの背に思い切り抱きつくのだった。
「巫女さん!!」
急に来た重みにルイはビックリしながらなんとか前に倒れそうになるのを防いだ。そして、どうしたの?と不思議そうにゼノを見ようとすると他の皆の視線が集まっている事に気づいた。その視線に対してルイは愛想笑いを浮かべた。
「ルイ、1人で抱え込む必要はないぞ」
ぎこちない空気が漂う中、キジャが口火を切る。その彼の見透かした言葉にルイは息を呑んだ。
「お前の悪いクセだな…」
「全く、雷獣の言う通りだよ」
そんなルイの反応にハクとユンは溜息を吐いて、肩を竦めた。そんな彼らに申し訳無さそうにルイは目を伏せた。そのルイの不安を払拭するかのように背に乗っかるゼノが屈託のない笑みを零した。
「大丈夫大丈夫!!
何かあったらゼノがどうにかするから〜!!」
「そういうそなたは少しは力を見せんか!!」
「まぁまぁ
白龍、いきり立つなって」
その陽気なゼノの言葉にルイは救われた気がするのだった。そしてゼノとキジャのやり取りに今までモヤモヤ抱え込んでいたのが馬鹿らしく感じ、ルイは久々に軽快に笑うのだった。その笑い声にヨナ達は拍子抜けする。
「…ルイ??」
「ごめんごめん」
ヨナに名前を呼ばれたルイは困惑する一同と裏腹にスッキリとした表情を浮かべていた。押し寄せる不吉な風の真意を考えても仕方がない。情報がない今、最悪の展開ばかり考えても仕方がないのだから。それに、万が一その悪い予感が当たったとしても独りじゃない。どんな不測な事態が起こってもこのメンバーと一緒なら乗り越えられないものがない。ヨナ達といるだけで沸き起こる妙な自信を改めて思い知ったルイは一先ず考えるのをやめて窓から離れるのだった。