迫る不穏な火の手
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「た…たたた大変だ。
か…戒帝国の…戒帝国の千州の軍が…国境の関所を突破して高華国に侵略して来やがった!!」
ダダダダっという大きな足音とともに、店内になだれ込むように入ってきた1人の男。一体何事かと店内にいる客は訝しげに倒れ込んだ彼を見た。その視線を一心に集めた男は青褪めた表情を浮かべながら事の深刻な事態を大きな声で叫ぶのだった。その男からもたらされた情報は、店内に居たヨナ達を含めて驚きと戸惑いで言葉を失うには十分すぎるものだった。
「な…何言ってんだ、お前…」
「北の町
千州の豪族リ・ハザラが大軍を率いてこの彩火に向かって進軍している!!」
俄に信じがたいと顔を引き攣らせながら男の近くに居た客が恐る恐る尋ねる。が、男が持ってきたのは信頼性がある情報だった。
その後、この裏町の酒場には着々と情報が届けられた。
千州が率いる軍勢の数は1万。その軍は国境の関所を抜けて彩火へ進軍中。それを受けて北東
「おい!
「マジか?」
「彩火の民衆も気付き始めた。噂が広がってる。
先刻スジン将軍が軍を率いて
先ほどと打って変わって切羽詰まった声が飛び交う酒場。その慌ただしい光景をヨナたちは少し離れた場所で遠巻きに見ていた。
「思わぬ方向に事態が広がっているな。」
「周辺の農村大丈夫かな…」
次々ともたらされるのは火の部族にとって良くないものばかり。その予想を超えた情報にキジャとユンが表情を曇らせた。
「千州の軍かなり強ェよ!」
「あの強固な
「この分じゃ彩火もヤベェんじゃねェのか!?」
リ・ハザラ優勢の戦況に対して、男達の憶測が飛び交っていく。その中、一目散に動き出しそうなヨナは騒ぐことのせず静かに確実にもたらされる情報を整理していた。
「
「いよいよスジン将軍が迎え討つのか。」
「スジン様の軍と交戦中ならたとえ千州軍が勝ってここに辿り着いたとしても兵は疲弊しているはずだ。」
「城にはキョウガ様の精鋭部隊がいる。
千州の軍といえど殲滅出来るんじゃないか?」
次に酒場に届いたのは、千州の軍がスジン軍が守りを固める砦に到着したという情報だった。その情報に対して若干楽観的な考えをする男達に対して、険しい面持ちのキジャが難しい表情のユンに声をかける。
「このまま終わると思うか、ユン。」
「…」
だが、ユンは表情を変えることなく押し黙ったままだった。そのユンの隣では同じように険しい面持ちをして考え込むルイがいた。そんなルイを背後にいたジェハは不思議そうに覗き込んだ。
「ルイ??どうかした??」
「いや…
さっきからモヤモヤを感じててね」
珍しくルイは言葉を濁らせた。戎帝国に居た時から感じていたモヤモヤはここ彩火に来て更に大きく膨れ上がっていたのだ。ここ彩火に渦巻くのは高華国を陥れようとする野心家によるどす黒い陰謀。果たしてこの戦はリ・ハザラが仕組んだものなのだろうか。数少ない情報では、真の黒幕にたどり着くことはルイには出来なかった。闇雲に憶測だけを膨らましても意味はない。俯いたルイは不安を紛らわせるかのように胸の前で拳を作った。そんなルイの様子をジェハは少し淋しげに見つめるのだった。
「お…おい!やべぇーぞ!!」
酒場をドタバタと駆け下りてくる足音。その音とともに酒場の扉が勢いよく開かれた。そして入ってきた男は息を切らしながら、信じられない情報を言い放つのだった。
「せ、千州の軍が…
千州の軍がっ
この彩火の直ぐ近くまで来ているらしいぞ!!」
その一声に店内は一気にざわめきたった。それはヨナ達も同じ。騒ぎ立てることはしないものの驚きの表情を露わにしていた。
「妙だな、早すぎる」
さっきの
「うん、多分軍が分かれたんだ。」
「分かれた?」
不思議そうに横からヨナが口を挟む。その近くではなるほどとユンの言いたいことがわかったルイが口を開いた。
「千州の軍は、砦に居るスジンに対してと、彩火城に居るキョウガに対してと、二手に戦力を分散させたってことか。
そうすれば、体力を削られることなく敵の本拠地である彩火城を叩くことができるってことか…」
顎に手を置きながら険しい面持ちを浮かべるルイの言葉に、ユンは小さく頷いた。
「近いうちにこの都は戦場になる。
少し情報を集めるつもりが、これでは外に出れなくなってしまったね。」
突きつけられた事実を淡々と整理しながら嘆くように呟いたのは今までずっと黙ったままのジェハだった。そんな彼は横目で静かに前を見つめながらも違うものを見ているのであろうヨナを見た。
「大丈夫だよ、ヨナちゃん。
いざとなったら君を抱いて逃げるからね。
もちろん、ルイも置いていかないからね」
ふんわりと笑みを浮かべたジェハはヨナの顔を覗き込むように身体を屈めて囁いた。その言葉に対してヨナはどう反応すればよいかわからず目を点にし、一方のルイは苦笑いを浮かべていた。
「そうか、悪ィな。オレも頼む。」
「俺もー」
「ゼノも」
「重量超えだよ…」
ジェハの言葉に対して気に食わないという表情を浮かべたハクが彼の頭にドンッと自身の腕を乗せる。そのハクの言葉に便乗する形でユンとゼノがジェハにひっついた。そんな彼らの言葉に対してゼノに抱きつかている上にハクに押しつぶされそうな自身の状況に顔を引き攣らせながら、ジェハはため息混じりにボヤくのだった。
「兵が近くに迫っているのに静かね」
「夜だからね。両陣営朝を待っているんだよ。」
遠い目をするヨナが都の様子に違和感を覚える。それに対してユンが落ち着いた声で答えた。
「夜に紛れて…静かに燃える炎を感じる…」
「……そうだね」
ジェハから離れたゼノがポツリと普段の表情とは一変させ真剣な面持ちで低い声で小さく呟いた。その言葉に対して、彼の隣に立ったルイは遠い目をしながら相槌をするのだった。