迫る不穏な火の手
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「さーてと…情報収集しますか」
ルイは密かにほくそ笑んだ。そのルイの格好は普段の男装姿ではなかった。持ってきていた別の服に着替えたルイは顔バレしないように外套を身に纏う。そんなルイの濃紺色の髪は後ろで一つに結われており簪が付けられていたのだった。
ルイは薄暗い階段を降りて煙管の煙が充満する1軒の店の扉を開く。
カランと扉に付けられていた鈴が店内に鳴り響く。その音で一気に注目を浴びたルイは彼らの視線など気にもせずに堂々と凛とした立ちふるまいでカウンターに腰を下ろす。
「なんだ〜、嬢ちゃん1人か??」
カウンターに1人座った女が気になるのか既にアルコールを摂取している男がルイの隣にドカリと音を立てて座る。その彼にルイは机に頬杖すると彼を誘うように妖艶な笑みを浮かべるのだった。
「えぇ…
もしかして付き合ってくれるのかしら?」
外套の内側から覗き込む色っぽい翡翠色の眼差しがスゥッと細まる。ルイの眼差しにすっかり惹き込まれてしまったその男の心臓がドクリと跳ね上がった。そしてすっかりルイの虜になってしまった男は、彼女を射止めようと盛大に酒を振る舞い、ルイが尋ねた質問に対してペラペラと語りだすのだった。
「おぉ〜
そんな上玉の女、おめぇーにはもったいねーよ
席代われ」
そのドスが効いた声と同時にルイの隣にいた男は殴り飛ばされる。この店は火の部族、彩火の都の裏町の酒場だ。よってこんなのは日常茶飯事ということもあり店員も他の客も見て見ぬ振りだった。
「なぁ嬢ちゃん、そんな情報知ってどうする気だい?」
先程の男より図体が大きくなった男はドカリとルイの隣の空席になった椅子に座り込むとグッと彼女に顔を近づけて疑いの眼差しを向けた。どうやら目の前の彼は先程の男のように色仕掛けは聞かないらしいとルイはクスリと小さく笑った。
「その情報を私がどう使おうと貴方には関係ないでしょ?
違う??」
「あぁ確かにそうだな
じゃあ俺がアンタをどうしようと関係ねぇ〜よな?」
男はルイの言葉に言い返すと彼女の全身を舐め回すように見た。その視線と下衆な笑い声にルイは眉間に皺が寄り添うなるのを必死に堪えると、口元に笑みを浮かべた。
「あら?そっち目当て??」
ルイは愉しげな声を出しながら手元のコップを回して、中の透明な液体を口に含んだ。そしてルイはコップを机に置くと頬杖を突いた。そのお酒で濡れたルイの唇は色鮮やかに光沢を放つ。それを間近で見た男は、誘うように色っぽく不敵に笑うルイを見て無意識に喉を鳴らすのだった。
「楽しませてくれるのか?」
「お望みならば…
あ、でも私は高いわよ?」
おどけるように声を上げたルイは、誘うように男の頬をそっと撫でた。その誘いに乗るように男はルイの華奢な腰に腕を回して抱き寄せようと手を伸ばす。が、それは第3者によって遮られるのだった。
「美しくない手で触れないでくれるかな〜
僕の愛する相棒に…」
ガシッと腕を掴まれた男は顔を上げる。すると、白い外套を被った男の桔梗色の瞳がギラついていた。その外套からはみ出して見えるのは綺麗に映える深緑色の髪だった。飛び込んできたジェハは、内心ルイの行動に呆れながらも自分のものだと主張するように彼女の腰に手を回して抱き寄せ、目の前の男を睨みつけた。そのジェハの凍てつく殺気立った眼差しを向けられた男は、怯むことなく喧嘩腰に睨み返した。
「なんだぁ?知らねェ面だな。」
「あ、よせ。そいつは…」
一方で傍観していた1人の男が声を上げる。が、構うことなく彼は邪魔者を排除しようと殴りかかろうとする。その男の拳はジェハに当たることがなく、白髪の青年が持つ龍の掌で意図も簡単に受け止められてしまうのだった。
「てめェはすっこんでろ!!…いででででで!!」
「拳は振り上げない方がいい。
そなたの手をツブす事など容易いからな。」
「ヒイッ」
受け止めたキジャは手加減をしながら彼の手を握る。そのキジャに掴まれた場所から激痛が走った男は悲鳴を上げる。そして拳を振るのをやめると怯えながら尻尾巻いて逃げてしまった。鈴の音と共に外に出ていく男。その騒動を傍観していた者達は扉付近にいつの間にか外套を纏う一行がいることに気づきザワザワと騒ぎ始めた。
「なんだ、あの連中…」
「よせ。あいつらに手ェ出すな。
昨日から突然この彩火の裏町に現れたんだ。
何が目的か知らねェが彩火の兵士の情報を知りたがっている。
恐ろしく強ェ奴らなんだ。
あの真ん中の女に触ろうとした奴がいて、目に包帯した男に腕斬り落とされそうになったんだからよ。」
「それからあの濃紺髪の女に触れようと奴は緑髪の奴に蹴り飛ばされたらしいし、その女自体も言い寄ってくる奴から情報を得たら返り討ちにしているらしいぞ…」
ひそひそと小声で噂話を始める彼らを横目にヨナは間の抜けた声でルイを呼んだ。
「ルイ、どうだった??」
「彩火の兵に対する有力な情報は全くないね…」
ヤレヤレとルイは肩を竦めると、ポカンとしているユンの意識を確認しようと彼の目の前で手を横に振って見せた。
「ユン、どうかした??」
「ルイ、男なのに色気半端ないね…
仕草一つ一つにドキドキしちゃったよ」
「だから言ったろ?
僕に任せておいてって…」
「でも一歩間違えたら襲われてるからね…
だから次からは禁止ね」
淡々と抑揚がない声をユンは出した。確かにルイが豪語した通り、期待を裏切らない演技で凄いと思う。だが、誘うということは多少のリスクがある。いくらルイが慣れているとはいえユンはもうさせたくなかった。
「え…でも…」
「ユンの言う通りよ!ルイ」
胸張っていたルイは禁止と言い渡されてズドンと気分は急降下。専売特許の情報収集が一番彼らの役に自分がたてると思っていたからだ。そんな不服そうなルイにヨナが引導を渡すのだった。だが、それでも納得いっていないルイの表情を見て二人はグッと顔を近づけて強い口調で釘を刺すのだった。
「「わかった???」」
「………ハイ」
ジッと視線を逸らさずに見つめてくる二人の双眼に弱いルイは渋々と頷く。見事にお灸をすえられたルイの落ち込む様子に、ジェハは今にも吹き出しそうな笑いを必死に押し殺すのだった。自分のことを二の次にして危なっかしい行動をするルイにとっては良薬口に苦しだ。心配してジェハが口酸っぱく言うよりも一行の中で年下の二人のまっすぐな言葉のほうが反論できないルイにとって効果覿面でなのだから。
そして何か言いたげなジェハの視線に気づいたルイは俯いていた顔を上げてジト目を向けた。
「なんだよ…言いたいことがあるなら言ったらどうだい?」
「今にも襲われそうなルイを救ったのに一言もお礼がないなって思ってね…」
「別に助けを求めてないし、ジェハが来なくても返り討ちにしてたけど…」
「はぁ…素直じゃないなぁ…
怖かった~って僕に抱きついてきていいんだよ?」
「誰がそんなことするか、変態」
身振り手振り大げさな仕草をしたジェハをルイは軽蔑する眼差しを向けて言葉を吐き捨てた。その塩対応につれないなぁ~とジェハは桔梗色の瞳を細めると、ルイの肩に手を回して彼女の肩口に顔を乗せるのだった。
「ちょ…!?」
「ホッントにルイは僕を冷や冷やさせるよね…
これじゃあ心臓がいくつあっても足りないよ…
お願いだから僕の目が届くところにいて…」
驚くルイを他所にジェハは小さな声で彼女の耳元に囁くとすぐに彼女から離れた。ボソリと嘆かれたジェハの声色はおちゃらけている時のものでもなく、怒っている時のものでもなく、とても彼が発したとは思えないほど弱弱しいものだった。
耳元に感じる吐息と共に鼓膜を振動させた懇願するジェハの声に、ルイは反応するのが一歩遅れてしまった。慌てて真意を確認しようと顔を上げたルイの翡翠色の瞳に映るのは本心をすっかり裏に隠し普段通り飄々としているジェハだった。