千州千里村
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「水汲み手伝ってくれてありがとう~」
一先ず国境付近まで状況を確認しようという結論に達した彼らは、川まで水を汲みに行こうとする二人の女性を見つけた。その女性らにジェハがさっと手を差し伸べし天秤棒を担いだ。
「こんな重い物、女性には持たせられないよ。キレイな手が荒れてしまう。」
「そうそう
君たちは気にしないで今は素直に彼のご厚意に甘えればいいよ」
ジェハの言葉に相槌を打ったルイが女性たちに爽やかな笑みを向けた。そんな二人に対して後ろからついてくるように歩いていたユンが村の女性達に聞こえないようにヒソヒソと怪訝な表情を浮かべて声をかける。
「なんで連れて来ちゃったの。偵察しにくいじゃん。」
「困ってる女性を助けるのは世界の常識だよ、ユン君。」
「ジェハが彼女たちを巻きこんだのは正解だよ
紛れ込むことで部外者の僕達の印象は多少薄くなるから、ばれるリスクも軽減されて動きやすくなる」
偵察の一種の定石さ…
唄うようにルイは心配するユンに、この作戦が一番安全だと説き伏せた。だが、納得はしたものの連れてきたもう1人の人物の容姿に対してユンは苦言を零す。
「…
「あぁ…それに関してはノーコメント」
仮面を被り頭から毛皮を被るシンアはどうしても紛れるには不適任ではあると、ユンの的確な指摘にルイはここで初めて顔を引き攣らせて曖昧に答えた。
でも、それでも偵察にはシンアの
「まぁ、何か不穏な気配がしたら僕が察知するし
遠視できるシンアが気づくから
対して気にすることはないと思うよ」
「…まぁそれもそうだね!!」
ルイの言葉にユンはようやく緊張の糸をほぐした。そんなユンを見てルイはホッと胸を撫で下ろす。誰かしら強張った表情をしていたらそれは同行している2人の女性達に不安が伝染してしまう可能性があるからだ。だからこそ、紛れ込む中の偵察はできるだけ平然を装わないとならないのだ。
一方で2人の女性に挟まれて歩くジェハは彼女たちと他愛のない話を展開させていた。その中で、話は昨夜の祭りに切り替わる。
「それでね、アロがね昨夜から少し元気ないの。」
「ハクに突撃するとか言ってたのにもういいとか言っちゃって。」
アロを心配する2人の表情は憂いていた。その二人の言葉に耳を傾けながらルイはアロのことを思い浮かべた。倒れていたところを助けてもらったハクに対して本人にあしらわれながらも勢いままに猛アタックをしていた彼女のことだ。多少のことで諦めるような性格ではないだろう。
「それは心配だね…」
「…ハクと何かあったのかな?」
興味深けな話だと相槌を打ちながら二人は伺うようにヨナの表情を横目で確認した。だが、ヨナは全く話に耳を傾けておらず真剣な面持ちで真っ直ぐ前を見据えていた。
普段は年相応で可愛らしいヨナ。だが、時折見せる鋭い眼差しは王家の血を引き継いでいるのに相応しい風貌を覗かせていた。
そんな彼女の片鱗を何度か目の当たりにしてきた二人は、顔を見合わせて困ったように苦笑いを零した。
「ね、あの兵士達はいつ頃からここに?」
そんなルイとジェハの心情など知らないヨナは振り返ると村の女性達に些細な疑問をぶつけた。
「そうねぇ、いつ頃かしら。
数年前からたまに見かけたけど最近では頻繁にうろついてるわね。」
「あ、そこから先は国境だからあまり行かない方がいいわ。兵に見つかれば面倒よ。」
彼女たちの指摘で国境付近まで来たことを知る。そして今は大人しく従おうと一同は踵を返す。だが、この時不穏な気配をルイとシンアが感じ取った。
風を切るように駆け抜ける気配…
それも沢山…
「シンア…」
その正体は馬だと察知したルイはシンアと目配せをした。
「…ヨナ、下がって。馬が来る。」
「えっ」
突然のことでヨナは動揺を顔に出した。それは2人の女性も同様。ルイは即座に辺りを見渡す。すると直ぐ近くになんとか身を隠せるかつ馬を走らせる正体を探れる茂みを発見する。
「…ジェハ」
「任せて」
同時に同じ考えに行き着いたジェハとルイは目配せを行うと、ジェハは近くにいた女性たちを誘導する。そして、ルイはヨナとユンの手を掴み茂みに誘導した。
そしてなんとか馬が目の前を通過する前に身を隠せた一行は、覗き見るようにその正体を見た。
「高華国から入って来たよね。」
「でも火の部族の兵じゃないな。」
馬が通り過ぎていったのを確認するとゆっくりと茂みから立ち上がった。だが、今見た光景は謎を更に深まらせた。馬が入ってきたのは高華国サイド側。でも入ってきた馬に乗っていたのは火の部族の兵士ではなかったのだ。火の部族でないなら今通り過ぎたのは誰だと、難しい表情を浮かべる一行に対して、背後にいた村の女性達は不思議そうにキョトンと呆気にとられていた。その彼女たちの言葉により謎は解決される。
「あれは…千都のリ・ハザラ様だわ。」
「リ・ハザラ!?」
その名にユンは切羽詰まった表情を浮かべて振り返った。”リ・ハザラ”、それはこの千州を支配する豪族の名前だったのだ。
「えぇ…先頭の方を昔見た事あるから。」
「なんでそんな人が高華国から!?」
「さあ…」
「一体どうなってるんだ…?
北戎との国交が急に自由になったとは考えにくいんだけど…」
ユンが神妙な面持ちで通り過ぎて見えなくなったリ・ハザラの残像に視線をやった。
そのユンを横目に見ながら立ち上がったルイは、遠く高華国側に視線を飛ばした。
高華国側から吹き付ける冷たい風
その風に神経を尖らなせないと感じ取れない不穏なものを感じ取った。
渦巻く陰謀
それは今はまだ小さいものの確実にルイの胸をざわめつかせた。
「ヨナ…」
ルイは視線を前に向けながらヨナの名を小さく紡いだ。その声に、ルイと同様水面下でなにかが動き出していると悟ったヨナはルイの隣で立ち上がった。
「戻ろう、高華国へ。」
立ち上がったヨナが発したのはルイが言いたかった言葉だった。その言葉に小さく頷いた一行は急いで他の者と合流し、支度を済ませて元の道を辿って高華国へと戻った。そして、一同は情報が集まりそうな彩火の都に行くことに決めると、ユンとゼノ以外は少しでも目立たないようにと外套を羽織った。特に一番目立つシンアに対しては、本人には申し訳ないが仮面と毛皮を外してもらい、代わりに目元だけ白い布で覆うことで我慢してもらうことに。
そして彼らは、情報を集めるために彩火の都の裏街に足を踏み入れるのだった。