千州千里村
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「あれは……」
見晴らしい場所に着いたルイは驚きで目を見開いた。なぜならこの戎帝国にいるはずがない兵士が彷徨いていたからだ。
一体彼らはなんの目的があるのだろうかと難しい表情を浮かべるルイの背後から赤髪を揺らしながらヨナが駆け寄る。
「…ルイ!!」
「ヨナ…」
自分を呼ぶ声に思考を中断したルイが振り向いて彼女の名を紡いだ。ヨナはそのルイの隣に立つと遠くを見つめた。
「…千州の兵がいるの??」
「もっと驚くべき者がいるよ」
ヨナの言葉にルイは小さく首を横に振ると、先程兵を見た場所が見えるようにヨナを誘導するのだった。その時に遅れて追ってきたキジャとハクとシンアが到着する。
「姫様っ、偵察なら私が…」
「大丈夫、遠くから見るだけ。」
これ以上は近づかないと心配するキジャをヨナは一声で宥めた。それで大人しくなったキジャはヨナの背後に回る。同様にシンアはヨナの脇に立ち、ハクはキジャの隣に立った。その彼らにルイは顎で違和感満載の場所を示した。それに視線をやったヨナ達は、ルイと同様に瞳孔を開いて固まるのだった。一方ルイは、肩元に重たく伸し掛かるものを感じて顔を顰めた。
「…なにがいるんだい??」
「麗しき女性を守ってあげてなくていいのかい??」
「美しい女性からお願いされても
僕にだって優先したいことがあるからね…」
皮肉を混じえた辛辣なルイの言葉に腕を彼女の肩に回していたジェハは振り向いてくれないルイに困ったように眉を下げて答えた。その彼の言葉にルイは黙り込んだままジェハにもわかるようにある一点を指差した。その指の先をジェハは不思議そうに目をやる。そしてそこにいる兵を見ると真剣な面持ちを浮かべた。
「ヨナ、ルイ、あれは…」
「あいつらは…」
「ヨナーッ!!」
信じられないと一同が絶句する中、明るいユンの声が響く。その声に一同は目をやるとユンが大事そうに袋を抱えて駆け寄ってきていた。嬉しそうに頬を緩ますユンにヨナは切羽詰まった声で事情を伝えようとする。が、興奮しているユンはヨナの言葉を遮り上ずった声を上げた。
「ユン…!あのね、大変なの。」
「聞いて聞いて!!イザの実もらったんだ!」
ユンは抱えていた袋から貰ったイザの実を取り出してみせた。それにすっかり緊急事態なのも忘れてヨナは手を叩いて喜んだ。
「えーっ、ホント!?すごーい!!」
「ねーっ、すごいでしょ。おじいさんがすっごいいいおじいさんでね。
ヨナの舞も村の人気に入ってくれたみたいでねっ」
誰よりも早く起床したユンは、昨日のおじさんに呼び止められていたのだ。祭りではしゃぎすぎて昨夜倒れたおじさんは、ユンが調合した薬草のお礼を言いに彼を探していたのだ。ようやく見つけたユンにおじさんが渡したのは袋一杯のイザの実だった。貴重な薬草を惜しげなく使ってくれたユンに対するささやかな礼だと微笑むおじさんに、ユンは目に涙を溜めた。
ほんの少しといったが、全くそんなことはない
分けてくれた袋いっぱいのイザの実がこの村ではどれほど貴重なものだろうか?
それを素性も知らない自分たちに理由を聞かずに与えてくれたおじさんにユンの胸は感謝の気持ちで一杯になった。
「わぁっ、良かった~」
舞が好評だったことにヨナは良かったと胸を撫で下ろし喜ぶ。そしてこの場で場違いなほど、互いにはしゃぎだすヨナとユン。そんな彼らの口をルイとハクがそれぞれ塞いだ。ユンは自分の口を塞ぐルイを不思議そうに見上げる。そりゃあそうだ。ユンは今来たばかりなのだから。一方のヨナはそうだったと今の状況を思い出し、ハクの手に自分の手を添えていた。事情を知らないユンにルイの背後にいたジェハとヨナの口を塞いでいたハクが難しい表情を浮かべながら声をかける。
「共に祝杯をあげたいとこだけど。」
「今はちょっと静かにするよーに。」
「何?」
「実はさ…」
ルイは落ち着きを取り戻したユンを解放し、ある一点を指差す。その指に誘われてユンはその方向に目をやると驚いたように声を上げた。
「火の部族の兵…!?どうしてやつらが戒帝国に!?」
一行の視界に入ったのは火の部族の兵士達だったのだ。ここが火の部族領だったら彼らが彷徨いているのも頷ける。だが、今いる場所は敵国の戎帝国なのだ。
「しかもよくうろついてるらしいの
私、てっきり戎帝国の兵が来ているのかと…」
「前に火の部族長が他国から武器を買っているという噂は耳にしたが。」
「しかし、こんなに堂々と敵国に我が国の兵が
神妙な面持ちで一同は火の部族の兵士を見下ろした。その中でジェハがこの一行の参謀に問いかける。
「どうする?」
「国境のユルい警備といい気になるね。少し調べてみようか。」
ジェハの問いに真剣な面持ちをしていたユンが静かに答えた。そして一行はユンの言葉に小さく頷き偵察を開始するのだった。