日が落ちたと同時に、村の中央に設置された場所に火がつけられる。その火はメラメラと燃え上がり、暗くなった村を明るく照らした。

その炎を前に村の人はたたえるように頭を下げる。そして、村の女性は踊り、それを横目に村人たちはお酒を嗜んだ。

その光景を微笑ましげに見ながら、ルイとジェハは目を合わせタイミングを確認し合うと笛を吹き、綺麗な音色を村一帯に響き渡らせるのだった。

　〜♫〜〜♪〜〜

その綺麗な笛音の二重奏に踊っていた村の女性はパッとその音の方に振り向き、二人の笛を吹く様子に魅了されていた。

まるで笛を奏でる二人は額縁に入れられた絵画のよう

普段ならお目にかかれない若いイケメンの青年達は、振り向いた彼女たちに笛を吹きながら片目を瞑って見せて甘い視線を送る。その翡翠色と桔梗色の眼差しに射すくめられた女性はキャッキャと黄色い歓声を上げた。

両者とも人当たりがよく聞き上手で物腰が低く口が達者だ

女性に対して紳士で気遣う素振りを見せる彼らはまさしくどこかの高貴な貴族のよう

内面だけでも十分魅力的なのに、彼らの容姿端麗な姿は女性たちの心を鷲掴みにする

どちらも艷やかで長い髪

その髪は中央で燃え上がる炎に照らされ綺羅びやかに輝いていた

そして、高身長で深緑髪を橙色の紐で結いている青年も

平均的な身長ながらも濃紺色の髪を右肩に流し薄紫色の紐で結いている青年も

抑えきれない色気を醸し出していた

そんな二人による息のあった笛の二重奏

こんなのを間近で見てしまったら惚れないわけがないのだ。彼らの醸すオーラに酔いしれた女性たちは、ヒソヒソとやれどっちがいいだのと語りだす。そんな彼らの言葉など聞こえないジェハとルイは村の演奏者と混じり演奏を続けた。

徐々に会場は熱気で包まれる。その熱気に後押しされるように二人の演奏にも力が入った。そして村人たちモチベーションが最高潮に達した時、村の中央に綺麗に着飾った踊り子が静かに舞い降りた。その踊り子…ヨナが持っていたのは扇ではなく古びた錆びている剣だった。

ヨナの姿に村人たちはざわめき立つ。

花嫁衣装の踊り子は一体どのような剣の舞を見せてくれるのだろうか？

一瞬で全員の視線を自分の元に向けたヨナは堂々と剣を振り回し、踊り始めた。

その彼女の踊りに合わせるようにジェハとルイは目配せをし笛を奏でた。

力強い剣の舞

だがそれに反してヨナの表情は哀愁が籠もっていた

争いを鼓舞するのではなく

国と国の戦に巻き込まれ戦火で散っていった魂への鎮魂

土地を奪われた火の部族の怒りを鎮める

この村が二度と理不尽な戦に巻き込まれないようにと

過去の戦に胸を痛め悲しみに満ちた剣の舞姫が祈りを捧げる舞に見えたのだ。

その舞に合わせるように二人は力強さを残しつつも優しくありつつもその裏に切ないものを滲ませた音色を響かせた。

その音色に、剣の舞に一同は魅了された。

炎でところどころ照らされるヨナの慈愛に満ちた表情は誰が見てもとても綺麗だったのだ。

*****

ヨナによる舞が終わると同時に沸き起こる喝采。それとともに役目を終えたヨナは1人静かに落ち着ける場所に移動した。

ルイはただヨナが舞っていた虚空の場所をぼんやりと感傷に浸るように見つめていた。それは隣りにいたジェハも同様だった。

まるで祭りの騒音から一角だけ切り離された別空間にいるかのように二人は言葉を交わすことなく佇んでいた。そんな彼らは、駆け寄ってきたユンの声で現実に引き戻された。

「ジェハ！！ルイ！！」

ハッと正気に戻った二人はユンに視線を向ける。そんな彼らの視界に入ったのは、お椀を2つ持つユンだった。

「ハイ！
イザの実の団子汁だよ」

ヨナの舞が認められ部外者のユン達にも振る舞われたのだ。嬉しそうなユンの表情に二人は釣られるように頬を緩ました。

「ユンはもう食べたのかい？？」

「ううん…
おじさんを手伝ってたからまだ」

「ユン君の手が空いてるなら一緒に食べるかい？」

二人の申し出にユンは大きく頷くと急いで自分用のを持って戻ってくるのだった。

「「「美味しい」」」

一口含んだ3人は口の中に広がるほんのりと甘い味に舌鼓を打った。

「…使えそうだね、ユン」

「水がなくても痩せた土地でも育つから、あそこで育てるにはピッタリだね」

二人の言葉にユンは大きく頷いた。
過酷な環境で育てる作物として申し分がない。このイザの実は採用だ。
だったら、次自分がやるのは頭を下げて少しずつこの実を分け与えてもらうことだ。

意気揚々と張り切るユンは汁を飲み干すとおじさんの手伝いをしに戻った。そんなユンを見送るとルイは再び笛を持ち直した。すると、タイミングを見計らっていたかのように村の女性たちが駆け寄ってきた。

「ねぇ！もっと聞かせて！！」

縋るように声を発する彼女たちを見て、二人は妖艶の笑みを浮かべた。

「こんな美しい君たちの頼みを断るわけないじゃないか」

「ほら？もっとコッチにおいで」

その二人の甘い誘惑のある一声で一気に二人の周囲は賑やかになった。

「じゃあ折角来てくれたから
僕たち二人ならではの息のあった曲を披露しよう」

「是非僕たちの笛音に酔いしれてって」

集まってくれた彼女たちに向け艶気を含んだ声を発することで、二人は周囲に流れる空気を一瞬で変え彼女たちを鎮ませて雰囲気に呑ませた。その彼女たちの熱が籠もった視線を一心に浴びた二人は再び綺麗な音色を響かせるのだった。