千州千里村
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「ねぇ?この村には武器屋はある??」
「なあに武器屋探してるの?ここにはないけどぉ♡」
「明日大きな町に一緒に行ってあげる♡」
「いや、ならいーわ。」
「ちょっと待った。ハク」
武器屋はこの村にはないと知ったハクは興味が薄れ皆の場所に戻ろうとする。が、ルイが彼の腕を掴み待ったをかけた。そしてルイは群がる村の女性に爽やかな笑みを浮かべる。
「ねぇ?この村ではどんな作物を作ってるんだい??」
「あら?気になる??」
「とても!
もしよかったら教えて欲しいなぁ」
「イザという穀物よ」
笑みを絶やさずにお願いするルイに村の女性はイザについて話し出した。イザというのは、この村よりもさらに北の土地から渡ってきた穀物であり、粉にして団子にしたり焼いて食べることができ稲ほど水を必要とせず保存もきく穀物だそうだ。
「へぇ~そうなんだ」
「今日の火鎮めの祭りでイザの実の団子汁が振舞われるからぜひ食べてって!」
「それ美味しいのか??」
ハクが呟いた言葉に村の女性は即座に反応する。
「美味しいわよ!!」
「へぇ~、それは楽しみだね
じゃ、その火鎮め祭りの興りは一体なんなんだい??」
イザという穀物の情報を得たルイは次に今日の夜に行われる祭りについて尋ねた。
「お兄さん、知りたがりね!」
「折角招待してくれた祭りなんだからしっかり知っときたいんだ
ねぇ?ハク」
「俺は別に…」
ルイはハクに同意を求めるが、ハク自身は興味なく早くこの場を立ち去りたい思いだった。が、ルイがそれを許さず、もの言いたげな目を向けて無言の圧力を与えた。そのルイの眼差しにハクはビクリと顔を引き攣らせ、半笑いした。
「お…俺もやっぱり知りたいな」
「あら?そこまで知りたいなら教えてあげる!!」
ルイに加えてハクも加わったおかげで、ルイは火鎮めの祭りについての情報を得ることに成功する。
その昔ここ、千里村はジュナム王国時代に高華国と戒帝国の領土争いで、戦に巻き込まれたのだ。その時は大きな村だったが戦火の炎により村のたくさんの家と人が焼かれてしまったのだ。こういった経緯からこの祭りは、亡くなった人の魂と戦火の炎・火の部族の怒りを鎮めるという意味が込められて名づけられた。そして二度とこの村が戦に巻き込まれないようにと言う願いを込めて毎年この祭りが行われているのだ。
「そうなんだ…
そんな村にとって大切な祭りに僕ら部外者が招待されていいのかい??」
「貴方達なら大歓迎よ!!」
そんなに深い意味合いが込められているのかと詠嘆するルイは、ただ参加するだけでなく何かできることはないかと考え始める。それを伝えると一人の女性が声を上げる。
「そういえば、貴方達旅芸人なのよね!!
楽器はできる??」
「笛とか二胡なら…」
「じゃあ、笛を吹いてくれない??」
「それならもう1人の仲間とやらせてもらうよ」
女性の申し出にそれだとルイは承諾する。そしてちゃっかりとこの場にいない者を巻き込むのだった。
「あら?そのもう1人って誰??」
「背の高い緑髪の人だよ」
「あら?あの人も笛が吹けるのね!!
イケメンなうえに笛も吹けるなんて…」
外見をざっくばらんと説明したルイの話したもう一人の人物に対して別の1人の女性が反応を示す。目を輝かせて、想像力を膨らませたのか目をうっとりとさせる女性はその彼がタイプだと言い出す。その女性の一声に対して白髪の彼がいいだの、黒髪の彼がいいだの、と周囲にいた女性達は一行の男性陣の中でお気に入りの人物について語り始める。そんな彼女達の元気の良い女子トークにハクとルイは、若干引き気味に。
「大丈夫よ!私はお兄さんがタイプだから!!」
「あ…ありがと…お嬢さん」
ずっとルイの質問に答えてくれていた一人の女性はルイに振り向き笑顔を振りまく。それにルイは表面上笑みを作り答えると、もうこの場から去るべきだとハクを連れて逃げるように離れるのだった。
「…慣れてるんだな」
「まぁこうやって情報を得るのが手っ取り早いからね」
皆の場所に戻りながらハクがポツリと心の声を漏らした。それにルイは苦笑いしながら答えた。でもこんなに元気いっぱいの女性陣とやり取りするのは流石に緊張したとルイはハクに心情を話した。
「…だから俺を巻き込んだのかよ」
「ハク、一番人気に見えたから」
「そういうお前もな…」
女なのになぁとボヤくハクにルイは言うなと彼の脇腹を小突いた。
「まぁそれ言ったらタレ目だってそうだろ
それに俺と違ってこの状況を楽しんでたしな…」
「………そうだね」
「ルイ、どうした??浮かない顔して」
ハクは先ほどの状況を思い出し遠い目をする。そのハクの言葉に対してルイは曖昧に相槌をした。そのルイに違和感を覚えたハクはルイの顔を不思議そうに覗き込んだ。対してルイはハクに指摘されるまで自覚しておらず、えっ…と目を見開いた。
「そんなにヤバい表情してた??」
「してたしてた!!
で?何考えてたんだ??」
ルイを軽く笑い飛ばすとハクは真剣な面持ちを浮かべてルイを見た。そのハクにルイは纏まらない心情を語り始めた。
「なんかモヤモヤすんだよね…」
「モヤモヤ???」
「女の人に囲まれて黄色い声を上げられてチヤホヤされることも、それに本人が嬉しそうに対応することも…
見慣れている光景なのに…
なんかいつもの冷静な自分で見てられないというか…」
ごもごもと尻すぼみに喋るルイに、ハクは大きく目を見開いた。その表情にハクならこの気持ちの正体がわかるのではないかとルイは詰め寄った。
「この気持ちは一体何だと思う??ハク」
「俺に聞くな!!俺に!!」
「絶対知ってるでしょ!!」
「俺の口からは何も言えねぇ!!」
言ったら逆にアイツに殺されるとハクは内心思いながらルイの追求をのらりくらりとかわすのだった。
ルイの心情が変化しているのに気づいたハクに対してジェハはヨナの心情に多少の変化が起こっていることに勘付く。
村の女性達から慣れていないキジャとシンアを連れて場を移動したジェハはもちろんこの状況を楽しんでいた。そして疲れ切っているキジャやシンアに茶々を入れていたジェハだが、ずっと黙り込んだまま頬杖するヨナに気づいたのだ。彼女が見ている先にいるのはハクだ。どうしたのかとジェハが尋ねるとヨナは視線をハクにやったまま「ハクって意外とモテるのね」と漏らしたのだ。その言葉にジェハは驚きながらもヨナに声をかける。
「…意外とも何もハクはモテるだろ。」
「そうなの?」
「美しい僕から見てもハクはイイと思うな。
僕が女なら絶対突撃するね。」
「突撃はよせ…」
振り向いたヨナにジェハがハクについて語りだす。その彼の発したワードに対してキジャがボソッと小さな声でツッコミを入れた。対して、彼の言葉を聞きながらヨナは城にいた頃の事を思い出していた。
「そういえば城にいた頃、女官達がキャーキャー言ってたような気がする。
風牙の都でも周りに女の子いっぱいいたし…」
そんなヨナのいつもと違う様子にジェハは深く切り込みを入れた。
「妬いてるの?」
「え?」
「ヤキモチなのかなって…」
「ううん。」
だが、ジェハの予想に反してヨナは迷うことなく即座に首を横に振る。ヨナが迷いもなくヤキモチではないと認めてしまった事にジェハはハクに同情の念を抱くのだった。だが、少なからずヨナ自身の心情が本人が自覚していないだけで変化しているのではないかとジェハは考えるのだった。
でもそういうのが目に入るって事は少しはハクを気にし始めたって事かな…?
「ねぇ!ジェハとルイってどっちがモテるの??」
もうこの話がヨナの中では終わっていたらしく彼女が純粋に興味本位でジェハに尋ねた。その問いにジェハは不意打ちを喰らってしまう。そもそもそんなこと考えたことがないからだ。
「ど…どっちだろうね…
恐らく僕だと思うけど…」
愛想笑いしながらジェハは言葉を濁した。だってルイは男装しているだけで本当は女なのだ。これは比べる以前の問題だ。だが、ヨナはその事実を知らないからこの光景を見てふと疑問を抱いたのだろう。
「そうなの??
私だったらルイがいいけど?」
「え…
それはそれで僕傷ついちゃうんだけど…」
「だってジェハは優しいけど時々意地悪に揶揄ってくるじゃない?
でもルイは優しいうえに真摯に相談に乗ってくれるわ!」
ヨナ本人からしたら悪意を込めていないのだろう。が、この真っ直ぐなヨナの言葉にジェハは半笑いしながらも心の中で滝のように涙を流すのだった。