数日歩いてヨナ達一行は戒帝国の村近くへやってきた。奥には山脈が広がる殺風景な景色の中、ポツンとある小さい村が見えてきた。

「小さな集落があるわね」

少し高い位置で村があるのを確認していた一行。その中でシンアが何か見つけたのか隣りにいるヨナに声をかけた。

「ヨナ…人が倒れてる。」

「えっ、大変！」

シンアが見つけたのは村へ行く道端で倒れている女性だった。その一声で一同は慌てて彼女の元へ駆け出した。そして倒れている彼女を一番早く辿り着いたハクが声をかけて抱き起こす。

「おいあんた、大丈夫か？」

ハクが彼女の身体を揺り動かす。するとその女性は意識を取り戻したのか薄っすらと閉じていた瞼を開けた。目を開けた女性は、視界一杯に映る端正な顔立ちの男の姿に一気に頭を覚醒させた。

「ん…えっやだ！誰！？超イイ男！！」

「…元気そうだな。」

女性は一気に上半身を起こすとハクを見つめて黄色い声を上げ口元を押さえた。先程まで倒れていたとは思えない元気そうな女性の様子にハクは拍子抜けする。そんな女性の周りに他の面々も遅れて到着すると、心配そうに彼女に声を掛けていく。この時既にユンの密かな企みが崩れ去るのだった。

「大丈夫？」

女性の視界の右サイドでは、外套を被り頭上にリスのアオを連れたヨナが腰を屈めて覗き込む。

「気分が優れぬのか？」

ヨナの右隣にはキジャ。

「娘さん、ビワ食べる？
元気でるから〜」

女性の視界の中央には、屈託のない弾ける笑みを浮かべるゼノが覗き込む。その右背後には声を掛けないもののシンアが立つ。

「立ち上がれますか？？」

「美しいお嬢さん、僕が抱いて運んであげよう。」

そして女性の視界の左サイドでは、膝立ちして目尻を下げて彼女に手を差し出すルイと、同様に膝立ちしてニッコリと笑みを浮かべるジェハがいた。
そんな彼らをゆっくりと見渡した女性は嬉しさを滲ませながらも感じる異様感をズバリ指摘する。

「何この連中、美形だらけ。でも変！！」

まずは少人数で偵察に行く予定だったユンはその光景に苦笑しながら、自分たちのことをどう名乗ろうかと言葉を濁らせた。

「えーっと俺達は…」

「わかった、旅芸人ね！」

「違…」

「そうそう！それだ！旅芸人☆」

ルイは咄嗟に否定しようとするキジャの口を塞ぎ、ユンは笑顔で答える。キジャが驚きながらも耳打ちする。

「誰が芸人だ。」

「このメンバーを一括りするにはこれが一番手っ取り早い」

「そうそう
これ以外に珍獣達を説明する術がないの」

不服だと主張するキジャをルイとユンは二人がかりで宥めるのだった。

「気分が悪いなら薬あるよ」

「大丈夫、朝から力仕事ばかりで少し立ちくらみしただけだから」

ユンが彼女に近づき薬を差し出そうとするが、女性はやんわりと断りを入れて、まだふらつく感覚があるのか米上に手を当てた。そんな彼女にジェハが疑問を口にした。

「力仕事？君みたいなか弱い女の子が…」

「若い男は殆ど兵役に就くため千の都に行ってるのよ。」

そう呆気からんと答えると女性は立ち上がった。その言葉にどこも同じだとユンを筆頭に表情を曇らせるが、彼女は全く憂いている感じではなかった。

「でも…
たまにやって来る旅の人がこんなにイイ男なんて田舎も捨てたもんじゃないわー」

頬を染め嬉しそうにはしゃぐ彼女の纏う空気はピンク色。そんな彼女を見て、しかし…明るい！？と目を点にするのだった。
呆気にとられる一同の前でとても元気で明るい女性はアロと名乗った。そしてこの近くの集落に住んでいるアロはハク達にある提案をするのだった。

「ねぇ、旅芸人さん。ウチの村に寄ってって。
今夜は特別な日なの。」

「特別？」

「今夜は千里村で火鎮の祭が行われるのよ。」

彼女に案内されてヨナ達は村に足を踏み入れた。もちろん出迎えてくれるのは若い女性ばかり。一気に彼女たちはハク達男性陣を取り囲んだ。

「アロ！誰、その人達？」

「いい男じゃない～」

「でっしょー旅芸人なんだって。
この人が倒れてた私を抱き起こしてくれたの♡」

「キャー、なにそれ。ずるーい。」

その中でアロは大変ハクのことを気に入ったらしく、自慢するようにハクの腕に抱きついた。そのアロに他の女性達が羨ましそうに声を上げる。そして彼女たちは、急に現れたイケメン集団にグイグイと我先と質問をぶつける。

「どこから来たの？」

「秘密♡」

「キャァ！！貴方すっごくタイプ」

「ホント？それは僕としても凄く嬉しいな」

「こんなに肌が綺麗な男（ひと）見た事ない。」

「いいじゃない、顔見せてよー」

「可愛いわねーっ」

「娘さんのが可愛いから。」

だが、女性陣に囲まれた彼らの反応は2極化。女性に慣れてないキジャと他の人とあまり接しないシンアは顔を引き攣らせて助けを求めるようにキョロキョロ。元々女性に囲まれることが好きなジェハは楽しげに1人ずつに対応。ルイはこういう展開が慣れているのか1人ずつに丁寧に優しい声をかけていた。そしてゼノはブレることなく満面の笑みで接するのだった。

「なんか元気だね
この土地の人…」

「うん…」

その光景を遠巻きに見ていたユンとヨナはあまりの彼女たちの積極すぎる行動に若干引き気味に。そしてそれを隠すことができず心情が表情に表れ、二人は顔を引き攣らせるのだった。