その刃が届く前に/揺れる道中
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「はあっ!」
ヨナが手に持つ木刀を勢いよく振り下ろす。その木刀は対峙するハクが持つ木刀とガツッとぶつかりあう。だが、二人の表情は真逆。飄々と受け流し押し込もうとするハクに対して、ジリジリと力を込めているはずのヨナは険しい表情を浮かべて押されていた。
「く…」
歯を食いしばるヨナだが、次のハクの一振りによりキィンという音と共にヨナの持つ木刀は弾かれてしまう。その木刀はヨナの近くの地面に突き刺さった。ヨナは張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、はぁはぁと息を荒げながら疲れて地面に膝をついた。
「今日はこの辺にしておきましょうか、姫さん」
「ま…まだまだぁ!!」
ヨナが近くにある木刀を取って再びハクに向かおうとする。が、ハクが当然許すわけがなく飛び込んできたヨナの頭に拳をポカっと優しくぶつけるのだった。
「終わりだっつの」
そのハクの制止にヨナは不貞腐れながらも渋々頷く。そしてヨナとハクは仲間たちの元へと戻る。その道中に漂うのは食欲をそそられる料理の匂い。その匂いを感じるのと同時に二人は小腹がすいているのを認識するのだった。
「ひっ、姫様!!そのお姿は…っ」
姿を現したヨナにキジャが驚きの声を上げる。が、当の本人は気にする素振りを見せなかった。
「あー、お腹すいちゃった」
「ユン君ごはんー」
「ちょっと!俺はあんたらのお母さんじゃないよ。」
「わーっ、ごはんー」
ユンがツッコミを入れている中、ルイは彼が作った料理を取り分けていく。その最中キジャがハクにヨナの姿に対して追求する。が、ハクはキジャの追求に対して対して気にすることなくお椀に入れられた料理に手を伸ばすのだった。
「ハクっ、姫様に何を…っ」
「あ?稽古だよ。知ってるだろ。」
「あぁ…それよりハク!姫様がお怪我をされているではないか。そなたまさか…」
「ヨナ、こっち向いて。傷薬塗るから」
キジャが叫んでいるなか、ユンは気にせずに食事を取るヨナの頬に傷薬を塗り始める。
一方でキジャがワナワナと怒りで身体を震わせる。そんな彼の怒りを助長するかのように眺めていたゼノが口を挟む。
「娘さん、兄ちゃんの剣受け止めきれずに吹っ飛んだり蹴られそうになったりしてるもんな」
「蹴…」
「蹴ってねェよ」
その言葉に絶句するキジャにすぐさまハクが言葉の誤りを訂正する。そのやり取りにヨナが口を挟む。
「蹴っていいのに。強くなる為の稽古だもの。
本気でやらなきゃ意味ないわ。」
「本気…っ!?
そなた本気で姫様に攻撃を…っ」
「キジャは真に受けすぎ」
「ルイの言うとおりだよ、キジャ君。
ハクが本気で相手したらヨナちゃんは即死だよ。」
「即死…!」
目眩を感じくらっとするキジャの椀から料理をハクとジェハが狙う。だが、その殺気に気づいたキジャが身を挺して料理を死守する。そして死守してホッとするのも束の間、キジャの肩に乗っていたアオが食べてしまうのだった。そんなキジャを気の毒に思いながらルイは彼のお椀に料理を入れ直す。一方でジッとルイの手元に視線をやる二人に気づきルイは小さく笑った。
「おかわりいる人〜」
ハクとジェハがその声に迷わず同時に椀をルイに差し出す。その息ピッタリなやり取りにルイは笑いながら1人ずつのお椀を受け取るとそれぞれに料理をよそうのだった。
「ユンの行き先が決まるまで力つけとこうと思って」
「ごめん、今検討中」
一方でヨナとユンは次の行き先について話し合っていた。
「ジェハに乗って周辺の土地の調査に行ってるところ」
「僕は馬か」
「まぁ移動の手段としてはうってつけだよね」
げんなりとするジェハのツッコミに対して、ルイが小さく軽笑いした。
「目星はつけてるけど少しややこしくてすぐに移動出来ないんだ」
「じゃあハク
「……了解」
ハクがヨナの言葉に了承する。そのやり取りにルイが微笑みながら口を挟む。
「ヨナ、弓やるかい?」
「うん、お願い」
「ハク
ハク、姫様にもしもの事があったら…」
「うっせ、白蛇。ビワでも食ってろ。」
ヨナに対して極度の過保護なキジャが喚く。そんな五月蠅いキジャの口を封じようとハクはすかさず持っていたビワを突っ込んだ。瞬間に感じる美味しさにキジャは美味と目を輝かせ、大人しくなる。
「まあまあ、キジャ君。
察してあげなよ、ハク
愛するヨナちゃんに訓練とはいえ刃を向けなきゃいけな…」
いつものようにフォローを混じえつつ冷やかしを入れるのを忘れないジェハ。だが、彼の言葉を遮るようにハクは凍てつく殺気を纏わせて瞬間的に立ち上がり手に持った大刀を彼めがけて振り下ろす。それをへらっと笑いながらジェハは難なく座ったままの体勢のまま右脚だけで受け止める。
「よく喋る口だな。引き裂いてやろうか」
「んー?何か間違った事言ったかな」
軽口を叩きあう二人はピリピリとした殺気を纏わせ対峙する相手を見る。そんな彼らに対して不思議そうにヨナが声をかける。
「どうしたの、ケンカ?」
「気にすんな。姫さんは今からそこで素振り百回」
「えっ、今から!?」
「ルイに見てもらってください」
自分たちのやり取りから注意を逸らせようとハクがヨナに指示を飛ばす。急な指示に戸惑うヨナを横目にハクはルイを巻きこんだ。
「なにそれ?僕完全にとばっちりじゃないか。
まぁいいけど…」
二人のやり取りに巻き込まれたルイは呆れながらハクが持っていた木刀を手に取る。
「ヨナ、せっかくだから対人練習しようか」
そして困ったように眉を顰めながらルイはごく自然にこの場からヨナを離れさせるのだった。対してこの場に残った二人は対峙したまま。ヨナの姿が消えたのを確認するとジェハがおもむろに口火を切る。
「まどろっこしいなぁ、早く伝えればいいのに」
「てめェが伝えよーとすんな、変態タレ目」
「“愛する”は認めるんだ」
「年下おちょくるのはやめてもらえませんかね、お兄さん」
「素直になりなよー」
「素直とかそーゆー話じゃねーんだよ。
色々あんだよ、こっちにも。」
「そんな悠長にしてるとお兄さんが奪ってしまうよ。」
そのジェハの言葉にハクはピクリと眉を動かす。が、このまま黙ってるはずがなくハクは即座にニヤリと凶悪な笑みを浮かべてしっぺ返しをするのだった。
「それそっくりそのままお返ししてやるよ、お兄さん
高括ってると俺が掻っ攫うぜ」
その言葉に今度はジェハがピクリと眉を動かした。
「…その冗談は聞き捨てならないな」
「冗談じゃねーぜ。
俺結構アイツのこと気に入ってるしな」
最初はただジェハがハクをおちょくっている展開が、ハクの一言をきっかけに地を這うような低い声での舌戦が繰り広げ始められる。手は出ていないものの、今にも大喧嘩をおっぱじめそうな勢いの二人の小競り合いにユンが悲鳴に似た声を上げるのだった。
「やめてよ。
集団生活にそういうややこしい持ち込むの~。
メンドクサイよ~」
面倒くさいという顔を浮かべながらユンが口を開く。しかし内心ではハクの言っていることを理解できなかった。ハクがヨナに対して抱いている感情は知っている。だから、ジェハの冷やかしは理解できる。でも、女好きのジェハが誰にも盗られたくないと思うほどの特定の感情を抱く相手がいる、そしてそれが誰なのかをハクは周知している。そのことにユンは違和感を抱いた。
一体誰なのだろうか??
首を捻るユンがこのことを把握するのはだいぶ先であった。