次男坊の改心
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「ヨナ…ヨナったら無理だよ。」
「姫さん、生まれたての子鹿みたいですよ。」
「姫様、やはり私が。」
「へいき…力…つけなきゃだし、一杯でも多く水必要でしょ…」
次の日、天秤棒を使ってとある村に水を運んでいた。ユンは食料を積んだ荷台を引っ張り、ルイとハクとキジャとヨナは水を。その道中、一同が心配するのはヨナだった。両方の桶に一杯の水が汲まれている天秤棒はとても重く、それを右肩に担いでいるヨナはガクガクと身体を震わせていた。それでもヨナは必死にその重たい水を運ぶ足を止めなかった。そのヨナの姿に誰も手を貸そうとする野暮なことはできなかった。
「ヨナ姫ェ〜〜」
そのとき馬の足音と一緒にヨナを呼ぶテジュンの声が聞こえてくる。そして5人の前で止まったテジュンは嬉しそうに晴れやかな表情を浮かべていた。
「こんな所でお会い出来るなんて運命的ですね
せっかくですから私の馬で遠乗りにでも・・・」
モジモジとしながら発するテジュンの言葉にハクが無表情でキジャに指示を出す。
「白蛇、引きずり下ろせ。」
「うむ。」
頷いたキジャが右手を大きくしテジュンの頭を鷲掴みに。途端にテジュンの悲鳴が響き渡った。その光景を笑ってみていたヨナがテジュンに声をかける。
「テジュン、丁度良かった。一緒に来て。」
「はいっ、勿論。お荷物お持ちしますっ」
もちろんテジュンがヨナの申し出を断るわけがなく。嬉しそうに即答する。その一声に対してハク達が満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、助かるよ」
「そうか、頼むわ。」
「やった、荷馬車にしちゃお」
「誰が貴様らのを持つと言った!?」
彼らの一声にテジュンがヨナに向けた表情と一変させて顔を顰めて声荒げてツッコミを入れるのだった。
そしてテジュンを一行に加えた彼らはとある村に到着する。その光景を目の当たりにしたテジュンは呆気にとられてしまった。なぜならこの村は加淡村に比べて明らかに廃れていたからだ。村にあるのは今にも倒壊してしまいそうなボロボロの家。そしてポツポツと外にいる村人の服装は酷いもので彼らの目も虚ろ。また、この一帯からは異臭が漂っていた。
「皆ー
水持ってきたよ」
初体験のテジュンの横でヨナが明るい声を上げる。そしてその声に反応して1人の村人が近づいてきた。
「うぅ・・み、水を」
「ひ・・っ」
テジュンは背後に聞こえる呻き声にハッと後ろを振り返る。するとそこにいたのは包帯を頭に巻いていて右目しか見えない老人。フラフラで掠れた声を上げる老人はまるでゾンビのように見えてテジュンはビクッと身体を強張らせて思わず後ずさりしようとする。が、そのテジュンの行動を留めるようにヨナがそっとテジュンの手を取るのだった。ヨナはちゃんと直視してもらいたかったのだ、この現実を。この村も紛れもなく火の部族領の一つの村なのだから。
手を一瞬でも触れられたテジュンはドキッとする。が、ヨナはすぐにテジュンから手を離すと座り込んでしまった老人に水を手渡すのだった。ゴホゴホと咳き込む老人を労りながらヨナはゆっくりと水を飲むように促した。
「今お湯を沸かしてるから後で体洗いましょ」
優しく老人に語りかけるヨナの姿をテジュンは神妙な面持ちで見守っていた。その様子を横目に見ながらユンとハクは持ってきた食事を作り、ルイとキジャは持ってきた水を沸かしていく。
「お坊ちゃんにはキツかったかな?」
水を沸かし終えたルイはテジュンの隣に立ち、彼を伺うように言葉を投げかけた。首都で何も不自由なく暮らしてきた彼にとっては予想を遥かに上回る光景に違いない。でも、彼は加淡村やこの村の現状を目の当たりにして少しずつ変わりつつある。
「でもこの光景は火の部族領では珍しくないんだよ」
だからこそルイは敢えて突き放すような冷たい一声をテジュンに向けた。賊として活動している自分たちが出来る事なんて限られている。もし、彼が彼の持っている権力をふんだんに利用してくれればこの現状は変わるかも知れないのだ。
冷徹なルイのは翡翠色の眼差しに射すくめられたテジュンはゴクリとつばを飲み込んだ。そんな彼にユンが手を動かしながら淡々とこの現状を説明する。
「清潔な水がなく病が流行し家は賊に荒らされ役人すら立ち寄れなくなった。
治安が悪いから商人達も火の部族の地を迂闊にうろつけないしね。」
「姫は…その大丈夫なのか?病の者に近づいて…」
「その辺は俺が気をつけてるけど…
言っても聞かないんだヨナは・・・」
恐る恐る尋ねたテジュンの言葉にユンは困った表情を浮かべてヨナを見た。ユンの視界の先ではお湯を張った大きな桶を老人の足元に置いてヨナが持ってきた白い布を用いて彼の足を拭いていたのだった。
歯切れが悪いユンの言葉にテジュンは思わず声を上げた。
「聞かないって…それでは危険だろう!!」
「止まんねェよ、姫さんは。
姫さんはイル陛下の守ろうとした高華国を守りてェんだ。
今まで何もしなかった分、今度こそこの国の姫として。」
テジュンの心配するような声に今まで黙っていたハクが反応する。傍にずっと仕えるハクから発せられる言葉は誰よりも深みがあり重たいもので、その言葉を黙って聞いていたテジュンは無意識のうちにギュッと固く手を握った。
「ユンとルイとやら…
相談があるのだが。」
そして真剣な面持ちを浮かべテジュンはルイとユンに視線を向けるのだった。テジュン自身に少しずつ沸き起こっていたのはこの現状を変えたいという気持ちだった。ずっと父親や兄の造る火の部族に対して異を唱えることなかったテジュンが初めて自分の意志で行動を起こしたいと思うようになったのだ。
彼の言葉にルイとユンは顔を見合わせる。そして互いに小さく頷きあうと彼の相談に乗るのだった。
「じゃあ、君の誠心見せてもらおうかな」
「え…」
「この村を再建してみせてよ」
「でも…どうやって」
「アンタの権力をフル活用すればいい」
妙に試すような含んだ笑みを浮かべるルイの言葉に困惑するテジュンにユンが考えた案を提示する。
この荒れた無法地帯の村に“暗黒龍とゆかいな腹へり達”が出入りしているという事にして対策本部を設置させる。そしてこの場に活動拠点を置く建前で自らが病気にならないようにテジュンが部下に指示を出せばいい。清潔な水場を整備して、この村の病人の介護をしろと。
「それでヨナ姫の役に立つなら!!」
「まぁ精々頑張ってみなよ
僕がしっかりと見極めてあげるよ」
やる気満々のテジュンに対してルイはほくそ笑んだ。そしてルイはその日からテジュンの働きを見るために近くの木々に身を預ける野宿を開始した。加淡村に戻るヨナ達と一悶着あったが、ルイが折れることはなかった。ルイはちゃんと見極めたいのだ。この者達が信用に値するのかを。
そして翌日、テジュンはユンの言うとおり他の役人たちを引き連れて村に戻ってきた。彼らの行動を太い枝に座り欠伸を噛み殺してルイは見ていた。少しでもルイは任せられないと判断したら速攻彼らを追い出そうと目論んでいたのだった。そんなルイの隣にストンと小さい音を立ててある者が降りてきた。その彼らを横目で確認したルイは小さく口角を上げた。
「やぁ!ユン
僕が見てるから心配ないって言ったのに気になってきちゃったのかい?」
「ルイ、僕を華麗にスルーしないでくれるかな?」
ルイの言葉に図星だったユンは連れてきてもらったジェハの背に乗りながら顔を反らした。対してジェハはルイが挨拶してくれなかったことに不満げな表情を浮かべた。そんな彼にごめんごめんとルイは口元を緩めて軽口を叩いた。
そんなルイの相変わらずの対応に心配損だと小さく息を吐いたジェハは村に視線を向ける。そして視界に入った驚きの光景に感嘆の声を漏らした。
「へぇ…テジュン君、なかなか面白いことするね。
君の提案かい、ユン君。」
「ヨナの役にたちたい彼のためにユンが精一杯考えたんだよ」
「そうなんだけど…
やっぱり心配だよ。役人って基本的に庶民に横暴だから。」
「それは僕も賛同するよ」
そんな3人が見つめる先でやはり危惧していた通りのことが起こった。役人が近寄ってきた村人を蹴り飛ばしたのだった。やっぱりと思う3人だが、ここでテジュンが彼らの予想を上回る行動を取ったのだった。
テジュンはこの横暴な行いがヨナが知ったら悲しんでしまうと、咄嗟に機転を利かせてこう命じたのだ。
「住民に危害を加えるものは許さん!!
今後住民に危害を加えた者は厳罰に下す!!」
その一声に役人達は横暴な振る舞いを行うことをしなくなったのだった。