次男坊の改心
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ダンダン…
ダン
ダン
近づいてくる大きな音にユンがビクッと身体を震わせた。
「何の音?」
「威嚇の足踏みだ。」
「来るなら来い。」
怯えるユンの横でハクは大刀を構え、キジャは戦闘態勢と右手を大きくする。そんな彼らにルイは呆れながらも口元を緩めて上に向けた掌の中に風を渦巻かせた。
「キジャ、この状況楽しんでないかい?」
「そういうルイこそ楽しんでいるのではないか?」
互いに軽口を叩き合うルイとキジャに対して、ヨナは敵の方を真っ直ぐ見据えていた。だが、ジッと見上げているテジュンの視線に気付きそちらをそっと見る。ヨナの視線が向いたことに気づいたテジュンは慌てて声を上げる。
「ごっ、ご安心を姫っ!
私が今止めに行きますので…っ」
「まだいたのかい??」
「えぇ、見ているから。誠意を示して。」
ヨナの声で一喜一憂するテジュンにルイとユンが冷たい眼差しを向けた。そんな中,危険は着実に迫っており、いつの間にか背後に来ていたシンアが声を上げる
「…火矢だ」
「恐らく威嚇射撃だな」
「何!?姫様、おさがり下さい!!」
シンアの一声とそれに続いたルイの言葉に対してキジャが反応する。それと同時にハクとキジャとゼノとシンアとルイはヨナを庇うように前に出る。そしてユンはヨナの隣に立ちいつでも対処できるように構えた。
「姫!!信じて下さってありがとうございました!!」
テジュンは強く立ち上がるとヨナを振り返って言った。そして彼は真っ直ぐ飛んで来る火矢の中、大きな声を上げ自分を奮い立たせて、兵のもとへと走り出したのだった。どれだけ火が掠め、矢で傷つこうとも進み続け、ボロボロになって自分の兵のもとに辿り着くと火矢は止むのだった。
「ま…て…射つ…な…」
「テジュン様!?」
火矢を射ようと構える兵は、地面に這いつくばって現れたテジュンの薄型に驚きの声を上げる。そして一斉に彼の身を案じ始めた。火矢の雨の中を駆け抜けた彼の身体は火傷を負っていたのだ。彼の必死にここまで逃れてきた姿に、村にいた賊から逃げておおせたのですか!?と口にする役人にテジュンは小さな声で違うと答えるのだった。
「皆…よく聞け。加淡村に今賊はいない。
烽火は誤って上げたのだ。」
「えぇ!!?いや、だとしても賊はあの村に…」
「それらしき奴はいなかった!!
疑わしいだけで村を攻撃することはなかろう!!
…手違いで騒ぎを起こしてしまいすまない…」
驚き戸惑う兵にテジュンは賊はいないと強い口調で言い静める。そのテジュンの言葉を兵は聞き入れると撤退するのだった。
対して一向に火矢が飛んでこないことにヨナ達はホッと胸を撫でおろしていた。
「帰ってゆく…」
「行ったな…」
「あの者は本当に大丈夫なのでしょうか?」
キジャの疑問にヨナが苦笑いしながら答える。
「たぶんね。彼が烽火の時みたいにうっかりをやらなければ。」
「「それやりそう。」」
ヨナの呆れたような言葉にルイとユンは溜息と共に言うのだった。一方のテジュンはというとヨナの事を忘れられず会いたくて仕方がなかった。豪華な食事を口にしながら思い出したのは食事を満足にできない村人の事、そして少し痩せたように見えるヨナの事ばかり。そして思考に思考を巡らした結果、テジュンはお重に食事を詰めその重箱を風呂敷に詰めると驚く役人達に偵察に行くと偽って、再び加淡村にやってきたのだった。気配に気づいたルイはハクを引き連れてテジュンの元へ。周囲を警戒しながら屈んで進むテジュンの背後に腰を屈ませた二人はこすこすと目を擦った。
「おかしいな~
昨日誤って狼煙を上げて危うく村を火の海に化そうとしたお坊ちゃんがいるように僕には見えるんだけど気のせいかな~」
「ひ、人違いだ…」
ルイのとぼけた声にテジュンはビクリと身体を震わせてガクガクと背後に視線をやった。そして震える声で否定するテジュンにハクが大刀を振り上げる。それはテジュンの顔スレスレを通して彼の背後の木に突き刺さるのだった。恐怖で震えるテジュンにハクとルイは真っ黒い笑みを浮かべた。
「そうか、人違いか。」
「でも村人じゃないのは明らかだから曲者だよね」
「わーっ、テジュン!カン・テジュンですーっ!!」
「そうか、超曲者だな。死刑。」
「どっちにしろ死刑!!?
ヨナ姫にお会いしたくて…取り次いでくれないか?」
二人の殺気に慌てて自分の名を名乗るテジュンに再びハクが鋭い声を発した。そのハクの言葉にテジュンはツッコミながらもヨナを呼ぶように申し入れた。そんな彼に二人は疑う目つきを向ける。が、テジュンは必死に弁明しながら己の持っているものの風呂敷を目の前に突きつけた。
「今日来たのは姫にお渡ししたい物があって…」
これだ!!と言うテジュンを横目に二人は顔を見合わせあった。
「ルイ…気配するか??」
「兵の気配はしないから一先ず信用してもいいんじゃないかな…」
テジュンに聞こえぬように状況を確認し合った二人は小さく頷きあった。そしてハクはテジュンの首根っこを掴み、ルイはヨナの居場所を探り、彼らはキジャと共にいるヨナの元へ行くのだった。そんな引きずられるテジュンを見てキジャが警戒を露わにして、ヨナは呆れた眼差しを向けた。
「また来たの…?」
「今日、お伺いしたのは…
あああああ差し入れを…」
ヨナの目の前に座り込んでモジモジと顔を真っ赤にして声を上ずらせるテジュンに、ヨナは意味がサッパリ分からず首を傾げる。そのさっぱり進まなそうなやり取りに痺れを切らしたハクが風呂敷を取り上げて中身を取り出す。それを見てヨナはようやく意味を理解した。
そのヨナからキジャに視線を移すとハクは意味深な言葉を言う。
「白蛇、口開けろ。」
「ん?」
不思議そうにキジャはハクの指示に従って口を開く。その口の中にハクは重箱から取り出した料理を放り込んだ。それを咀嚼するキジャにルイが感想を尋ねる。
「お味は??」
「なかなか美味だが?」
もぐもぐと咀嚼しながらキジャは口に広がる味わいを堪能する。一方でその答えを聞くとハクはヨナに重箱を渡した。
「よし、姫さん。食べれますよ。」
「わあ!!」
「毒味か!!」
「案ずることないよキジャ
毒が入ってたら僕が治してあげるから」
「全然フォローになってないぞ!ルイ!!」
「嬉しい、ありがとう。」
ヨナは弾ける笑顔を浮かべるとテジュンの思いと裏腹にその料理を村人に配り始めた。そのことにテジュンはショックを受けた。なぜならその料理は彼がヨナの為に持って来たものだったからだ。
「姫っ!!
それは姫に差し上げようと…」
「皆、朝からほとんど食べてないから助かるわ」
ヨナの言葉にテジュンはハッとする。火の部族はここまで堕ちていないと思っていたが、実際に目の前の村人は与えられた数少ない食料を大事に口に運んでいたのだ。本当に食事が行き届いていないのかと、テジュンは実感したのだった。
「姫は…十分なお食事をなさっていないのではないですか?」
「私?私はいいの。元気だし。
贅沢なら小さい頃一生分やったもの。」
「それは…」
「近頃よく思うの。
あの頃贅沢してた物捨てた物をここに持って来れたらって…
そうしたらもっと平等な国を造れたかしら?
…なんてそんな簡単じゃないって事もわかってきたけど。」
恐る恐るテジュンが尋ねるとヨナはあっけからんと答えた。その答えにテジュンはかける言葉が見つからなかった。本当はどうしてこんなところに住まい、賊の真似事をしているのかと問いただしたかったのにこれ以上言葉を紡げなかったのだ。
呆然と立ち尽くすテジュンの袖が引っ張られる。それに気づいたテジュンが顔を下に向けると物欲したげにお椀を持ち見上げる子どもがいた。
「おじさん
僕の…母ちゃんの分のご飯ありませんか??」
「…持ってきたのはあれだけだ
他はない…」
その問いに対して子どもはしょんぼりと肩を落とすとテジュンに背を向ける。お腹を鳴らしながらも母親の分のご飯をねだる子どもの姿にテジュンはたまらず彼の肩を掴んだ。そして振り向いた子どもに持っていた水を差し出した。
「今はこれしかないが
あ…明日は、お前の母親の食事も持ってきてやるから」
「ほんと?」
「あ…あぁ」
無意識に出た言葉に驚くテジュンの目の前で、水を貰った子どもは弾ける笑みを浮かべて水を持って駆け出す。
何をやってるんだ私は…
テジュンはどうしてそのような言葉を紡いだのかわからず困惑していた。そのテジュンの視界に映るのは村人と楽しそうに笑いあうヨナの姿だった。その光景にテジュンは空っぽな心が満たされる気がした。
その日以降、テジュンは役人の目を盗んで兵舎にある食料や自分自身に出た食事を村へ運ぶようになった。
何をやってるんだ
一番この今取っている行動に理解できないのはテジュン自身。だが、沸き起こる衝動が彼の行動を後押しするのだった。