次男坊の改心
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「むっ、火!?おおおおお!!
ええい、荷が重い!!
凍え死ぬかと思った…」
ある晩の日、火元にいたハクとルイの元にある一人の人物が現れた。彼は赤い火を見つけると歓喜の声を上げ、持っていた荷を放り投げ火元に駆け寄ってきた。その人物はこの前、キジャに殺せと言い寄り、ジェハの右脚に抗う底力を見せた、カン・テジュンだった。
あの日以降頻繁に誰かを求めるように村に来る役人とともに来ていたテジュンは、キジャやジェハにより追い返されていた。それでも諦めきれなかったのか彼は村人に紛れ込んで村に入っていたのだ。もちろんそんな事はルイは周知していたが害がなさそうだとスルーしていたのだ。
「…これはお前達の火か?しばしあたらせてもらうぞ。」
「別に構わないよ」
「…ああ、別に構わないぜ。」
寒い思いをしていたのか身体を震わせてテジュンは火元に当たっていたが、横目に2人の人影を捉え承諾を得ようと口を開いた。手を後頭部に回して組んで木の幹に凭れているハクとその隣で片膝を立てて座っているルイの返事を聞いたテジュンは一瞬視線を二人にやったもののすぐに火に視線を移した。
「そうか…では…」
有難いと温まり始めるテジュン。だが、ふと何か気になったのか慌てたように横にいる人物に視線を向ける。するとそこにいたのは己が随分前に崖から突き落としたはずのハク。見間違いではないと気づいたテジュンはハクの鋭い眼光に睨まれ、身体をガクガクと震わせた。そんな彼にルイは取り繕った笑みを浮かべたまま優しい言葉をかける。
「そんなに寒かったのかい?
凄い身体が震えてるよ」
「そう言ってやるな。
何でこんなとこいるのか知らねェけど、宿なしには慣れてねェんだろ…坊ちゃん。」
「なっ何を言っている。私は貧しい旅の者で…」
完全に正体がバレていると悟ったテジュンは冷や汗をかきながら必死に惚け放り投げた荷物を抱えすぐさまこの場を立ち去ろうとする。が、別の人物の声が聞こえたテジュンはビクッと身体を震わすのだった。
「ねー、雷獣、ルイ!明日の当番の事なんだけど…
あれ?誰かいる??」
「あ…」
第3者の存在にテジュンは慌ててしまい、運悪く荷物の中から烽火が火の中へ落ちてしまった。火に落ちたそれはバチッと音を立てる。不味いと気づいたルイは慌てて火元の近くにいたユンをこちらに引き寄せた。その後すぐ二人の目の前を閃光が過ぎった。その閃光は夜空に上がり真っ暗な空に明かりを灯したのだった。テジュンが持っていたのは烽火だったのだ。空に狼煙が上がった瞬間、ルイが感じたのはこちらに進行し始める不吉な足音だった。
空に上がる烽火を呆然と見ていたテジュン。その彼の脳裏に思い浮かぶのは今朝部下に言われた言葉だった。
もし、御身に危険が迫った時はこれをお使いください
これが上がった時、我々は加淡村に総攻撃をかけます…
途端にテジュンの顔からは血の気が失せていく。蒼白した顔のテジュンは慌てて彼らに背を向けて走り出す。が、彼の逃走をハクがみすみす逃すはずがなかった。ハクはすぐに近くに置いてあった大刀を手にするとテジュンの前に出して転ばせ、倒れた彼の上に乗って取り押さえる。
「味方に知らせる合図か?」
「どうせ賊がいたら烽火を上げろと持たされてたんだろ?
現に今兵士がこっちに向かってるしな…」
ハクは口で器用に大刀を包む覆いを外し刃を覗かせ、ルイはその隣で表情を曇らせ舌打ちをした。そんな殺気立つ二人の様子にユンが慌てて声を上げる。
「ダメっ、殺しちゃ!!
密偵なら聞きたい事がある。殺さないで。」
ユンの声に二人は殺気を鎮めると、ハクはドサッとテジュンに馬乗りになり、ルイは袖元にある暗器に伸ばしていた手を引っ込める。そんな彼らに命令口調でテジュンが叫ぶ。
「重いっ、どけっ!!」
「そういえば、誰この人??
ハク知り合いかい??」
「存じませんよ
こんなどっかの次男坊なんざ」
ルイはハクとテジュンのやり取りに違和感を抱き、ふと思い出したように顔見知りでないかと尋ねる。が、ハクはぶっきらぼうに返答。それにテジュンが声を荒げる。
「貴様
わかってて言ってるだろうっ!
カン・テジュンだっ!!」
「へぇ…コイツがね…」
「カン・テジュン!?将軍の息子じゃん!」
火の部族の将軍の次男坊に見えないとルイは無表情で彼を睨みつける。対してユンは、なんでこんなところに大物がいるのかと大きな声を上げて驚いた。
「私を釈放しなければ大変な事になるぞっ」
「ほぉ〜
火の部族の兵全軍でも呼び寄せたか??」
「そっそこまではないが…
わりかしたくさんだ」
「この人平気??全く把握してないじゃん…」
そう叫ぶテジュンだが、もちろん3人は呆れた表情を浮かべてスルーする。そんな彼らの元に暢気な声を上げてゼノが近づいてきた。
「腹へり達全員集合だってー
およ?昼間の生姜汁兄ちゃんじゃね?どーした??」
のんびりとゼノは不思議そうにテジュンの顔を覗き込む。
「コイツは密偵だ
俺らの居場所を味方に知らせた」
事情を知らないゼノに簡潔にハクが答える。それにふむふむとゼノは相槌を打つとそういえばと声を上げるのだった。
「あ!そーいえば青龍が兵士が大勢村に近づいて来てるって言ってた」
「やっぱりか…」
「ルイとシンアが言うって事は結構近いんじゃないかな。
まずいな、ジェハが今不在なんだよ。シンアはもう少し休ませたいし…」
シンアからの知らせにルイとユンが苦虫を潰した表情を浮かべる。
「あんな変態でもいねェと不便だな。」
「まぁ一応ちゃんとした戦力だからね」
「俺と白蛇とルイで何とかするしかねぇーな」
「ゼノもがんばるー」
「ハイハイ、かけっこがんばれ。」
戦力が圧倒的に少ない。大軍相手に戦えるかとこの場に今いない緑髪を思い浮かべてハクが舌打ちをする。それにルイは苦笑する。そのやりとりにゼノがニコニコしながら声を出すが元々期待してないハクは適当に相槌するのだった。
そんな感じで相手にされなかったゼノはふとハクが押さえているテジュンを見る。
「この兄ちゃんはどうすんの?」
「とりあえず人質だな。」
「一先ず大物だからコイツいれば村を襲うことはしないだろ」
バッサリと切り捨てるハクとルイにテジュンが焦り声を上げる。
「た、頼むっ!私を釈放してくれっ!!
烽火を上げたのは事故なんだ。
兵達を止めに行くから釈放してくれっ」
「え!?そうなのかい?
だったら早くそう言えば良かったのに…」
「悪ィな、よろしくたのまー」
先ほどと打って変わって満面の笑みを浮かべるルイとハクとユンに、ホッとするテジュン。だが、そのまま鵜呑みにするわけがなく凶悪な表情を浮かべたハクがミシッとテジュンの後頭部を掴むのだった。もちろんその背後には呆れた表情を浮かべるルイとユンがいた。
「…なんて言うと思ったか?このボケナス」
「釈放するわけないだろ?」
「あんたは敵と交渉する為の人質!
幸いあんたは大物だからあんたがこっちにいる限り向こうも村を無下に攻撃したりしないはず。」
「コイツは一度俺らを殺そうとした
帰したら俺らが生きている事が火の部族長や緋龍城にまで伝わる
そうなるなら俺は躊躇いなくお前を殺す。」
無表情で睨みつけるハクに再び押し倒されたテジュンは突っかかりを覚える。今、ハクが”俺ら”と発した。ということはつまり…、テジュンは微かに浮かび上がった仮説を確かめようと必死に顔を上げ頼み込む。
「…あ、あの方は!ヨナ姫はっやはり生きておられるのか!?
教えてくれ、頼むっ!約束する、口外はしない!
お会い出来なくてもいい…
言葉を交わせなくてもいい。
あの方は…」
「生きてるよ、娘さんは一番元気だから。」
テジュンの縋る声にゼノが笑顔を浮かべて答える。そのゼノの言葉にテジュンは目を見開いた後、嬉しさのあまり涙を流し顔を手で覆った。
「…そうか、お元気か…
そうか…生きて…おられたか…」
「……」
声を震わして嗚咽を漏らすテジュンの姿に一同は茫然としてしまうのだった。