加淡村に残っていたルイは手伝いをしながら平穏な3日を過ごしていた。
頻繁に来ていた賊の気配もなく、追い返した役人が再びやってくることもなかったからだ。

「ルイ兄ちゃん！！あそぼ！！」

「遊ぼ！遊ぼ！！」

「いいよ、何しようか」

手伝いが一段落した段階を見計らってかルイの周囲に子ども達が群がってきた。そんな無邪気にはしゃぐ彼らにルイは柔らかく微笑みかけると子ども達と遊び始めるのだった。
が、暫くしてルイは気配を察して空を見上げる。急に手を止め空を見上げるルイを見て子どもたちも不思議そうに空を見上げた。

「どーしたの？？」

「空になにかあるの？？」

空を見上げながら不思議そうにルイに尋ねる。そんな彼らの言葉にルイは視線を上に上げたまま口元を緩めるのだった。

「どーやら僕の仲間が帰ってきたみたいだ」

そう呟くとルイは子どもたちを自分の近くに近寄らせるのだった。そしてその直ぐ後に青空に人影が現れる。その人影は結いた髪を靡かせて華麗に地面に着地するのだった。そんな彼にルイは柔らかく笑いかけるのだった。

「おかえり、ジェハ」

「ただいま、ルイ」

ヨナ達と別れこの村に戻ってきたジェハはルイの姿を捉えると微笑み返すのだった。

「んで？？アッチはどうだった？？」

子どもたちに別れを告げてルイはジェハと情報共有を行っていた。

「ユン君の言う通り役人達が来たから税を奪い返してやったよ
コッチは？？何もなかったかい？？」

「それがね……」

「もしかして賊が来たのかい！？」

ジェハの問いに対してルイは顔に影を落としながら言いよどむ。そんな彼女の様子にジェハは前のめりに。だが、ジェハの心配を他所にルイは晴れやかな表情を浮かべるのだった。

「驚くくらいなにもないんだよ！！
少し前までは賊の気配が続いていたのにこの3日間はバッタリなくなってさ」

「…へぇ！？」

「いやぁ…ようやく賊もここを襲うのは止めようという気になったのかね…」

「ルイ…僕たちが来る前に一体何してたんだい？」

あっけからんと答えるルイの表情はどこか楽しそう。ジェハは心配損だとげんなりしながら尋ねる。

「もちろん悪人の成敗さ！！」

「そんな清々しい顔で物騒な事言わないの...」

意気揚々と笑みを浮かべながら答えるルイにジェハは肩をすくめた。悪人を許せないのはわかるがもう少し無鉄砲さを抑えてほしいと思いつつも彼女の性分ではそれは叶わないことだとジェハは改めて認識し直すのだった。そんなジェハの心情を他所にルイは楽しげに話を始める。が、急にルイの表情を強張らせた。そんな彼女の急な変貌ぶりにジェハも纏っている空気をガラリと変えた。

「どうしたんだい？？」

「ジェハ、ヨナ達のところに賊が近づいてる」

風が知らせてくれた事を抑揚ない声でルイは伝えた。

「なんだって！？」

「だから、僕を運んで…
ヨナの元に」

ルイから伝えられた事実と申し出に驚きを見せるジェハ。だが、そこまで危惧することなのかと切羽詰まっているルイをジェハは宥めようとする。

「ルイ、心配しすぎじゃないかい？
ヨナちゃんのところにはシンア君がいるから大丈夫だよ」

確かにジェハの言うとおりだ。ヨナの近くにはシンアがいる。並大抵の賊相手にシンアが手こずることはない。それはわかっているのだが、ルイの心は妙にざわついていたのだ。風がもたらす不穏な空気にルイは不安そうに己の胸元を握りしめた。

「確かにそうかも知れないけど…
妙な胸騒ぎがするんだ
だから僕が行かないと！」

「はぁ…わかったよ、僕の負けだ
乗って」

いつになく切羽詰まった表情で叫ぶルイをジッと見つめていたジェハ。だがルイの叫びに心折れるとルイに背を向けて屈むのだった。そのジェハの背にルイは躊躇なく乗り振り落とされないようにしがみついた。ジェハはルイが背に乗ったのを確認すると先程の村へ跳ぶのだった。

久々に乗るジェハの背中。彼の背に乗って風を切って跳ぶ感覚は何度味わっても心地よい。緊急事態だが、ルイはこの感覚にうっとりと目を細めた。

「ちょっとルイ、寝ないでよ」

「やっぱりジェハの背中は安心する...」

ジェハの思い虚しく、ルイはジェハの大きな背中に安心しきったように頬付りするのだった。そんなルイの無自覚な行動に不意打ちを喰らったジェハの体温は急上昇。頬を赤らめたジェハは危うく体勢を崩しかけながら目的地へと跳ぶのだった。

*****

「着いたよ」

村の人気がない場所に降りたジェハは背に乗るルイを下ろす。ルイはありがとと述べるとジェハに真剣な眼差しを向けるのだった。

「ジェハは加淡村に戻って」

「ルイ、1人で平気かい？？」

このまま彼女を1人残して戻っていいのだろうかと不安になるジェハ。だが、ルイの心配は誰もいなくなってしまった加淡村に向いていた。

「うん
それより、加淡村の方が心配だから
行ってジェハ」

ここは僕に任せてと胸を張るルイにジェハは不安を覚えながらも小さく頷いた。

「わかった
でも、無茶だけはしちゃダメだからね」

ルイはわかってるって！！と大きく頷いてみせた。そんな彼女と何度も繰り返してきたやりとりにまたルイは無茶をするんだろうなと思いながらジェハは背を向け加淡村へ跳ぶ。対して、ルイはジェハを見送るとヨナ達の元へと走り出すのだった。