次男坊の改心
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「家の中も調べろ。怪しい者がいたら連れて来い。」
「何をするんですか、やめて下さい。」
「どけっ」
「きゃあ…」
ヨナ達が義賊として村を守り始めてから暫く経ち、加淡村に役人が押しかけてきた。彼らは何かを探し求めるように1軒1軒虱潰しに荒らしていく。
「出ていけっ!加淡村から出てけっ!!」
「ダメだよ、隠れてなきゃ!!」
その光景を見て1人の子どもが小石を投げつける。それはある1人の人物の頭に当たるのだった。石を当てられた彼の名はカン・テジュン。火の部族の将軍、カン・スジンの次男坊だ。そして、緋龍城から追われる身となったヨナとハクを谷底に追い詰めて落とした張本人。だがその一件以降、テジュンはヨナを殺してしまったと自失してしまっていたのだ。
ユンが駆け寄り慌てて子どもを抱いて押さえると、テジュンに視線をやるが、彼の容姿を見て血の気が失せていくのを感じるのだった。どこからどう見ても身分が高そうな貴族。そんな彼に石を投げてしまった。切り捨てかねないと思うユン。だが彼はユンの予想に反して頭を下げるのだった。
「生まれてきてすみません…」
「ちょっとこの人今傷つきやすいからいじめないで。」
「ご、ごめんなさい…」
すかさず彼の側近のフクチがフォローに入る。対して石を投げつけられたテジュンは怒りもせずに泣き出す始末。その彼に子どもも罪悪感を感じたのか謝る異様な展開に。
「無理もないよ。時々おじさんも石投げたくなるから。」
「なんだ、この会話。」
「どうしたの?」
「ねぇ、隠れてようよ。」
子供は興味本位でどうして彼が泣いているのか尋ねるが、ユンは面倒くさく思い一刻も早くその場を離れたいようだった。
「まあ簡単に言うと恋煩い。」
「誰が恋煩いだッ!そんなんじゃない…っ
恋とかそんなチャラチャラしたものと一緒にするな!この想いは…
もうなんなのか自分でもわからんー!!」
フクチの言葉にテジュンは大きな声を荒げるが、口にしている内に自分の抱く想いが言葉に表せないことに気づく。複雑な感情を抱き頭を抱える彼にユンが本格的にメンドクサイと遠い目をした。そんなユンに俯いて泣き出す彼を支えるフクチが宥めながら口を開く。
「この人の話聞いてやって
おじさんの代わりに」
「ヤダよ」
そのフクチの頼みにユンは子供を引き寄せると大きく首を横に振ると、真っ直ぐフクチを見据えた。
「…俺らは毎日の食物もやっと確保してんだ。
もうこれ以上税は払えないから帰って。」
「納税は民衆の義務だよ。」
「貴族の贅沢や必要以上の軍備の為に過大な税を払うのが義務?
その前にこの食糧不足と病人達を何とかするのがそっちの役割なんじゃないの!?」
「軍備を整えるのも火の部族を守る手段だよ。」
「詭弁だね。」
ユンとの終わりが見えない押し問答。先に匙を投げたのはフクチだった。
「…ま、いいや。
私は税を取りに来たんじゃないから。賊を捕えに来たんだ。」
「賊…?」
「知ってる?何かおなかすいてる賊みたいな名の…」
「ありました!!」
ユンに探りを入れ始めるフクチ。その最中、役人が大きな声を出した。
「賊が強奪した税です!!」
「やはり隠し持っていたな!!
賊達も匿っているんじゃないのか!?」
「ちっ、違います!」
「賊を捕まえに来たって言ったよね?
じゃあそろそろお仕事の時間じゃないの?」
村人が違うと声を上げる中、ユンは密かにほくそ笑んだ。そんなユンが役人にとって意味深な言葉を吐いたのと同時に兵達の頭上に2人の影が過ぎる。彼らは空を舞いながらも驚く彼らに挨拶するのだった。
「「お勤めご苦労様です、お役人様方」」
空に跳び上がったのはジェハとルイ。二人はニッコリと笑みを浮かべながら問答無用に持っている暗器を投げつけるのだった。
「うわああっ」
「どこへ行く!」
暗器の雨から悲鳴を上げ後ずさりする役人。だが、その後ろではキジャが巨大にした右手を顔に寄せ冷たく微笑んでいた。
「我々を探していたのだろう?」
「でっでっでっ出たあぁあっ!!
腹ぺこ一家だあぁあっ」
「今度は腹ペコか…
まぁあながち間違いじゃないけど…」
「誰達だよ、それは」
ルイは役人の言葉に思わずため息混じりに心の声を漏らす。そしてユンは第3者の視点で、逃げ惑う役人達と余裕の笑みを浮かべるルイ達を交互に見て静かにツッコむのだった。
「ばっ化け物…っ」
「なっ、言った通りだろ!?」
逃げまどう役人。だが、唯一1人だけ呆然と突っ立っている人物がいた。それはもちろんテジュンだった。彼にとって大きな右手を持つキジャが命を取りに来た死神に思え、受け入れるように両手を広げたのだ。そんな彼にキジャは右手を振り上げようとするものの、逃げようともしない彼を殺すわけにもいかず手を止める。
対して、やっと死ねると思い目を閉じて待っていた彼は一向に殺されない為、瞼を開ける。すると目の前でキジャの手が寸止めされてる状態。テジュンは咄嗟に彼の手を強く握りしめて詰め寄るのだった。
「どうした、死神…早く殺らんか。」
「いやいやいやいやいやいや誰が死神だ。」
「私を連れて行けるのは今だけだぞ!
明日になったら怖くなっちゃうかもしれないから今だけなんだぞ!!」
「なんなんだ、そなたは。手を放せっ」
キジャがよくわからないが言い寄られている光景を見てルイは未だ宙にいるジェハに目線で合図を送る。それに気づいたジェハはクスリと笑みを浮かべた。そして彼は右脚で彼の頭を踏みつぶし着地し、ルイはその隣で踏み潰された人に対して呆れた表情を浮かべていた。
「殺って欲しいってお願いする人がいるとはね…」
「何をやってんだ君は、希望してるんだから楽にしてあげなよ」
ジェハはそのまま彼の頭を右脚で踏みながら、ルイもその隣で何事もなかったようにキジャと会話を始める。一方、このやりとりを愉しんでいる彼らにキジャはアタフタしながら声を上げる。
「無防備な者を相手に出来るか!この手は神聖なる…」
「「ハイハイ」」
慌てふためくキジャの言葉を遮るように二人は面倒臭そうに適当に相槌を返した。
「加淡村はやはり賊を匿っていたのか…」
一方で地に伏せた役人が絞り出す声を上げる。その声に対してジェハはルイの肩に腕を置いてもたれかかり、ルイはその重さを感じながら腕を組み小さく息を吐き出す。そんな二人はニッコリと妖艶の笑みを役人に向けるのだった。
「馬鹿だね
別に僕たちは匿われてなんかいませんよ?」
「ここいらは僕らの縄張りなんだから奪った物を置くのは当然だろ。僕らの仲間は火の土地のどこにでもいるよ。」
「テジュン様、生きてますかー?」
対してフクチは近くの植え込みに逃げ込み、踏みつぶされている彼の名を呼ぶ。だが応答はなし。そんな中、彼の心を振るえ動かす声が彼の鼓膜を揺らすのだった。
「小僧共、とっととそいつら放り出しな。村の連中が怯えてるよ。」
凛とした声が響く。その声はとテジュンはハッとして一目拝もうと力を奮い立たせると、体をぐぐぐっと持ち上げようとする。そんな彼に驚きながらもジェハは再び彼をべしゃっと踏み潰した。
「おっ…っとと、まだ元気みたいだよお頭。」
「そこの役人無駄な抵抗するんじゃないよ。」
お頭と呼ばれた人物の声に反応して再びテジュンは身体を起こそうとし始める。そんな彼の姿にルイとジェハは目を丸くし感嘆の声を漏らす。
「へぇ~やるじゃん」
「おおお?
ほう・・・僕の足に踏みつけられて起き上がれるヤツがいるなんてね」
それでもテジュンは声の主を見たいあまり身体を起こした。倒れた役人達もついさっきまで生気がなくヨボヨボだったテジュンが化け物の力に対抗しているのを見て感動する中、ついにテジュンはジェハの脚を振り切って立ち上がった。その衝撃で後ろに倒れかけるジェハをルイは咄嗟に支える。一方で起き上がったテジュンは鼓動を感じながらそっと耳を澄ませる。
あの声を…もう一度!!
だが、顔を上げたテジュンが感じたのは浮遊感だった。
「邪魔だ。」
状況を呑みこめずキョトンとするテジュンはキジャに担がれていたのだ。そして彼はそのまま明後日の方向へ。
「テジュン様ーっ!!」
キジャに放り投げられたテジュンの身を案じて役人が彼の名を呼ぶ。そして彼らはテジュンの行方を追って村をいそいそと出ていく。
役人が出ていったのを確認すると、ユン達は役人に荒らされたものを休む間もなく片すのを手伝うのだった。