暗黒龍とゆかいな腹減り達
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「払えないですって?また滞納する気ですか?」
穏やかな時が過ぎていた加淡村。だが、火の部族の役人が来たことで一気にそれはぶち壊された。
「申し訳ありません申し訳ありません。
しかし今年は米の収穫は少なく、我々が食べる分すらままならぬ状態です。その上の増税は…」
「黙りなさい。」
役人の前で土下座をするセドルが懇願するようにずっと頭を下げる。が、役人が聞き入れるわけがなく感情すら籠っていない一声を浴びさせセドルの頭を踏み付け、黙らせるのだった。
「払えないのなら子供を売り払いますよ。」
「そ、そんな…!」
「トルバル殿、ここに食料が。」
「なんだちゃんとあるじゃないですか。」
そんなやり取りが繰り広げる中、役人達がある物を見つける。それはユンがかき集めて持ってきた荷台に積んである食料だった。
「米はないみたいですが…まあいいでしょう。
これを運び出して下さい。」
「だめっ
それはユンが私達に持ってきたものよ。」
持ち出そうとする役人。その彼らの行動にいてもたっても入れずに少女が阻止しようと役人の足元を掴んだ。
「どけ、邪魔だ。」
「だめっ!!」
「丁度いいじゃないですか。
その子も連れて行きましょう。
足りない税はその子を売り払って補いましょう。」
そう言うと役人は少女の手を掴んで一緒に連れて行こうとする。そんな彼らにセドルはなんとか抵抗をしようとする。
「どうかお許しを…!何も知らない子供ゆえ…」
「お父さんっ!いやああっ、はなして!!」
「嫌なら米か金か用意しなさい。行きますよ。」
セドルは蹴り飛ばされ、役人の力に抗うことが出来ず泣きじゃくる少女は引きずられていく。
そんな一部始終を茂みに隠れていたヨナ達は歯がゆい思いで見ていた。途中途中でキジャが右手を大きくして戦闘態勢に入ったり、ヨナは持っている弓を構え始めたり、と傍にいるユンはいつ飛び出してしまわないかと冷や冷やしてながら宥めていた。
だが見て見ぬふりができるはずがなく、遂にある一人の人物が動き出してしまうのだった。
「ぎゃっ」
「ん?」
「な…何か飛んで…」
ユン達の目の前で、少女を連れて行こうとした役人の腕や足に暗器が刺さり彼らが慌てだした。1カ所はユン達がいた茂み。だが、もう1カ所は全く別の場所。ヨナ達一行の中で暗器を使う人物なんて一人しかいないことはわかっているユンは顔を引き攣らせた。だが、もう一人は一体誰なのだろうと首を捻っているところで役人が声を荒げた。
「誰だ!」
「「はぁーい。」」
役人の一声に同時に二人がのんびりした声を上げて現れる。1人はもちろんジェハだ。そしてもう1人はジェハが探し求めていた人物だった。長い濃紺色の髪を右肩に流し薄紫色の紐で結いている青年…ルイだった。
*****
同時に声を上げた二人は怒り狂う役人を他所に顔を見合わせた。どうしてここにいるんだとルイはジェハの姿を見た途端、顔を引き攣らせた。対するジェハはこれ以上もないくらい満面の笑みを浮かべていた。だが、目元が笑っていないと気づいたルイは激しくこの場から逃げたくなった。
この村に害を及ぼしそうな人物の気配を風に教えてもらっていただけで、彼らの気配を追うのはすっかりルイは忘れていたのだ。そしてルイは村に戻って視界に入った光景に考えるよりも先に暗器を手にしていたのだ。
「誰ですか?
貴方達、この村の人間じゃないですね。」
「僕はただの旅人だよ」
「ただの旅人がでしゃばるとは…
で?貴方は?」
「僕かい?僕は…
天翔ける緑の龍とでも呼んでくれたまえ。」
「気をつけろっ」
「アホだぞ!!」
さらりと返す二人に役人が呆れた声を上げながらも警戒を強める。その対象は紛れもなくジェハの方だった。ルイもジェハの様子に軽蔑の目線を向けた。そんな彼ら二人の行動に茂みから顔を覗かせたユンは声を上げた。
「ジェハ、ルイ!ダメだって!!」
ユンが茂みから出てくるとは思わなかったルイは驚きながらも仕方なくジェハの隣に役人を飛び越えて移動する。
「久しぶり、ユン」
「ちょっと、ルイ!何してるの!?」
「村人から搾取しようとしている悪徳役人にはご退場していただこうと思ってね
だって権力を振りかざすして脅すなんて許されない行為だろ?」
「ユン君、物を奪うだけなら黙ってようと思ってたんだけどね。女の子に乱暴するような美しくない連中を僕が許すと思うかい?」
二人の言い分にユンは口をつぐんだ。だってこの二人は阿波の街で長年こういう不正な行いに対して見て見ぬ振りをせずに果敢に反抗してきたのだから。そしてそんな行為が目の前で起きている。彼らが黙って見過ごせるわけがないのだ。
「…聞かないでよ。」
「さすがユン君。」
「僕はね、横暴で傲慢な役人が一番大っ嫌いなんだよね」
「まぁ僕達は元海賊だからね
だからどこに行っても役人とは相容れないらしい。」
「全くだね」
ヤレヤレと肩を竦める二人。そんな彼らに居てもたってもいられずハクが行動に出る。
「ったく、しょーがねェな。」
「えっ、ちょっと!あんたはダメだよ、雷獣。面割れてんだから…」
ユンの制止も聞かず飛び出すハク。そんな彼は頭にすっぽりとシンアから剥いだ毛皮を被って面を隠していた。その毛皮からはひょっこりとアオが姿を覗かせる。
「えっ、雷…」
「もっと変なの出ました!」
「しかも腹鳴っている…!?」
「妖怪!?」
「仙人?」
「頭に何か住んでる…」
茂みから現れたハクの格好に役人がひょうきんな声を上げる。そんな彼らの反応などハクはお構いなしに勝手に名を名乗り始める。
「あー、俺か?俺は暗黒龍とでも呼んで…」
「いや、いいよ。そこ無理に名乗らなくて。」
「いーじゃねーか、顔出してねェし。気付かれてねェ…」
ユンの呆れながらの指摘にハクがまぁまぁと宥めようとする。が、その矢先に役人の目に留まったのは彼が持つ大刀だった。
「あっ、自分あの大刀に見覚えが…」
「捨てたー!?」
「何だ、あの男。大刀に手がかりが…!?」
その指摘に瞬間的にハクは大刀がなかったように茂みにポイっと捨てる。それに目を見開いて驚く役人に追い打ちをかけるようにキジャとシンアが茂みから立ち上がる。
「そなた達…!妖怪共め、村の者が驚いているだろう!?」
「うわああっ!何だあの手はっ」
「化け物!?」
「なにこれ、コント??
僕帰っていいかな…」
キジャの右手に悲鳴をあげ始めた役人に、既に怒りが鎮火してしまったルイはこの茶番劇から逃げたいと刹那に願った。だがその思い虚しく知らないうちにジェハに距離を詰められていた。
「キジャ君の手が一番ウケてるね。
後、ルイはもちろんここから離れるの禁止ね」
「僕は今、ジェハの隣から激しく逃げたいね」
「そう思っているだろうなって思って先手を打たせてもらったよ」
ルイの耳元でこの光景を愉しみながらも彼女の行く手を拒むことを忘れないジェハにルイは恐れを抱いた。そしてこの状況下で逃げられないと察したルイは大きく息を吐き項垂れるのだった。
「もうダメだ、ヨナだけでも隠れて…」
「目立っちゃうんだね、どうしても。」
「だから言ったで…」
「どうせ生きてるだけで目立つなら、思いきって目立っちゃおうか。」
「え…」
この収束不可能な現状に頭を抱え目から涙を流しながらユンはヨナを見る。がユンの危惧を他所に唯一まだ茂みの中にいたヨナは何を思い付いたのか企んだような笑みを浮かべて立ち上がるのだった。