阿波の海賊
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「通りすがりの?」
「緑龍です…」
「あんたが緑龍だったのか…」
「ハク…そろそろ離してあげなよ。苦しそうだよ」
首を絞められて今にも窒息死しそうなジェハの様子を見て、未だに首を絞めているハクにルイが離すように言う。それに、それもそうだなとハクが離したことでジェハはむせ返りながら息を大きく吸った。
「あら、あなたルイの知り合いの人相書きの人でしょ?
ハクから話を聞いて会ってみたかったの。あなたが緑龍で嬉しい。私はヨナ、あなたの名は?」
ヨナは嬉しそうに頬を緩まして名を尋ねた。その時ジェハは自分の考えの甘さを認識していた。ヨナの姿も声も甘い誘惑に見えてしかたがなかったのだ。だが、それは己の中に流れる龍の血がそうさせているだけだとジェハは自分に言い聞かせた。気持ちを落ち着かせるとゆっくりとジェハは目を開ける。
「…はじめまして、僕の名はジェハ。
僕は心底会いたくなかったよ、お嬢さん。」
「私が来る事を知っていたの?」
「こんな可愛らしい女の子だとは思わなかったけど、ここ最近白龍と青龍の気配がしてたからね。
もし彼らが主人を引き連れてやって来たら言おうと思ってたんだ。
“僕は君に仕える気はかけらもない”“お帰りください”」
驚きの声を上げるヨナにジェハは淡々と突き放す言葉を口にした。
「私は白龍と青龍の主ではないわ。
今は
あなたにも力を貸してほしくて来たの。」
「可愛い女の子に頼られるのは嬉しいな。
だけどごめんね。僕は白龍のように緋龍王のために生きて死ぬ…なんて志は持ちあわせていないんだ。
僕は守るべき人は自分で選ぶし、死ぬ場所も自分で決める。
だからお嬢さんに力を貸す気はないよ。」
「ジェハ…そんなに威嚇しなくても大丈夫よ。」
ジェハがにこやかに言った言葉の裏の意味をくみ取ったヨナは、ジェハに優しく語り掛けた。その言葉に無意識のうちにやっていたことに気づきジェハは口を噤んで視線を逸らした。
「わかった。あなたの事は諦める」
「姫様…っ」
「私はお願いしているのであって、命令しているのではないもの」
命令しに来たわけではないヨナは決心が固いジェハを見て見切りをつけた。その行為にジェハは困惑する。
「あっさり…引き下がるんだね。」
「ここまでハッキリ言われて聞きわけないのも見苦しいわ。
本当はすっごく残念よ。
なぜかしら、四龍に会うととても離れ難い気持ちになるのは…」
ジェハは目元を前髪で隠しながら優しく微笑んだ。
「僕も残念だよ。久々に会ったかわいこちゃんだったのに。
それに…彼を仲間にするつもりだったのにな…」
ジェハは見定めるようにクッとハクに近づいた。そんな彼にハクは眉間に皺寄せる。
「聞きわけないのは見苦しいぜ」
「ハクを?」
「こいつ海賊なんだと。俺に船長に会えってさっきからうるせぇ」
驚きを見せるヨナにハクは鬱陶しそうに言葉を吐き捨てた。
「つれないなぁ~」
「海賊?」
ヨナの脳裏で前に聞いた話が思い浮かぶ。この町を苦しめているヤン・クムジ。それに対抗しているのは海賊だと。
ヨナはある決意を固めるとジェハに視線を向けた。
「…ジェハ、私あなた達の船長と話がしてみたい。」
そのヨナの言葉にジェハとこの動向を見守っていたルイが視線を鋭くさせた。
「…なぜ?ハクをくれるの?」
「ううん、あげない」
ジェハの投げかけにヨナは大きく首を横に振ってきっぱりと言い放つと、まっすぐな眼差しをジェハに向けた。
「あなた達が闘っているのは阿波の領主ヤン・クムジなのでしょう?
役人に殺される子供を見たの。
思い出すと今でも怒りで震えが止まらない、役人にもヤン・クムジにも何も出来なかった自分にも。
私は理不尽に殺される子供をもう見たくない。」
そのヨナの言葉を真剣に聞いていたジェハは意見を求めるように軽くルイに目配せする。それに気づいたルイは、いいんじゃないかと小さく頷いた。
「お嬢さんに協力を頼むかは置いといてハクを連れて来るなら船長に会わせよう。
明日、僕らの船においで。行くよ、ルイ」
「えぇ?僕も行くのかい?」
ヨナ達に背を向けたジェハは、ルイの名を呼ぶ。それに不平を漏らすルイを他所にヨナ達は驚きの声を漏らした。
「え?ルイ??」
「黙っててごめんね、僕も海賊なんだ」
「知り合いじゃなくて仲間じゃん」
驚きを見せるヨナ達に申し訳なさそうにルイは手を合わせて身分を明かした。その言葉にユンがすかさずツッコミを入れる。
「そーなんだよ
でもなるべく厄介事は抱えたくないから隠してたんだ」
「……なるほど」
スラスラと理由を明かすルイの言葉に、ハクは納得したように相槌をした。そのやりとりにジェハが声を上げる。
「ちょっとルイ!僕の扱い酷くないかい!!」
「いつものことだろ?
まぁでも、人探しがあっけなく終わってよかったね」
ジェハの言葉をルイはサラリと受け流すとヨナ達に柔らかく微笑んだ。それにそういえば人探しを頼んでいたことに今更ながらヨナ達は思い出していた。
「え…えぇ」
「じゃ、明日待ってるから」
ルイは、これ以上の長居は無用だとヨナ達に背を向けるのだった。