阿波の海賊
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「ギガン船長ありましたぜ、
「船ごと燃やしな、グズ共。」
船内を漁っていたタツが甲板に顔を覗かせて報告する。それを耳にしたギガンは淡々と命令を出した。それに大きく頷いた一行は、船に火をつけて海に沈めた。
「クムジはいないようだね。
「小舟に詰めておきましたよ。」
そのギガンの投げかけに対してタツがにこやかに答える。
「殺しちゃいないだろうね。」
だが、ギガンの次の言葉に対してボロボロな皆は限界だと異を唱え始めた。
「船長ぉ~いい加減キツイっすよ~」
「むこうは殺すつもりで向かって来るのにこっちは死なない程度に痛めつけるなんて。」
「そーですよ。
あんな役人共いなくなった方が阿波のためっすよ。」
「どんなバカでもね、私はお前らを愛してるんだよ。
愛するお前らに人殺しの業なんて背負わせられるもんかい。」
彼らが言いたいことはわかる。だが、ギガンにもある想いがあったのだ。その思いを煙管を吹かしながら吐露するギガンの言葉に海賊達は感動して涙を浮かべた。
「おかあちゃ~~ん!!」
「俺も好きだ―――っ」
「ルイは別として…
お前らみたいな不細工産んだ覚えないよ!!」
黄色い声を上げる男達に、ギガンは鬱陶しいと一蹴し彼らに背を向けた。そして背を向けてようやく騒ぎの元凶ともいえるジェハが静かにルイの隣に座っているのをギガンは見つけた。
「…どうしたんだい、ジェハ。やけに静かだね。」
「ホントだよね~
いつもは皆とバカ騒ぎしているのに…」
ギガンが抱いた違和感に同意とルイが相槌を打つ。
「んー、ちょっと昨日から右足が疼いてね。」
「どうせ気持ちいいんだろう?」
ギガンは呆れた口調で尋ねる。すると案の定ジェハは顎に手を当てて嬉しそうに頬を緩めた。そんな彼の頬に向かってギガンは己の足で踏みつける。
「実はちょっと♡」
「踏んでやろうか。」
「ありがとう、船長。もう大丈夫!
もう踏んでるから…」
「…私も踏みつけた方がいい??」
「いや、そこでルイがノッてこなくていいからね」
踏みつけられたジェハは満更でない表情を浮かべていた。そんな彼を見て珍しくルイの悪戯心が燻ぶられてこの茶番劇に乗っかろうとする。それに対して、ジェハは呆れた口調で拒否すると己の右脚に目を落とす。
「なんだろうね、今までこんな事なかったのに」
「飛翔する龍の脚…古の力だというが、何度見ても不思議なもんだね。」
ギガンは煙管を吹かしながら呟く。それに相槌を打つように騒いでいた一行が大きく頷いた。
「ホント、ジェハの
「空飛んでるみたいでかっこいいしな。」
「一緒に闘っててこんなに心強いヤツもいねェよ。」
そんな彼らの声に対してジェハは一瞬口元を緩めるが、己の本心を悟られたくなくて、芝居かかった口調で鬱陶しそうに彼らの前を通り過ぎた。
「どうせ頼られるなら可愛い女の子がいいな。ルイのようなね!
君達みたいな汗臭い男共に言われてもね。」
その言葉が胸にきた一行はガクリと肩を落とすと、その場を離れるジェハの背に文句を言い捨てまくるのだった。
「ここは素直にありがとうって言えばいいのに…」
そんな一部始終を見てギガンの横に立っていたルイが意地悪そうな笑みをジェハに向けた。その言葉に対してジェハは飄々とした態度を崩すことはしなかった。
「ものすごく素直な人間だよ、僕は。
ただむずがゆくてね。ここは居心地良すぎるよ。
13年前、僕が里を飛び出してボロボロの旅の果てに辿り着いたこの場所…
僕の
本当バカでお人好し。」
「誰もお前にそんな興味ないんだよ。」
ジェハの吐露した想いを、ギガンは軽く一蹴する。
「えぇーっ!?
それはいけない。もっと持って!僕に興味!!」
それに異を唱えて叫ぶジェハを見て、ルイはクスクスと笑っていた。ジェハの言いたいことは多いにルイもギガンも理解しているのだ。
それを把握しているジェハは柵に己の身を預けるとにこやかに笑みを浮かべた。
「ま、とにかく僕は当分
置いてやって下さいよ、船長♡」
「お仲間が迎えに来てるんじゃないのかい?」
「お仲間?まさか龍の?冗談。他人だよ。」
ギガンの言葉をジェハは即否定した。が、その話題にこれ以上触れることをしなかったギガンはそういえばと考え込む。
「仲間といえばこっちも正直もう少し欲しいね、戦力。
ウチのヤツらにも負傷者出てるし、クムジのヤツも役人を増やしてるしねェ。いずれ人身売買の現場を突き止める。
その時には結構な乱闘になるだろうさ。」
「珍しく弱気だね、ギガン船長。」
「ウチのバカ共を死なせる訳にはいかないからね。
どっかに若くてイイ男いないものか…」
「いるでしょ、ここに若くて美しい男」
ギガンが嘆いた言葉にジェハは自分のことを挙げる。が、おや待てと思考を巡らした。その時に浮かび上がってきたのは最近続けざまに会う黒髪の青年だった。閃いた瞬間ジェハは興奮しきった表情でギガンに訴える。
「…いや、いる!!若くてイイ男!!」
「お前はもういいよ。」
「そうじゃなくて町で会ったんだ、若くてイイ男!」
いつものことだとギガンは冷めた目つきを向けるが、そうではないとジェハは詰め寄った。ジェハが懸命に説明する話を聞いていたルイもようやく誰の事を言っているのか見当がつくと、彼らの話に加わる。
「あぁ...もしかしてあの人!?ジェハ?」
「そうそう!!」
「へぇ、そいつ強いのかい?」
ルイとジェハが興味を示した人物にギガンは興味を示し始める。
「ちらっとしか見てないけどあれはヤバイね。」
「ほう…ヤバいくらい強いのかい。」
「ああ、ヤバイくらい強くてイイ男だね。船長好みだよ。ねぇ?ルイ!」
目をキラキラさせながらジェハはルイに同意を求める。それに若干引き地味になりながらルイは苦笑いを浮かべた。
「確かに船長好みだけど引き込むのは難しいんじゃない...」
「そんな弱気なこと吐くんじゃないよルイ!
至急捕獲。」
「了解船長♡」
だが、ルイの言葉はギガンに一蹴されてしまい、ハクの勧誘が決定された。
もうすでにやる気満々のジェハを見てルイは同情を込めてどこかにいるであろうハクに憐みの感情を向けるのだった。