海上での決戦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「シンアくん!!」
ジェハは甲板に出ると急いでシンアを呼んだ。そして小舟を探すように依頼する。まだ時間は経っておらずそこまで遠くまで行っていないはずだ。ジェハはこの時が惜しいくらい切羽詰まっていた。
目を凝らしたシンアは数秒後にある一点の場所を指差す。
「部下を見捨てて逃げ出すとは美しくないねっ!」
それを確認するとジェハは飛び出した。
*****
「クムジ様!ヤツが来ます」
「天翔ける龍と噂される男か!
丁度いい。一度撃ち落としてみたかったのよ。」
船頭の声にクムジは顔を上げる。そして、空から迫ってくるジェハの姿を捉えたクムジは弓を手に取る。それに意識を取り戻したルイは不自由な身体でクムジを食い止めようと動く。が、その前にルイはクムジに鷲掴まれてしまう。
「...ッ!!ルイ!!」
ルイを盾にされたジェハは咄嗟に反応が遅れてしまう。その隙を狙ってクムジは1本の矢を放った。慌てて袖から暗器を取り出し放つジェハ。だが、クムジが放った一本の弓矢はジェハが放った暗器の間をすり抜けてしまう。
「ジェハ!!
い…いやぁっ!!!」
ルイの悲鳴と同時に右肩を射抜かれてしまったジェハはバランスを崩して海に真っ逆さまに落ちてしまう。
「ジェハ!!」
慌ててルイは水面を覗く。するとすぐにジェハは浮き上がってきた。が、ジェハは傷口に塩水が染みて右肩を押さえて表情を歪ました。
「どうだ!!天駆ける龍よ!!」
クムジは水面から顔を出したジェハに弓を構えて嘲笑う。
「…海に落ちればもう飛べまい?」
「やめて!!!」
このままだとジェハが殺されてしまう。ルイは力を振り絞りクムジに体当たりしようとする。が、クムジに蹴飛ばされてしまう。
「邪魔だ!!」
「ルイ!!」
倒れ込むルイを見てジェハが切羽詰まった声を出す。その声にクムジはニヤリと反応する。
「なるほど、よほど大事な女らしいな?
仕方あるまい
折角可愛がってやろうと思ったが
お前から殺してやろう」
「ルイ!!クソッ!!」
クムジは弓矢の向きをジェハからルイへと変える。それを海に浮かんでいるジェハは飛ぶことが出来ず歯がゆい思いでクムジを睨んだ。
その中、弓を放とうとするクムジだが何かの悪寒を感じて身体を震わせ動きを止めた。この怯えようにジェハとルイはクムジの視線の先に目をやった。するとそこには船の舳先に立ち弓を構えるヨナがいた。
ヨナの瞳はまっすぐにクムジを向いていた。殺気を纏った獰猛とする紫紺色の瞳の奥にメラメラと燃える暁色の炎、本当にヨナ自身が放っている圧力なのかとルイとジェハは目を見開いて驚いた。
そのヨナが静かに放った弓矢は意思を持ったようにまっすぐにクムジへ飛び、彼の胸を貫いた。弓矢を受けたクムジはそのまま海へと落ち沈んでいった。
*****
「ジェハ!!今助けるからジッとしてて!」
「いや、僕が...」
「傷に触るからジッとしてて!」
ピシャリとジェハの言葉を遮るとルイはジェハが放った暗器を後ろ手で掴み取り器用に縄を切る。そして急いでジェハの横に小船をつけた。
「ジェハ!」
そしてルイはジェハに手を伸ばして彼を小舟に引き上げた。
パシャリ!!
水音と共に海面から上がったジェハはルイにそのまま抱きついた。
「よ...良かった、ジェハ」
「それこっちのセリフなんだけど
ルイ」
ジェハの温もりを感じたルイはホッと胸を撫で下ろした。そんな彼女にジェハは呆れながらも声に怒気を含ませる。その声にルイはビクリと肩を震わせた。
「え…えっとですね…」
「言い訳しても駄目
もう、こんなにボロボロになって…」
なにか口実を考えようと目を泳がせるルイの思惑をジェハは先読みして跳ね除けると、そっと彼女の左肩の傷口に手を添える。
「無茶しちゃダメってあれほど言ったのに
本当に言うこと聞かないよね」
そうボヤいたジェハは眉を下げた。もっと早く自分が駆けつけられれば、クムジの居場所に一緒に行っていれば、後悔の念がジェハの胸に押し寄せていたのだ。
「……ごめん」
ルイは素直に謝った。決して彼にこのような悲痛な表情をさせたくないのだ。でも、今回の行動は後悔していなかった。唯一後悔しているとしたら、ジェハに傷を負わせてしまったことくらいだ。ルイは今にも泣き出しそうに顔を歪めて、ジェハの右肩に手を添える。
「でも私だって言いたいことあるんだから!
あの時動揺しないで欲しかったよ…
そのせいでジェハが射抜かれたとき生きた心地がしなかったんだから」
先程の光景がスローモーションに見えたルイは身体を震わした。そんな彼女の言葉にジェハは一瞬目を見開くとルイを抱く力を強めた。
「ごめんね、怖い思いさせて…」
「ホントだよッ!!」
申し訳無さそうに呟いたジェハの言葉に、ルイは嗚咽を漏らしながらジェハの服を掴んだ。そんな彼女にジェハは寄り添い、宥めるように背中を撫でる。
そんな二人を照らすように朝日が登りだした。朝日に気づいた二人は顔をあげて視線を東に向けた。まだ薄暗い空を明るく照らし出す朝日は、まるで闇の中にいた阿波の街に降り注ぐ真の光に見えたからだ。
「遂に…私達やったんだね」
「そうだね」
「本当の本当に終わったんだね」
ルイとジェハは互いに微笑むと、自由を手にした実感を分かちあるのだった。