阿波の夜明け
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「ルイ!!」
「馬鹿ルイ!!
こんなボロボロにまでなって…
死んじゃうかと思った…ッ」
ヨナとユンはルイに飛びつくと泣きじゃくった。目の前でルイがボロボロになっていく様を歯がゆい思いで見ていたのはこの2人だったのだ。
そんな2人の背に手を回したルイは困ったように顔を顰めた。
「ごめんね…2人とも…」
「ホントだよ!」
「でもルイのお陰で私達は生きてる」
「そんなことないよ
誰一人欠けていなかったらこの作戦は成功していなかったよ…
ありがとう、ヨナ…ユン」
阿波の町がクムジの支配から解放された、売られそうになった女性達を救えたのは紛れもなくヨナ達が協力してくれたからだ。ルイは改めて2人に対して礼を述べるのだった。
「それよりルイ!治療しなきゃ!!」
ユンが思い出したように声を上げた。この中で一番重症なのはルイなのだ。ユンとしてはすぐにでも治療してあげたいのだ。だが、切羽詰まった声を上げたユンの申し出に、ルイはやんわりと断りを入れるのだった。
「どうして!!」
「僕は自分でできるから平気さ
それよりユンは他の皆の治療をしてくれないかい?」
苦笑いを浮かべながらルイは特にコイツと背後にいるジェハを指さした。急に話を振られてたジェハは最初キョトンとした表情を浮かべた。
「え?僕よりもルイを……」
「僕のことはお構いなく
クムジに射抜かれた傷なんかサッサと治してもらいなよ」
「矢で射抜かれた傷よりも、剣で抉られたことに加えて弓矢でも射抜かれた傷の方がどう見ても重症でしょ…」
「二人とも重症だよ!!
とりあえず陸に戻ったら2人から見るからね!!」
「あ!ハクとキジャ!!」
凄い剣幕で互いを想いあって譲り合いを続けるルイとジェハに痺れを切らしてユンが一喝する。その声に二人は困ったように肩を竦めた。
一方ヨナはハクとキジャの姿を見て走り出した。
「姫様っ…よくご無事でっっ」
「あんた達見事にかすり傷一つないね。可愛くない」
「ホントだね。こっちはこんなにボロボロなのに…」
かすり傷1つもないハクとキジャの姿にユンとルイは皮肉を込めて言葉を吐き出す。それにピクリと眉を顰めたハクとキジャは改めて3人の姿をマジマジと見た。3人とも殴られた傷跡がある。特にルイに至っては服も破れており、肩には大きな切り傷があり、血が滲んでいた。
それを見てハクとキジャから沸き上がるのは殺意だった。大刀と龍の手をハクとキジャは縛られている役人に向けた。今にも殺してしまいそうな二人の気迫にユンが大きくため息をついて宥める。
「落ちつけ、珍獣共。めんどくさいから。」
「大変だね、ユンは」
「ホントだよ…
誰も俺の苦労わかってくんないんだよ」
この滑稽な光景にルイはクスクスと笑みを溢すのだった。
「こんなに沢山の人達が一晩中クムジを戦ってくれていたなんて…
助けて頂きありがとうございました。」
ユリ達を先頭に助けられた女性達が海賊たちに頭を下げた。そんな彼女達にハクは戸惑った声を上げるが、ジェハはいつも通りに彼女たちに近づいて甘い言葉を囁くのだった。
「いっ、いや俺らは…」
「君たちを守るのは当然のこと…
いや僕は、君を守るという運命に従ったまでのこと
ところで君名前は??」
「てめーは空気を吸うようにわけのわからん事喋ってんじゃねーっ」
相変わらずのジェハの口説き文句にトク達一行は声を合わえてツッコミを入れる。一方でそれを遠目で見ていたルイは苦笑いを浮かべていた。
「私達、何も出来なくて…」
「いいえ…
ユリは命懸けで手を貸してくれたわ。
阿波はきっと大丈夫、ユリのような人がいれば。」
俯くユリにヨナが近づき彼女の手を包んだ。そして大丈夫だと力強い言葉をかけるのだった。それにユリは柔らかく微笑んだ。
「ありがとう…リナ」
「それであの何かお礼を…」
その隣にいた女性がお礼の品を用意したいと申し出る。それに答えたのはこの光景を背後で見ていたギガンだった。
「海賊がお前達に要求する代価は高いよ!
この町全員で酔うための酒さ!!」
煙管を吹かせていたギガンが、声高々に要求する。それに海賊は大きな声を出して喜び、要求を受け入れた女性達はすぐに用意のために町へ繰り出す。この急展開にユンが一番困惑した。
「ちょっ、何言ってんの!?
皆すごい怪我だよ?まず手当てしなきゃ…」
だがユンの心配をよそに他の皆はもう宴モードだった。
「ボウズ、つまみ用意しろつまみ!」
「嫁か、俺はっ!それより手当て…」
「バカ野郎、勝利の夜はツブれるまで酒呑んで暴れるのが海賊の流儀だ。」
「まだ昼だよ!」
すかさずツッコミを入れていくユンはげんなりとした表情を浮かべていた。が、ここにきてさらに厄介な奴らがこの話にノッテくるのだった。
「たぎるねぇ、そーゆーの」
「ノるな、雷獣っ」
「宴か、懐かしいな…
私の誕生際では毎年、龍の舞を皆が踊ってくれたぞ。
舞妓や奏者はどこだ?」
「歌とお芝居も楽しみね。」
「黙ってろ金持ち!!」
ハク、キジャ、ヨナにそれぞれユンがツッコミを入れていく。その近くではお腹をすかせたのかアオがシンアの指をかじり始める。
「お腹…空いた…」
「プキュー、シンアを食うな!!」
「ふふ、仕方ないよユン君。今日は特別だ」
色んな場所にツッコミを入れてハァハァと息を整えるユンの肩にジェハがそっと手を置いた。そのジェハの手にはいつの間にか二胡があった。
そしてジェハは持っていた二胡を構える。
「勝利!素晴らしいじゃないか!!
清らかで麗わしい阿波の港、そして美少女達。
今日という日を祝して美しいこの僕が…脱ぐよ」
だが、ジェハは二胡を弾くのではなく己の服を脱ごうと右肩に手をかけるのだった。
「曲じゃねーのかよ!」
「ひっこめ、変態!!」
脱ぎ始めたジェハに近くにいたロウエンとマヤが突っ込む。
「つーか、血ィ出てんだよ思いっきり!いっぺん滅べ!!」
剣幕なユンがココになおれ!!とジェハを大人しくさせる。そしてテキパキとユンは止血をして包帯を巻いていく。その時ふとユンはあることに気づいた。
「もう一人の重症人は何所行った!?」
辺りを見渡しても酒が届いて朝っぱらから酒を飲み始めるこの場にルイの姿がなかったのだ。
「ジェハ!ルイは??」
ユンはすかさず一番居場所を知っていそうなジェハに問いかける。が、ジェハはさぁ?と白を切るのだった。
「あぁ!!もう!!
何処行ったんだよ!!ルイ!!」
ユンは自由人過ぎる彼らに対して頭を抱えてたまらず悲鳴をあげてしまうのだった。