阿波の夜明け
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一方、船室ではギガンとルイがこの時を惜しむように酒を飲み交わしていた。その場にひょっこりとジェハが顔を覗かせる。
「ご一緒しても?美しい方々」
「失せな、ヒョロヒョロ小僧」
「いつ聞いてもシビレるね、船長の毒舌」
鋭い罵声を浴びせるギガンの言葉にジェハはうっとりとしながら部屋に入る。そんな彼をルイは冷たい眼差しを向けた。
「せっかくギガン船長と飲み交わしているんだから
ジェハは別のとこに行きなよ」
「酷いなぁ~、僕を除け者にして…
まぁ、ダメって言われても座っちゃうんだけど。」
ルイの拒絶などどこ吹く風のジェハは苦笑しながらちゃっかりとルイの隣に腰かけた。
「船長は僕の…僕達の理想の女性なんだよ。
僕が50年早く生まれていれば…」
ジェハの言葉を遮るようにピクリと眉を動かしたギガンはスッと音を立てずに暗器を取り出してジェハへと向ける。それを瞬時にジェハは苦笑いしながら受け止めた。
「クムジに受けた矢傷はここかい?」
「おや、50年が気に障りました?」
ルイは相変わらずの攻防戦に微笑ましげに眺める。ジェハの言い方には飽きれざる負えないが彼の言っていることは正しい。凛々しく逞しいギカンの背中。少しでも彼女に近づきたいと憧れてきたのだから。
ギガンは鼻を鳴らし、傷口を抉ることを諦めると暗器を仕舞い部屋の窓辺に立った。落ち着いたところでルイはジェハにと猪口に酒を注いだ
「他所の女の所へ行く分際でよく言うよ」
「おや、妬いてくれるんだ?」
嬉しさを滲ませるジェハの言葉にギガンは答えることなく、言葉を続ける。
「お前…あの娘が何者かわかってんのかい?」
「…ま、なんとなくね。
琴なんてその辺の子が嗜むもんじゃないし、キジャ君は時々うっかり姫とか言ってるし。」
「確かに…
身分を隠しているのか?隠していないのか?
たまにわからなくなるよね…」
ジェハは酒を飲みながらボヤく隣で同じく酒を口に含んだルイが笑みを溢した。
そんなジェハにギガンはあえてキツイ言葉をかける。
「ジェハ、分かっているのかい?
厳しいよ、あの子についていくのは。
龍の宿命 ってヤツかい。」
「…知らないよ。
ただ…どうも目の届く所にいてくれないと落ちつかない。」
千樹草を取りに行くときに絶壁の道を足を震わせながらも懸命に足を進める彼女は思わず手を貸してしまいたいほどか弱くて、でも、クムジを射抜く時のヨナが醸し出すのはとてつもなく大きな輝きだった。思わずその輝きに呑み込まれそうだったと、ジェハは頬杖をついて柔らかく笑みを零した。
「あの矢を射る姿にはそそられたなぁ。
射られたクムジがちょっと羨ましかった…」
「仲良くくたばりゃ良かったんだ。
お前みたいな変態はとっとと行っちまいな。
もう帰ってくるんじゃないよ。」
ギガンは言葉を吐き捨てると部屋を後にしようとする。その後ろ姿につれないなぁとジェハは声を漏らして振り返る。
「お前の家はいつだってここにあるよ、くらい言ってくれないの?」
「…言ってほしけりゃ、私をオトせる口説き文句の一つでもひっさげて来な、鼻タレ小僧」
ギガンらしい言葉とそこに含まれる優しさにルイは目を細めて隣に座るジェハを見た。すると案の定、ジェハは何か思い出しているのか嬉しそうに無邪気な笑顔を見せた。その笑みにルイもたまらず笑みを溢した。
だってその言葉はジェハが最初に海賊船に来た時にギガンが吐いた言葉とほぼ一緒だったからだ。
「お前空から降って来たんだって?
それで何でもするから置いてくれだって?
バカな鼻タレだね。女の口説き方を知らないのかい?」
これが13年前に、ルイが目を輝かせながらギガンの元に連れてきたジェハのお願いに対してギガンが最初に彼にかけた言葉だった。
*****
「なっつかしいなぁ、ジェハと最初に会った時が」
「なんだい?ルイも思い起こしていたの?」
ギガンが消えてしまい必然的に二人になった彼らはそのまま酒を飲み交わしていた。
「そりゃあね…あんなこと言われたら感傷に浸っちゃうよね」
ルイは猪口を置くと、頬杖をしてジェハを見る。
「あの時のことは衝撃的だったからね
なにしろ空からボロボロの人が降ってきたんだから」
「ちょっともう少しオブラートに包んでくれないかなぁ…」
直球すぎるルイの表現に、ジェハは嫌そうに顔を顰めたあの時の思いでは確かに懐かしいものだが、少し小恥ずかしさがあったのだ。でも、それでも大切な記憶の一部には違いなかった。
「僕も衝撃的だったよ
僕の右足を見ても、あの能力 を見ても化け物と罵らないし怯えないんだから」
ジェハは嬉しそうに目を細めた。その彼の表情を見てクスリと笑みを溢したルイはそっと大切に言葉を紡いだ。
「だって、ジェハはジェハだろ?」
「ホント、ルイには敵わないな…」
あの時よりも大人っぽくなったルイが発したセリフにジェハは困ったような表情を浮かべながらも口元を緩ませていた。
あの時の僕がどれだけその言葉に助けられたか、キミは知る由もないだろうな…
自嘲気味に笑みを浮かべながらジェハはそっとルイの髪に手を伸ばす。濃紺色の髪に指をかけたジェハは弄ぶように彼女の髪をいじり始める。ほんのりと頬を染めているジェハに為さるがままだったルイは口に弧を描くと妖艶の笑みをジェハに向けるのだった。
「…酔ってる??」
その言葉にハッと現実に戻されたジェハは弄んでいた指を止めるとそっと彼女の髪から手を離した。
「そうかも…」
困ったような表情を浮かべたジェハはこの空気に耐え切れず紛らわすように猪口に入った液体を飲み干した。
「ルイに飲み比べで負けるんなんてね…」
「何言ってるの?
私はさっきから水よ?」
溜め息を吐いて落胆するジェハに、ルイは悪戯が成功したように無邪気な笑みを浮かべて猪口に入っている液体を揺らした。
「そうだったのかい!?」
「ジェハに飲み比べで敵いっこないからね」
驚くジェハを見て、ルイは軽く笑い飛ばすとゆっくりと立ち上がった。
「ほら、お部屋まで運んであげるよ」
クスッと笑みを溢しながらルイはジェハに肩を貸す。
「まさか、ルイに介抱される日がくるなんてね」
「まぁ今日くらいいいんじゃない、羽目を外しすぎても…」
「そうだね、今日は特別な日だからね」
気分が高揚している二人はこの現状を仕方がないと匙を投げる。だって今日で海賊は解散なんだから。
「ねぇ、ルイ」
「どうしたの?」
足取りが怪しいジェハを引きづるような形でようやく部屋に辿りついたルイは、彼をベッドに座らせると水を差しだし飲むように促した。ジェハはそれを素直に受け取り飲み干すと口火を切ろうとする。が、急速に襲ってきたのは強い眠気だった。
「僕と一緒に……」
「おやすみ、ジェハ」
言葉を言い切る前にジェハの意識は遠くなる。そんな彼に申し訳なさそうな表情を浮かべながらルイはベッドに横たわらせると自身はそのベッドに腰かけた。あどけない表情で熟睡するジェハの瞼にかかった前髪をそっとルイは払いのけると、惜しむようにジッと眺める。ジェハが言いかけた言葉の先は容易に想像がついた。でも、ルイはあえて言わせなかった。その言葉を聞いたら決心が揺らいでしまいそうで。
「どんな夢を見てるのかな?」
クスッと笑ったルイはゆっくりと立ち上がった。そしてもう一度目に焼き付けるように彼を見つめると踵を返すのだった。
「ご一緒しても?美しい方々」
「失せな、ヒョロヒョロ小僧」
「いつ聞いてもシビレるね、船長の毒舌」
鋭い罵声を浴びせるギガンの言葉にジェハはうっとりとしながら部屋に入る。そんな彼をルイは冷たい眼差しを向けた。
「せっかくギガン船長と飲み交わしているんだから
ジェハは別のとこに行きなよ」
「酷いなぁ~、僕を除け者にして…
まぁ、ダメって言われても座っちゃうんだけど。」
ルイの拒絶などどこ吹く風のジェハは苦笑しながらちゃっかりとルイの隣に腰かけた。
「船長は僕の…僕達の理想の女性なんだよ。
僕が50年早く生まれていれば…」
ジェハの言葉を遮るようにピクリと眉を動かしたギガンはスッと音を立てずに暗器を取り出してジェハへと向ける。それを瞬時にジェハは苦笑いしながら受け止めた。
「クムジに受けた矢傷はここかい?」
「おや、50年が気に障りました?」
ルイは相変わらずの攻防戦に微笑ましげに眺める。ジェハの言い方には飽きれざる負えないが彼の言っていることは正しい。凛々しく逞しいギカンの背中。少しでも彼女に近づきたいと憧れてきたのだから。
ギガンは鼻を鳴らし、傷口を抉ることを諦めると暗器を仕舞い部屋の窓辺に立った。落ち着いたところでルイはジェハにと猪口に酒を注いだ
「他所の女の所へ行く分際でよく言うよ」
「おや、妬いてくれるんだ?」
嬉しさを滲ませるジェハの言葉にギガンは答えることなく、言葉を続ける。
「お前…あの娘が何者かわかってんのかい?」
「…ま、なんとなくね。
琴なんてその辺の子が嗜むもんじゃないし、キジャ君は時々うっかり姫とか言ってるし。」
「確かに…
身分を隠しているのか?隠していないのか?
たまにわからなくなるよね…」
ジェハは酒を飲みながらボヤく隣で同じく酒を口に含んだルイが笑みを溢した。
そんなジェハにギガンはあえてキツイ言葉をかける。
「ジェハ、分かっているのかい?
厳しいよ、あの子についていくのは。
龍の
「…知らないよ。
ただ…どうも目の届く所にいてくれないと落ちつかない。」
千樹草を取りに行くときに絶壁の道を足を震わせながらも懸命に足を進める彼女は思わず手を貸してしまいたいほどか弱くて、でも、クムジを射抜く時のヨナが醸し出すのはとてつもなく大きな輝きだった。思わずその輝きに呑み込まれそうだったと、ジェハは頬杖をついて柔らかく笑みを零した。
「あの矢を射る姿にはそそられたなぁ。
射られたクムジがちょっと羨ましかった…」
「仲良くくたばりゃ良かったんだ。
お前みたいな変態はとっとと行っちまいな。
もう帰ってくるんじゃないよ。」
ギガンは言葉を吐き捨てると部屋を後にしようとする。その後ろ姿につれないなぁとジェハは声を漏らして振り返る。
「お前の家はいつだってここにあるよ、くらい言ってくれないの?」
「…言ってほしけりゃ、私をオトせる口説き文句の一つでもひっさげて来な、鼻タレ小僧」
ギガンらしい言葉とそこに含まれる優しさにルイは目を細めて隣に座るジェハを見た。すると案の定、ジェハは何か思い出しているのか嬉しそうに無邪気な笑顔を見せた。その笑みにルイもたまらず笑みを溢した。
だってその言葉はジェハが最初に海賊船に来た時にギガンが吐いた言葉とほぼ一緒だったからだ。
「お前空から降って来たんだって?
それで何でもするから置いてくれだって?
バカな鼻タレだね。女の口説き方を知らないのかい?」
これが13年前に、ルイが目を輝かせながらギガンの元に連れてきたジェハのお願いに対してギガンが最初に彼にかけた言葉だった。
*****
「なっつかしいなぁ、ジェハと最初に会った時が」
「なんだい?ルイも思い起こしていたの?」
ギガンが消えてしまい必然的に二人になった彼らはそのまま酒を飲み交わしていた。
「そりゃあね…あんなこと言われたら感傷に浸っちゃうよね」
ルイは猪口を置くと、頬杖をしてジェハを見る。
「あの時のことは衝撃的だったからね
なにしろ空からボロボロの人が降ってきたんだから」
「ちょっともう少しオブラートに包んでくれないかなぁ…」
直球すぎるルイの表現に、ジェハは嫌そうに顔を顰めたあの時の思いでは確かに懐かしいものだが、少し小恥ずかしさがあったのだ。でも、それでも大切な記憶の一部には違いなかった。
「僕も衝撃的だったよ
僕の右足を見ても、あの
ジェハは嬉しそうに目を細めた。その彼の表情を見てクスリと笑みを溢したルイはそっと大切に言葉を紡いだ。
「だって、ジェハはジェハだろ?」
「ホント、ルイには敵わないな…」
あの時よりも大人っぽくなったルイが発したセリフにジェハは困ったような表情を浮かべながらも口元を緩ませていた。
あの時の僕がどれだけその言葉に助けられたか、キミは知る由もないだろうな…
自嘲気味に笑みを浮かべながらジェハはそっとルイの髪に手を伸ばす。濃紺色の髪に指をかけたジェハは弄ぶように彼女の髪をいじり始める。ほんのりと頬を染めているジェハに為さるがままだったルイは口に弧を描くと妖艶の笑みをジェハに向けるのだった。
「…酔ってる??」
その言葉にハッと現実に戻されたジェハは弄んでいた指を止めるとそっと彼女の髪から手を離した。
「そうかも…」
困ったような表情を浮かべたジェハはこの空気に耐え切れず紛らわすように猪口に入った液体を飲み干した。
「ルイに飲み比べで負けるんなんてね…」
「何言ってるの?
私はさっきから水よ?」
溜め息を吐いて落胆するジェハに、ルイは悪戯が成功したように無邪気な笑みを浮かべて猪口に入っている液体を揺らした。
「そうだったのかい!?」
「ジェハに飲み比べで敵いっこないからね」
驚くジェハを見て、ルイは軽く笑い飛ばすとゆっくりと立ち上がった。
「ほら、お部屋まで運んであげるよ」
クスッと笑みを溢しながらルイはジェハに肩を貸す。
「まさか、ルイに介抱される日がくるなんてね」
「まぁ今日くらいいいんじゃない、羽目を外しすぎても…」
「そうだね、今日は特別な日だからね」
気分が高揚している二人はこの現状を仕方がないと匙を投げる。だって今日で海賊は解散なんだから。
「ねぇ、ルイ」
「どうしたの?」
足取りが怪しいジェハを引きづるような形でようやく部屋に辿りついたルイは、彼をベッドに座らせると水を差しだし飲むように促した。ジェハはそれを素直に受け取り飲み干すと口火を切ろうとする。が、急速に襲ってきたのは強い眠気だった。
「僕と一緒に……」
「おやすみ、ジェハ」
言葉を言い切る前にジェハの意識は遠くなる。そんな彼に申し訳なさそうな表情を浮かべながらルイはベッドに横たわらせると自身はそのベッドに腰かけた。あどけない表情で熟睡するジェハの瞼にかかった前髪をそっとルイは払いのけると、惜しむようにジッと眺める。ジェハが言いかけた言葉の先は容易に想像がついた。でも、ルイはあえて言わせなかった。その言葉を聞いたら決心が揺らいでしまいそうで。
「どんな夢を見てるのかな?」
クスッと笑ったルイはゆっくりと立ち上がった。そしてもう一度目に焼き付けるように彼を見つめると踵を返すのだった。