南戒
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「ジェハ、お疲れ様」
「ヨナちゃんを運ぶのはいつでも任せて欲しいけど、男共は自分で跳んでくれないかな。
特にハクとシンア君が重い。」
空も薄暗くなり野宿することに決めた一行。ヨナは筒を持つと、今日の功労者であるジェハの元へ。それを素直に受け取るジェハ。だが、彼の表情は疲れ切りやつれていた。そんな彼に対比し、ハクは意地悪く笑っていた。
「やー、面白かったわ空中散歩。
度々乗ろう」
久々に見るハクの笑顔。ふと目にとめたヨナは無意識の内にジッと見つめていた。そんな柔らかく微笑む彼女をジッと見る人物がいた。それに気づいたヨナは驚きの声を上げた。
「わっ、カルガン!?びっくりした…」
「ヨナはあいつの事が好きなのか?」
「あいつ?」
「あの兄ちゃん。」
真剣な眼差しで問いかけたカルガンの横目に映るのは楽しそうな表情を浮かべるハク。だが、あの兄ちゃんがハクのことだと、ヨナはわかったものの、ピンとこずヨナは不思議そうに首を傾げる。
そんな二人のやり取りを端で盗み聞きしていたルイは、吹き出しそうになるのを必死に抑え込んでいた。
「………何を言ってるの?」
「だってずっと見てんだもん。」
カルガンの指摘にヨナはようやく自覚をし、頬を真っ赤に染めた。その表情に確信を得たカルガンは目を丸くする。
「やっぱり。」
「ち、違うもの。たまたま目がいっただけだもの!」
「そうかなあ。」
「そうよ、ハクは意地悪だし可愛くないし。」
カルガンの一声にヨナは慌てたように否定する。が、意地を張っているしか見えずカルガンは勘くぐるような眼差しを向けた。
面白くなってきた…
ルイは微笑するとハクの裾を引っ張る。引っ張られたハクは不思議そうに振り向く。振り向いたハクが見たのは、愉しげに笑うルイ、そして、ルイの指の先にいるヨナだった。
ハクはわざわざ教えてくるルイに舌打ちしたい衝動に駆られる。が、余計にからかわれるだろうと察したハクは無言のままヨナの方へ歩き出した。
「すいませんね、可愛くなくて。」
ハクは気配を殺してヨナの背後へ。そして腰を屈めるとヨナの耳元に囁いた。その低く掠れた声にヨナはビクッと身体を震わすと、慌ててヨナは振り返った。そんなヨナを横目にハクが身体を起こした。
「何俺の悪口に花咲かせてんすか。」
「ヨナがあんたの事ずっと見てたんだよ。」
「!?」
「何か御用でも?」
カルガンの一言にヨナは赤面させる。そんなヨナを不思議気にハクは見下ろしながら問いかける。が、ヨナは大きく首を横に振った。
「何でもないわ。」
「ヨナがあんたの笑った顔見て幸せそーにしてた。
それならそうと早く言えばいいのに。」
そう言い残すとカルガンは立ち上がりこの場を離れた。
知らなかった、子供って厄介!
その少年の背を見送りヨナは驚き、ハクは首を傾げた。
「笑った顔…?」
「あ、あのねハク。」
慌てて振り返るヨナ。が、振り返った途端に至近距離にいるハクにヨナは固まった。一気に距離を縮めたハクはジッと見定めるようにヨナを見るのだが、ニカッと一瞬笑みを浮かべてみせた。
「なんか面白い?」
「全然。」
「なんだよ、話が違うじゃねーか。」
笑みを瞬時に引っ込めたハクはヨナに問いかける。その問いにヨナは怪訝な表情を浮かべ返答した。その呆気ない態度にハクは拍子抜けしたのか、ヨナから離れた。
そんなに私見ていたかしら…
照れ臭くて俯いたヨナはフード越しにハクを見上げたのだった。
*****
今宵もいい眺めね
木の幹に凭れ掛かってルイは空を見上げていた。そんな彼女の横にストンっとカルガンが腰を下ろすと、ルイを見上げた。
「なぁアンタ、女だろ?」
唐突に言われた言葉にルイはギクッと身体を強張らせた。その言葉を言い放ったのはもちろんカルガン。確信があるのか、カルガンの言葉は迷いがなかった。そんな彼を欺くのは難しいとルイは早々に諦めた。
「どうしてそう思ったの?」
「いい匂いがしたから」
そのセリフ、前にも言われたような…
ルイは野生の感が鋭いカルガンを見てキョトンとした。そんな彼女をカルガンは真っ直ぐに見上げた。
「なぁ、嫁に来いよ!」
今日何度聞いたかわからないこのセリフにルイは小さく笑う。
「ヨナが駄目だから求婚相手を変えたの?」
「うん」
「そっかそっかー」
素直なカルガンにルイは目を細めると、彼の頭を優しく撫でた。その手をカルガンは振り払う。
「子ども扱いすんな!!」
「…ごめんごめん」
ムキになるカルガンにルイは笑いながら平謝りをした。そんな彼女をムスッと見上げたままカルガンは尋ねる。
「で?返事は??」
「ごめんね、嫁にはいけないよ」
「俺が子供だから??」
ルイは小さく首を横に振った。そんな彼女にカルガンは身を浮かせる。シュンとしょげこむカルガンに対し、ルイは淋し気に微笑んだ。
「違うよ。
私はこれから先、特定の人を作るつもりはないの」
ルイが小さく紡いだその言葉に、近くの木々の内の1つの葉が秘かに揺れ動いた。
*****
「嬉しかったよ。
ありがとう、カルガン」
時間も経ち、ウトウトとしだしたカルガンは眠りに落ちていた。寝息が聞こえ始めたのを確認したルイは、彼の前髪を掬うとそっと彼の額に口づけをすると、静かに立ち上がった。
「やぁ、ルイ」
その声にルイはゆっくりと振り向く。するとそこには月明かりを浴びるジェハがいた。
「南戒の月も綺麗だね」
「誘ってる??」
淡い光を背負い妖艶に微笑むジェハの色気に負けじと、ルイは微笑を浮かべた。
「…当たり前だろ?」
「そう…」
珍しく素直なお誘い。だが、その誘いにルイは目を伏せた。
「せっかくのお誘い有り難いのだけど、
今気分じゃないの…」
冷たい風が吹き、濃紺色の髪が舞い上がる。靡く髪から覗ける表情は愁哀に満ちていた。
颯爽とルイはジェハの脇を通り抜ける。が、魅了されていたジェハは慌ててルイの腕を掴んだ。
「…寝たいんだけど」
引き留められたルイは足を止めざるえなくなる。
私はこれから先、特定の人を作るつもりはないの
一体キミは…なにを…
ジェハは先程盗み見していたやり取りを思い出し、眉間にシワを寄せる。が、ルイの纏うオーラに感づいたジェハは慌てて手を離した。
「おっと!
ゴメンゴメン、なんでもないよ
おやすみ」
表情を引っ込めると、ジェハは肩を竦め戯けてみせた。
ニコニコと小さく手を振ってみせるジェハ。そんな彼を一瞥するとルイは、天幕に入っていった。
その彼女の後姿をジェハは見えなくなるまでジッと見つめていた。
僕では役不足なのだろうか?
ルイのことがわからない。一体何を悩み抱えているのか。
助けになりたいのに、ルイはそれを拒絶するかのように適度な距離をとる。まるで危険から遠ざけるかのように。
目尻を下げた桔梗色の瞳の奥はゆらゆらと揺れ動いていた。
「そんなことねぇーぞ、緑龍」
この場にいるのは自分ひとりだけだと思いこんでいたジェハは、ハッとし上を仰いだ。すると黄色の頭が覗いていた。
「あれ?ゼノ君??」
普段本音を吐露しないジェハは顔を引き攣らせた。そんな彼に、枝に座って足を揺らしていたゼノは軽く手を上げた。
「よっ!緑龍!」
そしてゼノは音を立てることなく華麗に地面に着地した。
「…聞こえてた??」
「おぅ!バッチリとな!」
声に乗せてるつもりがなかったジェハはぎこちない笑みを浮かべた。そんな彼にゼノは手を頭の後ろに組んで普段の笑みを浮かべ返答した。
「わぁ〜やっちゃったよ…」
ゼノの答えにジェハは頭を抱え込む。そんな彼にゼノは柔らかく微笑む。
「大丈夫
緑龍がいる限り姉ちゃんが壊れることないから」
全てを察しているのか、ゼノが自信満々に言い切る。そんなゼノを見て、ジェハは目を見開いた。
「…キミは、一体」
「気にすんな。
ただのゼノの独り言だからー」
片鱗は一瞬。ゼノは普段の表情で笑うと、踵を返した。そんな彼に、立ち上がったジェハは困ったなと前髪に手を置いた。
見透かされた挙げ句に励まされてしまった…
「ほんと、ゼノ君は不思議な子だなぁ」
ルイと同様、いやそれ以上に本性を計り知れない少年にお手上げだとジェハは軽く肩を竦めた。