南戒
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タッタッタッ
賑わう村並を一人の少年が軽快な足音を立てて駆け抜ける。そんな彼へ一匹のリスが鳴き声を上げた。
「ぷきゅぅううううう」
「わあっ」
少年を追いかけてきたアオは不思議げに振り向いた少年の顔めがけて跳びつく。その突然のことに少年は驚いて転んでしまうのだった。
「ててて…」
「ちょっと!おむすび返して…って
あれ…子供じゃん」
そこに遅れて到着したユンが尻餅をついている相手を見る。すると、そこにいたのはまだ幼い少年だった。まさかの犯人の正体に拍子抜けするユンに対し、少年はユンのその隙をついて立ち上がって逃げようと走り出す。だが少年が走ろうとした先にはすでにヨナ達が遅れて到着していた。完全に退路を塞がれてしまった少年は、わっと声を上げぺたんと座り込んでしまうのだった。その少年のお腹は、ぐぅぅぅっと大きな音を出す。
「お腹すいてるの?
ちょっと待ってね。」
その音に気づいたヨナは持っている弓矢を取り出し、構えた。そして、空に向かって一本の矢を放つのだった。
「はい、あげる。
あっちの店に持っていけばいくらかで買い取ってもらえるわ。」
「す…すげえ…格好良い女だなぁ~」
ヨナが放った矢が射抜いたのは大きな鳥だった。その狩った鳥をヨナは呆けている少年へ差し出した。そのヨナと鳥を交互に眺め、少年は頬を緩ませて感嘆の声を上げるのだった。
「気に入った、嫁に来いよ!
大丈夫、俺の村は川向こうで13歳で結婚出来る。今は婚約って事でいいから。」
「ちょ…ちょっと…」
先ほどと打って変わって少年は立ち上がるとヨナの手を掴む。そして嬉しげに駆けだそうとするが、すぐさまユンとキジャがその行く手を阻む。
「何が婚約でいいからだよ、駄目だからヨナは!!」
「そなた…子供とはいえ我が主に何たる非礼…っ」
もの凄い勢いで少年に迫りよるユンとキジャ。そこに遅れて到着したジェハとルイがハクの隣に立ち並んだ。
「好敵手だね、ハク」
「頑張れ、ハク」
「何が」
そんな二人の絡みにハクはもちろん相手にするわけがなく流した。一方で彼らの目の前では少年がヨナと他の者を不思議げに見る。
「なんだ、こいつら皆お前の男か?」
「違う」
少年の疑問にすかさず否を唱えたヨナの両手を少年は手を取ると、ヨナをまっすぐに見据えた。
「俺はどうだ?
たくましい女は好きだ。大事にするし!」
「ハク、先越されちゃったね」
「ほら、ハクも何か言わなくていいの?」
「ルイ、ちょっと黙れ
それと言いたきゃてめーが言えよ、タレ目」
外野がそれぞれこの今後の展開を見守る中、ヨナはすぱっと少年に対して口を開く。
「結婚は無理、ごめんね。」
「意外と容赦ないね。」
「嫌だ!!」
「聞き分けなさい!」
だが、ヨナの言葉に対して少年はすんなりと引き下がるわけがなかった。駄々をこねるように声を上げる少年に対し、第3者側として所々で突っ込んでいたユンが荷物からある物を取り出した。
「ヨナはあげられないの。他を当たってよね」
「諦めきれない!」
「諦めろ、俺のおむすびあげるから」
言い聞かすようにユンは、取り出したおむすびを差し出す。それを大切そうに受け取った少年は己の掌にのるおむすびを見て目を輝かせた。
「優しいな、お前嫁に来い!」
「上玉かもしれないけど、俺男だから。」
すんなりとヨナからユンへ矛先を切り替えた少年に1行は苦笑いを浮かべた。
「「惚れっぽい子なんだね…」」
「お前と気が合うんじゃね?
なぁ?ルイ」
「さぁ、どーだろーね?」
「それは誤解だよ
そしてルイはちゃんと僕のフォローしてよね」
しれっと否定してくれないルイに対し、ジェハは困りきった表情を浮かべるのだった。
*****
「ところでさっき自分の村は川向こうって言ってなかった?」
「言った」
「南の方?」
「いや、西」
「え?そっちって戎帝国しかないけど…」
「戒帝国だよ」
ユンの問いただしに対し、少年は素っ気なくある言葉を口にする。しかしその言葉は、ヨナ達にとっては衝撃発言。思わず1行は目を丸くして言葉を失う。しかし、その中でいち早くユンが正気に戻る。
「戒帝国から来たの!?」
「ん」
「一人で?家族は?」
少年に対しヨナが問いかけ始める。
「いるよ、川の向こうに。」
「どうして高華国に?」
ヨナの投げかけに少年は足を止めると遠い目をする。
「……見て…みたかったんだ、高華国がどんな所か。」
「高華国が?」
「…んで何日も歩きまわってたら腹がへって倒れそうになって米盗んだ。ごめん。」
「もういいけどさ」
ユンの方に向き直ると少年は謝る。そんな彼に、もう過ぎたことだとユンは言う。そんなユンに対し、少年は謝罪のあとにある言葉を続ける。
「あんなに美味いもん初めてだった。」
その一声にユンは気分を良くする。そんなユンが荷物から取り出したのは保存食として持ち歩いている
「仕方ないなーじゃあこの
「あー、うちの保存食…」
照れ臭そうに少年に渡すユンが微笑ましいことは事実だが、一同にとって貴重な保存食が渡る行方をゼノは無意識の内に追っていた。
「とりあえず高華国のメシは美味いし、いい女がいる事はわかった」
「ハク聞いた?いい女だって!
はじめて言われた。」
「とりあえず鳥を射落として渡す威勢のいい女な」
「最近のヨナの成長は見ていて誇らしいよ」
「ルイのお陰よ」
嬉しそうにルイを見るヨナ。そんな彼女を横目にルイは進行方向遙か先に集まる集団の存在が気がかりだった。
…??
裾を引っ張られているような気がしたルイは立ち止まる。すると、その正体はシンアだった。
「なにか見えた?」
ルイの投げかけにシンアは小さく頷く。
「ありがとう、父さん達が心配してるから俺帰るよ。」
「大丈夫かい?国境付近は守備隊もいるし危険だよ?」
「平気平気、来る時はそんなに…」
「皆…ッ」
少年の言葉を遮るようにルイが声を上げる。が、その前にシンアが行動を起こした。
どーん!!
「「「「「「「「うわぁあああ!!?」」」」」」」」
ルイが言うより先にシンアが一同を押したのだ。その押し方は勢いがあり、一同が構えていなかったことも重なり、皆重なり合うように倒れ込んだ。
「な…何?」
「いてて…」
「シンアが隠れてって」
「く…口で言おうね、シンア君…」
上にいる者から順に立ち上がる中、一番下で下敷きになっているジェハにルイが手を貸しながら代弁する。それに、ジェハはルイの手を取りながら、苦笑いを浮かべていた。
「どうしたの?シンア」
「川のとこ…
兵士が…いっぱい…来てる…」
「どのくらい?」
「百人…くらい…」
「百人!?」
「来た時はそんなにいなかったぞ。
俺商船に潜り込んだけど大丈夫だったし。
っていうか、見えねぇし!」
「シンアは目がいいの」
その情報に少年の顔は徐々に青ざめていった。
「妙だな…国境付近で何を…」
「採掘の手伝いとかなら平和でいいんだけどねぇ。」
「そんな平和な感じではなさそうだね」
「どうしよう、俺…帰れない…?」
ルイ達のやりとりを聞いた少年は不安げに声を上げた。そんな彼の様子を見てヨナはジェハに尋ねる。
「ジェハ、どこかに道はない?」
「ふむ
僕がいればなんとかなる道ならある」
ヨナの投げかけにジェハは顎に手を当てて、記憶を辿って答える。その答えを聞いたヨナは少年に向き直った。
「あなた、名前は?」
「カルガン」
「カルガン、あなたを村まで送ってあげるわ。」
「えっ…」
名を名乗ったカルガンはヨナの提案に目を輝かせた。
「いいかしら?」
「嫁に来てくれんの?」
「「行きません。」」
嬉し気にヨナを見上げるカルガン。そんな彼を見て、ユンに加えてハクもジト目でツッコミを入れたのだった。