静かな終幕
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ガサガサ
「えッ…
えぇぇぇぇぇぇ!!!」
空に思いを馳せていたルイは突如空から不審な音を立てながら降りてきた彼の姿に驚き悲鳴を上げていた。そんな身を引く彼女にミシッと幹をうならせて降りた彼は愉しげな笑みを向けていた。
「ルイがこんなに驚くなんて珍しいね」
「…ッ!
そりゃあ驚くでしょ!!
何も前触れもなく姿を現さないでよ!
寿命が縮まるかと…」
からかい混じりに覗き込もうとするジェハに対して、ルイはゾッとする寒気を思い出しながら声を荒げて詰めかかる。が、身を乗り出そうとした矢先にルイの視界は真っ暗になった。
「ちょっ…なに!?」
「んん…なんでだろ
なんか抱きしめたくなったんだよね」
ルイはいつの間にか力強い力で引き寄せられていたのだ。唐突な彼の行動にあたふたしその腕から逃れようとルイは身じろぐ。しかし、それを逃さないとばかりにジェハはギュッと抱きしめた。そして堪能するように彼女の肩元にすり寄った。
空から見えた彼女はどこか心あらずで…
空をジッと見上げている彼女はどこか切なげで淋しそうで…
放っておいたら脆く儚く霧のように消えてしまい、そのまま空に吸い込まれそうな気がしてならなかった…
思わずジェハは目の前で憤る彼女を抱きしめてしまった。今ここにいるという事実を確かめたくて。彼女の存在を実感したくて。
そんな彼の心情を知らずルイは困ったように目尻を下げるとそっと彼の背に手を回すのだった。
「ねぇ、ルイ?」
「??なに?」
ようやく気が済んだのか、肩元から顔を上げたジェハは腕の中にいるルイを覗き込むと甘い声で彼女の名前を呼んだ。そんな彼をルイは不思議そうに見上げた。
「ちょっと空中散歩行かない?」
「...連れてってくれるの?」
サラッと口に出された思いもしない提案にルイは目を瞬かせた。そんな彼女にジェハは柔らかく微笑んだ。
「もちろん
ルイが望むならどこにだって連れて行くさ」
そう言うとスゥッとルイから離れると誘うように彼女に手を伸ばした。その手とジェハを交互に見て真意を図っていたルイ。だが、ただ純粋に誘っているのだろうと気づいたルイはクスッと笑みを浮かべると伸ばされた手を取るのだった。
*****
「久々だね
こんなふうにゆったりとした時間過ごせるのは」
「ホントだね」
ジェハの背に身を預けたルイは町並みを見下ろしながら相槌を打っていた。ふと横に目をやるとすぐそこに夕日に照らされた海が輝きそこを横切る漁船が数隻見えた。その光景に自ずとルイの表情は緩んでいた。
「...皆、元気かな?」
自然と口に出たその言葉。その"皆"が誰のことを指しているのかすぐにわかったジェハの口元は緩んでいた。
「あの時みたいに馬鹿騒ぎしながら楽しく過ごしてるんじゃないかな?」
「そっか...そうだよね」
「帰りたくなった?」
揶揄い混じりにジェハは投げかけた。
だがその問いに考える素振りを見せることなくルイは小さく首を横に振った。
「船長にも皆にも会いたい...
でも…」
淋しそうにポツリと呟いたルイは中途で言葉を噤む。その先が気になりジェハがチラッと視線を背後に向けた。すると彼女は待っていたかのように満面の笑みで彼を覗き込んでいた。
「私、今の生活気に入ってんだよね」
「…そっか」
その心から楽しんでいる彼女の表情にジェハは嬉しそうに口元を緩めた。
「ジェハだってそうでしょ?」
「まぁ…うん…
そうだね…」
「もぅ〜素直じゃないんだから!」
ルイの投げかけに対してジェハは歯切れ悪く答えた。そんな素直じゃない彼にルイはケラケラと笑うのだった。そんな彼女に言い返す言葉が見当たらないジェハは彼女のからかい混じりの笑いを止めようと跳ぶタイミングをずらしたり勢いよく地面を蹴り上げてみる。が、その彼の照れ隠しの行動は筒抜けでルイの笑い声は暫し止まることはなかった。そんな彼女にジェハは困り果てていた。
「そろそろ笑いを止めてくれないかな?」
「そんなに指摘されたくなかったら
ちょっとは素直になったらどう?」
その直球の言葉にジェハは言い返す言葉を失った。そんな彼にルイはわざと大袈裟に声を出してみた。
「昔はあんなに素直だったのになぁ~」
「ちょっと…
そんな昔のことを掘り返さないで欲しいんだけど…」
「あれ?思い出されて嫌なことがあるの?
あんなこととか…こんなこととか…」
「あぁ!!お願いだからこれ以上は!!」
愉しげにおちょくりだすルイの頭の中では何を引き出そうかとクルクルと回り始める。そんな今にも口に出しかねないルイに対して、ジェハは頭を抱えるように悲鳴を上げるのだった。
*****
「うわぁぁぁ~!!」
木々の上でも空から見下ろすことでも見れない、間近に広がる一面見渡す限りの青い海。日が沈みかけている水平線を見ると様々な色彩のグラデーションが広がっていた。その幻想的な景色に感嘆の声を上げるルイの背後ではジェハが彼女の様子を見て嬉しそうに目を細めていた。そんな彼にパッとルイは振り返った。
「ありがと!ジェハ!!」
そんな彼女の姿にジェハは大きく息を呑んだ。
一面の海を背景に…
潮風で靡く濃紺色の髪は日の光でいつも以上に艶やかで…
その髪を押さえて耳にかけることで露わになった深緑のピアスが輝きを放っていた。
そして首だけこちらに向けて笑う彼女の表情はとても柔らかくあどけなかった。
「…どーしたの?」
「綺麗だ…」
反応がない彼をルイは不思議そうに見つめる。だが、完全に心奪われていたジェハは無意識の内に心の声を漏らしていた。
「え??
あっ…そうだよね!綺麗な景色だよね!」
ポカンと呆気に取られていたルイは慌てたように相槌をした。その彼女の言葉でようやくジェハは夢心地になっていたことに気づく。
危ない危ない…
内心動揺しているのを表情に垣間見せることなくジェハはゆったりとした足取りで彼女の元へ歩を進めた。
言えるはずがない
海をバックに微笑んだキミに見惚れていた…
なんて…
相変わらず素直に言うことができない自分自身に自嘲気味にジェハは笑った。
近いようで遠いキミとの距離
手を伸ばせば届く場所にいるのに
臆病な僕は未だに想いを伝えられない
それなのに胸に秘めるこの想いはどんどん膨らむばかりだ
「ジェハ??」
目の前まで来た彼をルイは不思議そうに見上げる。すると彼の表情はどこか苦しそうで切なげな微笑みで、見ているだけで胸が締め付けられた。そんな彼女の髪にジェハは手を伸ばした。何度も何度も髪を梳く彼の眼差しはとても優しい桔梗色だった。
決心を未だに固められなくてゴメン…
でも、許してほしい…
キミの傍に立ち続けることを…
誰にもその役目だけは譲りたくないんだ…
どうかキミの笑顔を僕に守らせて…
何も言わずにだんまりとしている自分を見上げる彼女にジェハはフゥッと微笑むと彼女の髪を梳いていた手を離した。そして宙ぶらりんになったその手をおもむろに己の胸元に持っていった。
僕の光が君であるように...
どうか…君にとっての光が僕でありますように...
胸元から取り出したペンダントに祈りを込めて口づけしたジェハは彼女の首に手を回した。そして再びルイの胸元に戻ったペンダントは夕日の光を浴び綺麗な黄金色の輝きを放つのだった。