爆発する感情
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「…どけ」
「ハクがなんと言おうとどかないよ」
「…彼らはリリちゃんの用心棒だ
今回の闘いにも協力して味方になってくれたんだよ」
ハクの口から出たのは腹の底から地を這うような低い殺気立った声。その矛先は己の腕を掴むジェハと目の前に立ち塞がるルイに向けられていた。地の底に叩き落されるようなゾッとする声に怖気づきそうになる彼らだが、2人はどくわけには行かないと言い返した。
「味方…味方だと…?」
その言葉に耳を疑ったハクはビクッと片眉をつり上げた。そして、カッと見開いた青藍色の眼差しでルイの肩越しにいるスウォンを凝視したハクは、掴まれて制止されている腕に力を込めた。
なんて殺気だ…
本気で彼を殺そうとしている…!?
ググッと伸ばされるハクの腕にジェハは掴む力を強めた。
彼を駆り立たせる殺気を一心に受けたルイとジェハは眉間にシワを寄せた。
「とにかく手を下ろすんだ
君も血を流しすぎてる、早く処置しないと」
「放せ」
「ハクが落ちついたら放すよ」
「はなせェ!!」
憎しみのあまりハクは周りを見る視野がなかった。すぐ手を伸ばせば届く距離にいる。そのことでハクは我を失っていた。そして、自分を止めるものは敵だとハクは怒りの感情を露わにしてジェハの掴む手を振り払うと、邪魔だと彼の腹部を殴り飛ばした。
「ジェハ!!」
「邪魔だ!!」
渾身の一撃を喰らったジェハは地面に飛ばされ叩きつけられる。その光景にジェハを心配したルイはハクから視線を逸してしまう。その一瞬のすきにハクはルイの目の前に来ていた。それにルイが気づいたのは耳元で聞こえた冷酷なハクの声だった。視線を左下に落としたルイの視界は左脇への強烈な一撃を感じるとともに大きく歪んだ。
一方、膝立ちの状態まで立て直していたジェハは腹部に残る強烈な鈍痛に顔を歪ましていた。その彼の額には脂汗が滲み出ていた。
「…ルイ!!」
痛みを逃がすために肩で息をしていたジェハはハクにより吹き飛ばされたルイに目色を変えた。血相を変えて勢いよく立ち上がったジェハはルイを受け止めようと腕を広げた。
「…ック」
「ゲホ…ゲホ…」
飛ばされてきたルイの身体を受け止めたジェハは衝撃を受け止めきれず一緒に地面に叩きつけられた。背を打ち付けたジェハは呻き声を漏らしながらも腕の中にいるルイを心配して覗き込んだ。するとそこには先程の自分と同じように身を丸めて咳き込むルイがいた。
「ルイ!!」
「あぁ…さっいあく」
咳込みながらもルイは悪態をつきながら上半身を起こした。
「一先ず平気そうだね…」
「全然平気じゃない」
ホッと安堵するジェハに対して、ルイは苦痛で顔を歪ませた。その彼女の手は蹴られた場所に置かれていた。
「骨が軋むように痛い…
ったく、傷口開いたらどーするつもりよ…」
そう悪態ついたルイの腹部に巻かれた包帯は彼の強烈な一蹴りにより再び開いてしまった傷口から出血した血により赤く染まり始めていた。
「それは後でちゃんとハクに土下座させないといけないね」
それでも上半身を起こしたルイの翡翠色の双眸はしっかりとハクを捉えていることに気づいたジェハはおどけてみせた。そして自分もルイからハクへと視線を真っ直ぐ向けた。
そして感じ取った冷たく哀しい殺気に、彼がスウォンに向けている顔に二人は表情を歪めた。思わずルイは拳を握りしめると、絞る声を出した。
「…何て顔してんのよ」
「まいったな…
そんな顔されては猶更放っておけない」
そんなギュッと握りしめられたルイの拳を優しくジェハは包み込んだ。その手に無意識のうちルイの手に込められた力は緩んでいた。
二人は決意を固めると力を入れて立ち上がり、ハクに向かって駆け出した。そして、ジェハはハクの顔を、ルイはハクの腹部に渾身の一撃を入れた。
「気絶してはくれないか」
だがハクはグラッと一瞬ふらついただけで倒れることはなかった。そんなハクの姿にジェハとルイは大きく息をついた。そして二人は殴り飛ばされた彼らに視線を投げる。
「ねぇ?そこの人たち生きてる??」
「彼は僕らが力ずくで押さえるから
その間に行くんだ」
その二人の言葉に頷きその場を離れようとするジュド達。それに気づいたハクはギラッと青藍色の瞳を光らせ、拳を振りかざす。それを瞬時にジェハが反応し右脚を上げて彼の拳を受け止めた。その光景を横目にルイは視界に入ったキジャの名を叫んだ。
「キジャ、力を貸して!!」
「しかし、これは…」
「このままじゃ、ハクが危ない!」
おどおどしているキジャをルイはピシャっと鋭い一声で黙らせた。その余裕のないルイの表情に、気迫のある一声にキジャは悠長にしている場合がないと目を見開いた。そして、すぐに決意を固めたキジャはルイの指示通りハクを止める加勢に加わった。
「…陛下」
3人が止めている間にスウォンの元に辿り着いたジュドは立ち竦むスウォンを誘導してその場を離れようとしていた。
その光景にハクは必死に手を伸ばし、腹の底から怒声を発した。
「はなせ…はなせェェエエエ!!」
その悲痛な叫び声にルイ達は心痛めながらもスウォンに駆けようとする彼の身体を必死に押さえつけた。
「あいつはッ…
あいつだけは!!!!」
そんな我を忘れて怒り狂うハクの伸ばされた手は温かい温もりを感じた。その温もりにハッとハクは息を呑んだ。そのハクの目の前には彼を見上げるヨナがいた。
「ハク」
そっと彼の名をヨナは紡ぐ。そのヨナの声はようやくハクの耳に届いていた。ビクッと痙攣するハクの指をヨナはそっと包み込んでいく。
「大丈夫」
「私は大丈夫だから…」
耳を疑うような彼女の言葉。その言葉は憎しみで染まっていたハクの心にじんわりと浸透していった。
大丈夫…大丈夫…
ヨナは言い聞かすように何度もその言葉を紡いだ。そのヨナの言葉でようやく暴れていたハクの動きが止まる。そして、怒り狂ってギラついていた青藍色の瞳は徐々に落ち着きを取り戻していったのだった。