深い闇
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「…ハクに先越されたぁ〜」
立ち去るハクと一言二言交わしたジェハは、呆けるルイにお構いなくそっと彼女の背を抱え込んだ。包まれる彼の温もりに安堵してルイは緊張の糸が解けたかのように彼に凭れかかった。
「…ルイ??」
脱力しきったルイの身体をジェハは慌てたように咄嗟に腕に力を入れて支えた。そして、困惑と驚きで彼は彼女を心配そうに覗き込んだ。すると俯いていて表情は見えなかったが、彼女の手が微かに震えているのを見つけた。咄嗟にジェハは自分よりも小さな手を握りしめた。
「ルイ…
何して欲しい?」
「暫くそのままでいて」
「仰せのままに」
ジェハは寂しそうに目尻を下げると、震える彼女を胡座をかいた己の足に乗せてギュッと抱きしめた。
皆の前では虚勢を張っていた
心配させたくなくて。
だが安堵した途端に、あの時の恐怖が蘇ってしまった。こびりついて離れない、嫌な感触を。
ベタベタと這いずり回る手
太腿や腰をスゥっと厭らしく撫でる手
少しでも彼が駆けつけるのが遅かったら、確実に犯されていた。ゾッとするほど悍ましい記憶にルイは全身を震わした。
そんな彼女の心情を察し、黙ったままジェハは抱き続けた。そして、優しい手付きで濃紺色の髪を梳いた。その時、ジェハは見たくない嫌なものを見つけてしまう。
陶器のように白い肌
その首筋には一輪の赤い華が咲いていた
眉間にシワを寄せしかめっ面のジェハは、吸い寄せられるように彼女の首筋に顔を近づけた。
「…ッ、んっ!!」
吐息が掛かり無防備なルイは敏感に反応する。身を捩らせたルイはそれと同時に首筋に柔らかい感触と痛みを感じた。思わず甘い吐息を漏らしたルイに、噛み付いたジェハはこのまま理性を外しそうになる。が、グッと堪えてルイの首筋から顔を離した。
「ジェハ!!」
「虫刺されがあったから
…ちょっと消毒しただけだよ」
驚き以上に羞恥心が上回り、顔を真っ赤に染めたルイが振り返った。そんな彼女にジェハは寂しそうに笑った。
その彼の言った意味を把握したルイは、呆けたように首筋に手を伸ばした。
「…気づかなかった」
ポカンとするルイの漏らした言葉にジェハは顔を顰める。
「普通、気づくよね?」
「舐められた時につけられたかな?」
「どこ…」
「へぇっ!?」
「どこ舐められたの?」
大した事なさそうに間延びした声を発するルイに対して、その言葉を聞いたジェハは聞き捨てならないとしかめっ面を浮かべた。その勢いそのままジェハは若干引き気味のルイに詰め寄った。
「ちょっ!!ジェハ!!」
「アイツラが触れたとこ全部教えて」
もう限界だった
撫で回されただけならまだしも、首筋に痕をつけられ舐められている
押さえていた感情が高ぶり、ジェハは感情のままにルイを地面に押し倒していた。
「……!?」
間近にあるジェハの桔梗色の瞳はギラギラとしていた。
まるで猛獣のように。
ジェハはそのままルイの首筋に顔を近づけて、痕がついた箇所を赤い舌を出してペロリと舐めた。
「…//////」
沸騰するくらい熱くなる顔。ルイは咄嗟に恥ずかしいと隠そうとしてもジェハの手によりそれは遮られてしまう。
舐められた場所が、口づけを落とされた箇所が、触れられた肌が未だに熱い。彼の求めるような眼差しに、表情に、このまま身を差し出したくなる。呑まれそうになる。彼が与えてくれる快楽に溺れそうになる。
だが、ルイは必死に彼の名を呼び続けた。
正気に戻ってくれと
その想いが届いたのか、少ししてジェハの行動がピタリと止まった。
焦点が戻ったジェハが目の辺りにしたのは、息を荒げる愛おしい女性。身に纏っていた服は肌蹴ており、頬を赤く染めた彼女は潤んだ翡翠色の眼差しを自分に向けていた。
ガツンと鈍器で殴られた気分だった。
己の欲望のままに抱こうとしていたのだ。
なにやってんだ…
ジェハはそろりとルイから退くと地面に座り込み頭を抱え込んだ。
「ご…ごめん
僕は…とんでもないことを…」
「…ありがと、上書きしてくれて」
声を震わし、もう彼女に合わす顔がないと俯くジェハに反して、衣服を整えて起き上がったルイは目尻を下げて微笑むのだった。
その言葉に幻聴かと恐る恐るジェハは顔を上げた。すると、自分の行動を咎めることもせず、怒鳴り散らすこともせず、微笑するルイがいた。
「もう不快な感触も記憶もないよ
…ジェハのおかげ」
「でも…僕は…
彼らと同じようなことを…」
「違うでしょ?」
「…??」
「宥めてくれた
…アイツラとやってることは全然違うよ」
失態を嘆くジェハとの距離をルイはゆっくりと縮めていく。そして、付け足すように言葉を紡いだ。
「私が望んだことなんだから
…責めないで」
地面に置かれた手にルイは触れる。ビクッと震わしたジェハだが、伸ばされた手をそっと掴んだ。
握り返してくれた
そのことに安堵したルイは未だに後ろめたそうな表情で明後日の方向を見るジェハに顔を近づけた。
「…!!」
「私がいい!って言ってんだからいいの!!
わかった??」
「………わっ、わかったよ」
眉を顰めてダメ押しをするルイに、ユラユラと桔梗色の瞳を揺らしたジェハは複雑な感情を抱きながらも彼女の勢いに負けて了承するのだった。
「よろしい!!」
ジェハの反応に満足気に頷くとルイはスゥっと立ち上がった。そして、上の空のジェハの背に回り込んだ。
「…??」
「潜入の間、持ってて
…おっ、お守り代わり」
ルイがジェハの首につけたのはペンダント。呆気にとられるジェハに対して、ルイは恥ずかしながらも言葉を詰まらせて言い切った。その言葉にジェハは驚きで目を見開いた。
「…お守り??」
「そう!お守り!!
私今回行けないから」
まさかお守り代わりに肌見離さず持っているペンダントを持たされるとは思わなかったジェハは嬉しそうに目を細めた。
「やっぱり、ホントは行きたいんだね?」
「そりゃあ行きたいよ
でもっ…遊女と遊んでいる姿…見たくないから…」
からかい混じりのジェハの言葉に対抗して大きな声を出したルイ。だが、徐々に威勢を失いルイの声は尻すぼみになっていた。
「…!?」
「とにかく!!
お願いだから、サッサと情報仕入れて帰ってきてよね!」
恥ずかしさを誤魔化すために、ルイは話を一方的に切り上げて急いで天幕に戻った。そんな彼女に対して、か細い声が耳に届いていたジェハは夢じゃないかと頬をつねってみたりしていた。が、紛れもなく現実で、それを示すようにジェハの胸元で金色のペンダントが輝いているのだった。