南戒
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「カルガン、どうしたの?」
「あ…ちょっと疲れちゃった。」
起床したヨナが見つけたのは疲れが見えるカルガンだった。
「歩きづめだったものね。」
「カルガン君にはキツかったな。僕が背負って行くよ。」
ジェハがカルガンに手を貸そうと屈む。が、彼の目の前でカルガンが消える。その先にジェハは目を向ける。すると、カルガンはキジャに背負われていた。
「カルガンは私に任せよ。
そなた昨日の疲労が取れておらんのだろう。」
己のことには無頓着な長男に対し呆れながらキジャはカルガンを背負いなおした。
その一連の行動にジェハはキョトンとする。が、ようやくキジャが気遣ってくれているのだとわかったジェハは口元を緩めた。
「…やだなあ、別になんともありませんよ?」
「シンア、そなたジェハをおぶってやれ。」
調子を良くしたジェハを一瞥したキジャはシンアに目配せする。それに小さく頷いたシンアは身体を屈ませた。
それを見たジェハは背負われた後に、揶揄われるのを容易に想像できた。主に二人によって。
ジェハは苦笑いを浮かべるとやんわりと断った。
「…いや、それは遠慮するよ。」
「素直に甘えればいいのに…」
「ルイ、楽しんでるだろ?」
「さぁー?どうだろうね?」
ボソッと独り言を漏らしたルイに、ジェハはジト目を向ける。が、どこ吹く風だとルイは知らんふりし、前方へ歩き出した。
「なんか…ごめんなあ。会ったばっかで迷惑かけて。」
「そなたを運ぶ事など造作もない。気にするな。」
申し訳なさそうにカルガンがキジャの背から顔を覗かせる。そんなカルガンにキジャは頬を緩まし、歩き出した。
「ちょっとだけだったけど楽しかったよ、高華国。
俺の村は閉鎖的でさ、あまり余所の人と話す機会ないし。」
「父さんも母さんも高華国に行きたいって言っても反対するしさ。
こんないいヤツらに会えるなら早く行けば良かった。」
カルガンは声を弾ませた。
「そなたにとって高華国が良き思い出になったのなら誇らしい。
だが…」
嬉しそうに話すカルガンに対し、キジャは淋し気に微笑んでいた。
「父上と母上の言葉を無視してはならぬぞ。
いつまでも近くで叱って下さるとは限らぬのだ。
大切な事を教わる時間を大切にするのだぞ。」
語り掛けるように話したキジャは遠い目をしていた。
父親・母親だけではない。大事な人との大切な時は、思いもしない瞬間に崩れるものだ。ここにいる誰しもが、少なからずそういう経験をしてきていた。
だからこそキジャの言葉に、各々黙り込み寂しげに目を伏せていたのだった。
「あっ、あの丘を越えたら俺の村だよ!」
カルガンが声を上げる中、ルイは息が乱れているキジャを心配していた。
様子がおかしい…
普段重い荷物を軽々持ち運ぶキジャが、音を上げるはずがないのだ。
不審に思ったルイはカルガンを預かろうと動こうとする。が、その前にキジャが動いた。
「………シン…ア…」
弱り切った小さな声で呼ばれたシンアは振り向く。その途端、シンアの胸元にカルガンが押し付けられた。
「すまぬが…カルガンを頼む…」
シンアは呆気にとられながらカルガンを抱きかかえた。一方、預けたキジャは俯いたまま動きがなかった。その後ろ姿にジェハはキョトンとした。
「なんだ、キジャ君。もうバテたのかい?
君は馬鹿力のくせに本当体力ない……」
「…キジャ!!」
ジェハの軽口に反発することなくキジャの身体は力なく倒れ始める。薄々と感づいていたルイは、血相を変えて飛び出した。そして、地面に叩きつけられそうなキジャの身体を寸前でルイは受け止めた。
「キジャ君!?」
茶化そうとしていたジェハはようやく異変に気付くと、ルイが抱えているキジャの元へ駆け出した。
「ルイ!!」
「ジェハ、どうしよ…
酷い熱だよ」
ルイは苦しそうなキジャの額に手を置き、表情を歪ませた。
「どうしたの!?」
「わからない、突然倒れて…」
「早くどこかで休ませないと」
後方での悲鳴に前方にいたヨナ達がキジャの元へ駆け寄った。すぐにキジャの様子を確認したユンは血相を変え顔を上げた。そのユンの言葉に、カルガンが口を開く。
「それなら俺の家に来いよ。ここからすぐだ。」
「本当?助かるよ。」
「うん、俺もすげえ世話になったしさ。
きっと父さん達も歓迎してくれるよ。」
そのカルガンの一声で一同は動き出す。
「ジェハ、荷物持つよ」
「ありがと、ルイ」
確認し合うことせずにそれぞれの持ち場を把握したルイとジェハは阿吽の呼吸で動く。ルイはジェハが背負っていた荷物を持ち、ジェハは軽くなった背にキジャを背負う。
「…急ごう」
ユンの号令に一同は頷くと、カルガンの案内で村へと急いだ。
「カルガン!」
「父さん、母さん。ただいま。」
「お前っ、どこに行ってたんだ!?」
村が見えてきた途端、カルガンはシンアの腕から飛び降りる。そして、両親の元へ走り出した。
「…ごめん。それよりちょっと客を連れて来たんだ。」
「客…?」
心配する両親にカルガンは謝ると、顔を上げる。そのカルガンの視線の方へ両親は顔を向ける。だが、奇怪な集団に彼らは顔を顰めた。
「…誰だ?」
「高華国で友達になったんだ。」
「高華国!?お前やっぱり高華国に行ってたのか?お前って子は…
あんなに駄目だと言ったのに…!」
「う…」
ポロッと行く先を明かしたカルガンに両親は目の色を変えた。そんな彼らの気迫にカルガンは返す言葉もなく喉をつまらせた。しかし、今は叱られている場合ではないと気を取り戻す。
「とにかく話はあと!倒れて熱を出してる奴がいるんだ。
家で休ませていいだろ?」
「あんな怪しい連中をか?冗談じゃない!」
必死に頼み込むカルガンの申し出に、カルガンの父は集団へ奇怪な眼差しを向けた。
まぁーな
でしょうね…
だろうね…
彼の相応な反応にご尤もだと、ハク・ルイ・ジェハは顔色一つ変えなかった。
一方で、このままでは引き下がれないとカルガンは父に縋る。
「待ってよ。俺こいつらに高華国ですげェ世話になったんだ。いい奴らなんだ、頼むよ。」
その言葉に改めて彼はぐったりとしているキジャを見た。
「…わかった。お客人こちらへ。寝床を用意しよう。」
カルガンの父は渋々了承すると、聞こえてきた高華国という言葉でざわつく村内を突っ切り、一同を家へと案内するのだった。