南戒
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「へえ…」
仙水を離れて数日後
一行は地の部族領国境沿いのとある村を訪れていた。
「あちこち見て来たけど地の部族領は近頃活気があるね」
ガヤガヤと人通りが多い大きな道を通りながら、一行は活気あふれる村を見渡した。
「どうやら最近宇土鉱山から貴重な石が採掘されたみたいだよ」
「そそ
その影響で商人が増えたらしいよ」
「あのオッサン一発当てやがったな」
どこから仕入れたのか、辺りを物珍し気に見渡しながらルイが口を開き、その情報に重ねるようにユンが続けた。その彼ら二人の情報にハクは頭の中に1人の男の姿を思い浮かべた。
「羽振りが良いんで色んな物が入手出来ると思って来たんだ」
「これだけ人が多ければ僕らが目立つことはなさそうだ…っ」
ウキウキとするユンに対し相槌を打つルイなのだが、急に口を噤んで立ち止まった。そんなルイを不思議そうにユンは首を傾げる。
「…ルイ?」
「あぁ…ごめん、なんでもないよ」
ユンの言葉に、ハッと慌てたようにルイはユンに愛想を振るまいた。そんなルイの不可解な態度にユンは再び口を開こうとする。だが…
「なあ、ボウズ!腹へったー
肉まん買お、肉まんー」
「ちょっと待った。今日はごはん持って来たんだ」
周囲の光景に目を輝かせていたゼノが割って入るように駆け寄ってきた。そんなゼノに対して、追求する口を噤むとユンは荷物をガサガサと漁り始める。そして取り出した竹の葉で包んだ物をゼノへと手渡した。
「はい、塩おむすび」
「へへーっ」
差し出されたおにぎりにゼノは嬉しそうに飛びついた。そんなゼノに塩むすびを渡したあと、ユンは次々に荷物から包みを取り出して渡していく。
「いただきます」
「これだけの米を確保しただけでもユン君の努力を感じるよ」
「半分はルイのおかげだよ
ねっ…ルイ……」
受け取ったジェハの言葉にユンはそんなことないと返しながら、ルイに渡そうと振り向く。だが、ルイは先程以上に鋭い眼差しで背後のどこかを睨みつけていた。
そんな彼女の稀に見ない豹変ぶりにユンは言葉を失ってしまう。そのユンの目線の移動に合わせて振り向いたジェハは、ルイの姿に少し顔を顰めた。そして、彼女に声を掛けようと一歩足を踏み出したその時、ヨナが悲鳴を上げるのだった。
「ユンのおむすび、持っていかれちゃった…」
「なにーっ!?」
ヨナが目を輝かせたその隙に何者かが彼女の持っていたおむすびを盗んでいったのだ。その一大事に、1行は慌ただしくおむすびを奪還すべく動き出した。だがその喧騒音ですら、人一倍敏感なはずのルイの耳には届いていなかった。
久々に見る活気あふれる村
しかし、ある一角から降り注ぐのは鋭い視線
そしてその視線は身に覚えのある禍々しいもの
唯一の救いはその視線の矛先がヨナや他の仲間でないことだ
「……ッ、ルイ?」
「……」
「ルイッ!!」
視線だけを後方にやっていたルイは強く肩を叩かれる。それと同時に鼓膜を揺らすのは己の名を呼ぶ鋭い声。それに気づいたルイは顔を上げる。するとそこには眉をひそめたジェハがいた。視線が交わったことにジェハは気づくと小さく息を吐き出した。
「ルイ…
その殺気を収めて」
「あっ…」
諭すようなジェハの一声に、ルイは思い出したように無意識のうちに出していた殺気を鎮める。そんなルイにジェハはこめかみを軽く押さえながら深く息を吐き出した。
「もしかして、無意識?」
「う…うん」
「なにかあった?」
「…ちょっとね
でも、大丈夫…」
そう言いながらルイは先程の場所に目をやる。しかし、もうそこには先程の視線は綺麗サッパリ消え去っていて、ルイは大きく息を吐き出しホッと胸を撫で下ろすと、ようやく真正面から彼を見上げた。
「みんなに危害が加わることはないよ」
「…それってルイには危害があるってことだよね」
「………」
「……ルイ」
黙り込むルイにジェハは語彙を強める。そんな話せといわんばかりに迫るジェハに拗ねたようにルイは視線を逸らした。
「別にいいじゃん…」
「…相変わらずルイはわかってないな」
「なにが??」
「そのみんなに、ルイ自身が加わっていないと意味がないってことを」
「……」
「……ルイ」
「わかってる…
なにかあったら言うよ…」
ここぞとばかりに追求をしてくるジェハに対し、ルイは一方的に話を切り上げる。その見え透いた態度にジェハは頭を抱え込んだ。そんな彼などお構いなしに、ようやく視野が広がったのかルイはふと湧き上がった疑問を口にする。
「あれそういえば?他のみんなは?」
「ヨナちゃんのおむすびを奪った犯人を追いかけていったよ」
ようやく、彼以外の仲間の姿が見当たらないことに気づき、辺りを見渡すルイに、やはり気づいてなかったのかと、ジェハは肩を竦めた。そんな彼をルイは不思議げに見上げる。
「ジェハは行かなかったんだ」
「他のみんなが行ったんだ。
僕一人くらい追いかけなくたって問題ないさ」
「ヨナ絡みになるとみんな血相を変えるもんね。
ジェハも…もちろん、僕も含めて…」
「まぁーね…でも…」
口を噤むとジッとルイを見下ろす。それにルイは不思議げに黙り込んだままのジェハを見上げる。そんなまじまじと見つめてくるルイにジェハはうっとりと目を細めると、身体を屈めグッとルイに顔を近づけた。その彼の行動に動揺しルイは半歩後退りし大きく翡翠色の瞳を見開いた。そんなルイに、ジェハは距離を縮め、彼女に言い聞かすように言葉を紡ぐのだった。
「僕にとっての優先順位は今も昔もこれからも…
変わることはないさ」
「…優先順位??」
「そっ…優先順位」
意味がわからないと首を傾げるルイに、優しく笑いかけるとジェハは小さく彼女の肩を叩くと数歩前に歩を進める。
「ほら?行こ?
そろそろ追いつかないと、みんなに不審がられるよ」
「…そうだね」
歩を止め振り返ったジェハの元へ、呆けていたルイは慌てたように駆けた。
そして二人はヨナたちが駆けていったほうへと急ぐのだった。
「お頭…いいんですか?
ずっと探し求めていたんでしょ?」
「あぁ…いいんだ」
部屋の一室の窓から外を見下ろしていた一人の男が視線を外す。視線を外した男は、嬉しげに目を細めていた。
そんな彼の様子に、お頭と呼んだ者は不思議げに彼を見た。
「なにか策でも??」
「策??
そんなもの必要ないさ」
彼女は運命から逃れられない
自ら僕のもとへと戻ってくるさ
お頭と呼ばれた男は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべると、再び窓の外へと目をやる。その男の視線の先には、濃紺色の髪を揺らすルイの後ろ姿があった。