静かな終幕
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「「雨…」」
暫く酒盛りをしていたルイとジェハはポツンときた雨粒に頭上を見上げた。すると、少しずつ雨足が強まり始めてこのまま外で食事ができる状態ではなくなってしまった。
「やれやれ、いい酒だったのに」
「あーぁ、残念」
ジェハは酒瓶を残念そうに置いて嘆き、その隣でルイはガクッと肩を竦めた。そんな2人を横目にユンは鍋を持ち声を上げる。
「総員退避!料理を死守!」
「ユン〜
キジャが何かしてるけど〜」
「後ろで平貝と格闘している白い人はうどんでも運んで!」
的確なツッコミを入れながらユンが指示を飛ばす。その指示に一同は俊敏に動き出した。
「わわっ、濡れちゃう」
「リリ、こっちへ」
「う、うん」
「ゼノも」
「僕も♡」
「バカか!」
慌てて近くにある料理を持つリリにヨナは近くの天幕へと誘った。それにニッコリと笑って付いていこうとする者が二人いた。その今にも行きそうな2人の背後にルイは近づくと2人の頭上に拳骨を落とした。
「ヨナとリリちゃんの水入らずな一時を邪魔する気か!」
「殿方は全員こちらにいらして
もちろんルイさんも」
そのわなわなと肩を震わすルイに、冗談冗談とゼノとジェハは愛想笑いを浮かべて必死に弁明をしだす。そんな3人にテトラとアユラは一言声を掛け、もう一つに天幕へといざなった。そして、ヨナとリリ以外の残りのメンバーは別のもう一つの天幕へと集まった。だが、定員を超えている為、天幕はギュウギュウ詰めだった。
「やっぱり狭い…」
「ルイ、コッチおいで」
天幕に入ったルイは嘆くようにボヤく。そんな彼女を一足先に天幕に入っていたジェハが己の元に引き寄せた。そのせいで足がふらついてしまい不可抗力でルイはジェハの胸元に飛び込む形になってしまった。
「「………」」
引っ張ったジェハも胸元に飛び込んでしまったルイもこの状況に理解が追いつかず互いに固まってしまう。だが、先に正気に戻ったルイは照れくさそうにモゾモゾと急いで身体を反転させた。互いに気まずそうに視線を合わせない2人。だが、ちゃっかりとルイの腰にはジェハの手が回っていた。
「……えーっとなんだこれ」
その光景にコッチまでが恥ずかしくなると呆れた眼差しで見ていたユンは辺りを見渡して小さく息を吐きだした。みっちりとした空間。まともに座ることができてるのはテトラとアユラとハクとゼノと自分。キジャとシンアは床に這いつくばっていて、ルイとジェハは立っていた。その状況下にも関わらずシンアとゼノは頬張るように料理を食べていた。
そんな一同を前に神妙な面持ちを浮かべていた2人の内、テトラが口火を切った。
「…先程のお話ですけれど」
雨が降る前までテトラとアユラはハクと共に居たのだ。その中途半端に中断されてしまった話をテトラは再開させた。
「私はアン・ジュンギ将軍とリリ様に全てを捧げる身…
ジュンギ様の利になる事は何でもいたします
ですが…」
言葉を区切ったテトラは表情に影を落として目を伏せた。
「ジュンギ様とリリ様さえ良ければ良い…
なんて馬鹿な事私は思いません。
貴方方は水の部族の恩人。
緋龍城のお姫様は従者達に連れ去られ殺されたと聞いておりました。
真実はなかなかに届いて来ぬもの…
きっと様々な苦難がおありだったのだとお察しします。」
ポツリポツリと言葉を紡ぎながらテトラと傍にいたアユラはヨナの事を思い浮かべていた。
ヨナちゃんのあの静かな眼差しは何も知らない16歳のお姫様のそれでは既になく…
「ですから、リリ様と私達の大切な貴方方へ…」
そう言うとアユラとテトラは深々と彼らに頭を下げた。
「これからの道中、どうか…どうかお気をつけて」
2人は一行の旅の武運を祈ったのだった。
一方、リリはヨナに自分の目標を話していた。リリの目標とは、本来の水の部族に戻ること。元凶は取り除いた。だが、
「それにはお父様の協力がいるのだけど…
あの人は面倒事に蓋をして、私の言う事を聞こうともしないのよ
あんなんで将軍といえるのかしら」
思わず心の内を漏らしてしまったリリは知らないうちに愚痴ってしまったことに不味いと1人あたふたしだす。だが、そのリリにとっての愚痴に対してヨナは目を伏せてポツリと言葉を返した。
「父親って…娘からは何を考えてるかわからないわよね
でもね、リリ
味方になってあげてね
いざとなったら味方になってあげてね
父上を理解出来なくてもリリは父上を独りにしないでね」
その祈るように懇願するように語りかけるヨナの言葉にリリは不思議そうに顔を上げる。するとそこにいたヨナの横顔は今までに見たことがないくらい切なげだった。
「…あの…ヨナ…」
リリは歯切れ悪く、おどおどしながらもずっと気になっていたことを意を決して切り出した。
「私は水の部族長の娘だし、その事を黙ってたし。
だからって何の力もないし、あんたからすれば私なんて信用出来ないだろうけど」
「リリ?」
「聞きたいの、あんたの事を知りたいから。
…あんたは…失踪して殺されたはずの…
ヨナ…姫…?」
その核心に迫るリリの投げかけに対してヨナは黙ったまま俯いた。沈黙は肯定。全てを悟ったリリの瞳からは涙が静かに流れ出した。そんなリリを顔を上げたヨナは不思議そうに見つめた。
「…何を泣くの?」
あんなにたくさん救ってもらったのに
私が…あんたにしてやれることは…
かけてあげられる言葉は…
何も…ない…
だったらと、リリは上ずった声で懸命にヨナに叫んだ。
「…あんたがこれから困った事とか泣きたい事があったら私を呼びなさい。
とんで行くから!
任せてよ、今度は私が身体張ってでもあんたを守るから。」
非力だけどまたあんたを追いかけるから…
「私の事ちょっとでもいいから覚えてなさいよ!」
そんな必死に訴えるリリにヨナはふわっと柔らかい微笑みを零した。
「…一緒に戦った戦友を忘れたりしないよ」
「~~~っ」
友達だからなんて恥ずかしくて怖くてこっちは言えないのに…
こんなにも嬉しい言葉を掛けてくれるヨナに、リリは唇をギュッと噛み締めて流れる涙を必死に止めると、照れくささを隠すように大きな声で叫んだ。
「ムカつく!」
「え?」
恥ずかしくて言い返せないリリが発した気持ちと裏腹の言葉。その予想を上回る言葉にヨナはキョトンとしてしまった。
*****
リリ達が水の部族の恩人達に思うのは只一つだけ。
どうかこの朝日が彼らの行く道を明るく照らしますように…
そうして一晩中降り続いた雨は
明け方
赤い髪の姫とその一行と共に姿を消すのだった。