黒幕との鉢合わせ
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早く目を開けて
早く...声を聞かせてよ
ちゃんと無事に帰ってきたよ
君の元に
だから、早く僕を安心させて
君が傍で笑っていてくれないと
僕は生きている居心地がしないんだ
*****
「......ッ!!」
どのくらい眠っていたのだろうか
浮上した意識の中、ルイは右手に意識を集中させた。動かそうかとした右手は指先だけが少しだけ動く。
まだ抜けていない
それを悟ったルイは不甲斐ないと内心で大きく息をつくと、ゆっくりと重たい瞼を開けるのだった。
ボヤケて焦点が合わない視界の中、まずルイが見たのは木の天井。恐らく宿の一室だろうと、把握したルイは動かせない顔の変わりに眼球を横に動かした。
すると、直ぐ側に片膝を抱えて座り込む彼を見つけた。いつからそこにいてくれたのだろうか。目を醒ました時は必ずと言っていいほど彼がいる。それがどれだけ嬉しいことか。
「…・・…ハ…」
彼の名を紡ごうと口を開く。が、ルイの声は言葉として聞き取れないくらい掠れていた。自分が発した声とは思えないほどの声に、ルイは大きく目を見開いた。
こんな声で気づいてくれただろうか?
不安になるルイ。だが、彼女の目の前でムクッとジェハが顔を上げた。顔を上げたジェハは、横たわるルイの目が開いていてコチラに向いているのに気づくと、血相を変えて近寄った。
「ルイ!!」
「…ッ…ジェハ…」
ガバっと覗き込んできた彼の顔は今にも泣き出しそうな表情だった。
なに泣きそうな顔してるの?
私はちゃんとここにいるよ
もう大丈夫だよ
だからそんな顔しないでよ
安心させたい、不安を和らげたい、責任を感じてほしくない、言葉でちゃんと伝えたいのに、虫の息のような細い声しかでなかった。
そんな彼女の容態を察したジェハは、ゆっくりと彼女の背に手を回して負荷がかからないように慎重にルイの身体を起こした。
「…飲める??」
サッと差し出されたのは水が入った湯呑だった。ルイは飲もうと腕を動かそうとする。が、自分のものでないようにうんともすんともしなかった。
「飲めなそうだね」
ルイの動かせない腕に困ったように顔を顰めたジェハはルイの身体を自分のもとに引き寄せた。そして、ゆっくりと湯呑を傾けて水を飲ませるのだった。
「…ありがと」
「こんくらいお安いご用さ」
ようやく声になった言葉にホッとしたルイは彼を見上げて微笑んだ。その微笑みに釣られるようにジェハは目尻を下げて微笑した。
「ルイの身体、冷たい」
「ジェハの身体が温かいんだよ」
ギュッと抱きしめたジェハがポツリと言葉を零す。その独り言にルイは笑みを零した。
「ヨナとテトラさんは無事?」
「あぁ…
ルイのお陰で2人とも無事だよ」
「違う…」
「えっ??」
「違うよ…
私がもっとちゃんとしてれば、2人にあんな傷負わせずに済んだ」
良かったと安堵すると思いきや、ルイは悔しげに顔を歪ませた。
もっと早く気づいてれば、テトラは刺されなかった
もっと早く駆けつければ、ヨナが斬られることはなかった
何度も何度もシャッターを落としたように鮮明に蘇る血飛沫が舞う光景に、ルイは罪悪感で押しつぶされていた。
「ルイ、それは違うよ」
「…えっ」
「ルイがいたから
2人共無事だったんだよ
ルイが彼女たちを守ったんだ
だから自分を責めちゃ駄目だ」
ジェハは小さく首を振って否と答えた。そして、彼女を諭すように優しく語りかけるのだった。
「それ、ジェハが言っちゃう??」
「…僕はいいんだよ」
その言葉に仕返しと言い返すルイ。その図星のセリフにジェハはたまらず自分を見つめる翡翠色の双眸から視線を逸した。だが、ルイはそれを黙って見過ごさなかった。
「駄目だよ」
「…ッ!なんで!!」
「ジェハは何も悪くない」
「ルイがそう思っても僕はそう思わない
だってッ…」
顔を歪ませたジェハは彼女を抱く力を強めた。
「くっ…苦しいよ」
「……ルイが懸命に戦っている時に何もできなかったんだ
傍にいることも…
危険から守ってあげることも…
僕はルイの背中を守る相棒なのにッ…」
「ジェハ…」
「これじゃあ胸張ってルイの相棒だって言えないよッ…」
啖呵を切ったようにジェハは赤裸々に思いの丈を声を震わして述べていった。それを黙り込んで聞いていたルイは目を伏せて聞きそびれてしまうほど小さな声でボソリと呟いた。
「...バカ」
「...?!」
耳に聞こえてきたワードにジェハは動揺し、抱きしめている力を緩めた。そんな彼の腕を引き止めたいが、身体は言うことを聞かない。ルイは俯いたまま肩を震わせて感情をぶつけていった。
「どんなことがあろうが、私の相棒はジェハただ一人だよ」
「そりゃあ今一緒にいる仲間は信頼してるから背中を預けるくらいできる
でも...ッ
一番一緒にいて動きやすいのも全部を預けられるのもジェハだけなんだから!」
「ジェハが相棒だから
私は前だけを見てられるの!
逃げたくても戦えるの!
だからそんな事...ッ、言わないでよ」
その彼女の言葉に驚きジェハは目を見開く。そして、申し訳なさそうに目を伏せ、彼女を安心させようと今度は優しく包み込むように抱いた。
「...ゴメン、軽率過ぎた
二度とこんなこと言わない」
「ホントに?」
「もちろん
僕にとっても相棒はルイだけだから」
見上げてきた翡翠色の瞳は不安げに揺らぐ。そんな彼女の髪を優しく梳いてジェハは嬉しそうにはにかんで答えるのだった。
その彼の普段は滅多に見れない少年のような笑みにルイの心臓は高鳴った。その高鳴りを悟られたくなくてルイは辺りをキョロキョロ見渡して話題を変えた。
「そーいえば他の皆は?」
「他の四龍達はヒヨウの足掛かりを探しに行ったよ
ハクはもちろんヨナちゃんとこ
ユン君はテトラちゃんの様子を見に行ってる」
「...そっか」
「で、僕はルイの介抱ってとこかな?」
「棘があるように聞こえるのは気のせい?」
小さく笑ったジェハの発した言葉にルイは顔を引きつらせた。そして案の定、ルイの予想通りジェハは鼻で笑って肯定の意を示す。
「まさか?
そんなわけないだろ?」
「...だよね」
「行動力があるのはいいけど
無茶しないでほしいのが本音
ぶっ倒れるなら僕の目の前でして」
懇願するように声を振り絞るジェハ。だが、今度は逆にルイがクスクスと笑みを零した。
「それは無理でしょ?
だって背中を守ってくれるジェハがいる目の前で私がぶっ倒れるわけがないもの」
「...そーだったね」
ルイの言葉にジェハは目を細めた。
「傷の具合診てもらおうか?
ユン君呼んでくるよ」
「もう少し傍にいて」
そうだっ、と腰を上げようとするジェハ。だが、その彼の行動をルイは微かに動くようになった手で引き留めた。
「...わかったよ」
暫し躊躇したジェハだが、観念して座り直した。そして、そのままなだれ込むように彼女を抱えて布団に倒れ込んだ。
「…?!」
突然の行動に構えていなかったルイは、目の前が突然反転して逞しい胸板になったことに一気に顔を火照らせた。そして、モゾモゾと彼の腕の中で身じろぐのだが、それを阻止するかのようにジェハの腕ががっちりとホールドした。
「ちょッ………」
声を上げようとしたルイ。しかし、聞こえてきた寝息にルイは口を噤んだ。気持ちよさげに眠る彼を起こす気にはなれないルイは急に大人しくなると、彼の胸に頭を預けた。
どーやって今まで寝ていたのだろう…
気持ちを自覚してしまったために目が冴えきってしまい眠れない。バクバクとする己の心音を感じながら目をギュッと閉じていたルイ。だが意外と眠れるもので、彼の規則正しい心音を聞いていたら意識が遠のいていくのだった。