黒幕との鉢合わせ
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「……ッ!!!」
水麗から情報を手に戻ってきた潜入組は、目の前に広がる光景に絶句した。白い布団に横たわるのは守るべき存在の者。うつ伏せで寝かされた少女の背には包帯が巻かれていた。
「姫様っ…何て事だ、お怪我を…!」
「背中を斬られたんだ
幸い傷は浅かったけど」
ユンが顔を歪ませながら悔し気に言葉を吐きだした。
「何があった?」
「ヒヨウっていうナダイの密売人がこの宿で密談してて、ヨナ達はそこに居合わせたらしいんだ」
”ヒヨウ”
その単語に聞き覚えがある潜入組は大きく目を見開き驚いた。
「ヒヨウ…!?
「この宿にもそいつの息がかかっていたとは…」
「そいつはどうしたんだい?」
「逃げた
たぶんもうこの周辺にはいない」
キジャ達の問いに答えながらも、ユンは己の不甲斐なさに涙を流した。
「ごめん…俺らがついていながら…っ
ヨナ達はお風呂に行ってると思ってたから…」
嗚咽を堪えながら言葉を吐きだすユン。そして近くでは、シンアが気落ちしていた。
そんな彼らと横たわるヨナを見つめていたジェハは、とあることに気づいた。
ヨナ”達”
つまりヨナだけでなく他の者もヒヨウに出くわしていることを意味していた。ジェハはギュッと拳を握りしめると、強張らせた表情でユンを見据えた。
「…ッ…ルイは??」
「…ッ!!」
「ユン君!ルイはどこにいるんだい!」
ジェハの震わした声にユンはビクッと身体を震わして目を伏せた。その反応に確信を得たジェハは彼に詰め寄った。
その時、ガバッと襖が開きゼノが顔を覗かせた。
「坊主!!
姉ちゃんの処置終わったぞ!」
その一声で室内にいた一同はゼノに顔を上げた。それらの視線をに見渡したゼノは彼らを安心させるように笑みを浮かべた。
「だいじょーぶ!
危険な状態だったけど、峠は越えた
姉ちゃんもじきに目を醒ます」
その一声に安堵の溜め息が零れた。
「実は…
ルイの方が重症なんだ
でも…ッ、よっ、良かった…」
誰よりも張りつめていたユンはルイが無事だという一報にホッとした途端、堪えていた感情を高ぶらせた。
あの場にいた誰よりも見るからに一番重症だったのだ。
腹部を刺されたテトラも重症だったが、幸い的確な応急処置により出血多量のリスクは免れていた。
だが、あの場で誰よりも奔走したルイは痛々しいほど傷を負っていた。
血を多く流しすぎたルイの身体は冷たく、血の気が失せていた。刻一刻を争う危険な状態。
どうすれば…
そう思ったユン達を救ったのはリリだった。蒼白しながらもリリは医術師を呼び、ルイの手当てをさせたのだ。
「ジェハ、コッチだよ」
ゴシゴシと涙を乱雑に拭ったユンは立ち上がる。それに習うようにジェハは立ち上がり、ユンの後をついて部屋を出て隣室に足を踏み入れた。
*****
さきほどと変わらぬ一室。その中央に、布団が敷かれており、そこに仰向けにルイは寝かされていた。
「姉ちゃん
娘さん守るために戦ったらしいんだ」
茫然と立ち尽くすジェハを手招いたゼノはルイの傍に屈むと被せていた毛布を持ち上げた。すると露わになったのはルイの肌にはところどころ包帯が巻かれていた。
「最初は脇腹だけだと思ったんだけど…」
出血箇所は、脇腹だけだと思われた。しかし、よくよく診てみるとどれくらいの人数を相手にしたのであろうか?、沢山の抉られた傷があった。一番致命傷だったのは、腹部に一突きされた刺し傷だった。
「そっか…」
ジェハは二人が屈んだ隣に腰を下ろすと、汗でびしょびしょになった前髪を掻き分けた。
「悪い…
もっと早く、ゼノ達が駆けつけてたら…」
「ゼノ君達は悪くないよ
主犯格がコッチにいることを考えなかった僕の落ち度だ」
俯き申し訳なさそうにボヤくゼノに、ジェハは視線をルイに向けたまま答える。が、ジェハの表情は余りにも見ていられないほど痛々しくて2人は声を上げた。
「ジェハも悪くないよ
だから、自分を責めちゃダメだからね」
「そうだぞ!緑龍!!
今回は誰も悪くないんだからな!」
その言葉にハッと顔を上げたジェハは意表を突かれた表情をしていたのだった。その見透かされたことに動揺しているジェハを横目にユン達は立ち上がる。
「さて、俺はテトラさんとこ顔出してくる」
「テトラちゃんも刺されたのかい?!」
「そーなんだ
でも、ルイの早急の応急処置のお陰で命に別状はないって」
「…そっか」
「だから、ルイが目を醒ましたら伝えといて
2人ともルイのお陰で無事だって」
「…わかったよ」
「じゃあゼノ達は、ヒヨウの足取りを追いに行くから」
「えっ…じゃあ」
「緑龍は姉ちゃんの傍にいて
目を醒めした時に一番に緑龍を見たら、きっと姉ちゃん喜ぶから」
ゼノの言葉に自分もと腰を上げようとするジェハ。だが、彼の心情と取ろうとする行動が手に取るようにわかったゼノは先手を打った。
「...ありがとう」
「いーよいーよ!」
少し上げた腰を再び下ろしたジェハは目尻を下げる。そんな彼にゼノはニッコリと笑いかけるとユンを連れて外に出るのだった。
「...ックソ!」
2人が外に出てようやく2人きりになった室内でジェハは悔しそうに胸元に手を置く。
「僕が無事でも...
ルイ...
君が無事じゃなかったら意味がないんだよ」
ポツリと寂しげに呟いたジェハは、御守り代わりとして手渡されたペンダントをグッと握りしめるのだった。