深い闇
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「珍しいな
お前が駄々こねないなんてよ」
「…ハク」
リリ達と別れた1行は、連日の宿屋での滞在もあり金銭が底をついていた。加えて、引き取られることがなかった中毒者を放置するわけにもいかず天幕を張って野宿することになったのだ。
慌ただし時間があっという間に過ぎようやく一段落したルイはぼんやりと街中を流れる川を眺めていた。
「私を一体なんだと思ってるのよ」
「無鉄砲で制御不能なじゃじゃ馬」
「なぁ!?!?」
彼の口から出た思いもしないワードにルイはあんぐりと口を開けて驚きの声を上げた。そんな彼女の反応をクスクス笑いながらハクは核心を突きにかかる。
「…で??」
「…ほぅっといてよ」
たまたま彼女の背を見つけたハクは、面倒くさげに息を吐き出しながらも彼女の隣に並んだ。一方でルイは見つけてほしくなかった人物の登場に目を逸した。
「なんだ??嫉妬でもしたか??」
「…!?!?」
「どーせ、タレ目のことでも考えてたんだろ?」
そのルイの顔をハクは身を乗り出して覗き込んだ。そして、ニヤッと愉しげに青藍色の瞳を細めた。その彼から紡がれたワードにルイはビクッと反応して反射的に顔を上げた。そして、追い打ちをかけるように小さな声で囁かれた言葉にルイは大きくため息を吐きだし、ヘナヘナと座り込んだ。
「ハァ〜〜〜
だからハクには見つかりたくなかったんだよ」
「へぇ〜
否定しないんだな?」
「いつも見透かしてくるハクは嫌い」
「お褒めの言葉っーことで
ありがたく受け取っとくぜ」
拗ねるルイの悪態にハクは小さく鼻で笑いながらドッカリと彼女の隣に座り込んだ。
「…多分」
「ん??」
「多分、ジェハが遊女に笑いかけるのを見たくないんだと思う」
作戦なのは割り切っている。
それなのに、傍で自分じゃない女性に笑いかけるのを見たくない。触ってほしくない。
誰かに言われなくてもわかる。
完全にこれは嫉妬だ。
「何度も…何度も
一緒に花街に行ったことあるのに…
その時だって、街中で綺麗な女の人と絡んでいる時だって…
こんな嫌な感情感じたことないのに…」
彼がどの子と遊ぼうが、絡もうが、なんとも思わなかったのだ
どこか遠い目で呆れた眼差しでその光景を眺めていた
それなのに最近の自分はオカシイ
「いい加減素直に認めたらどーだ?」
膝を抱え込んで蹲るルイの頭上からハクが大きなため息を落とした。
「…ジェハとは相棒だよ
それ以上でもそれ以下でもない」
「まだシラを切るか…」
「偽るよ
これが本物の気持ちであっても
私は偽り続ける」
顔を上げたルイは真っ直ぐ遠くを見つめて言い切った。
「ジェハには自由に跳んでいて欲しいから
私のこの想いが枷になることは例えどんなことがあっても…
あっちゃならないんだ」
ギュッと拳を握りしめたルイは迷いがない力強い翡翠色の瞳を輝かせていたのだった。そんな彼女を見たら、押すに押し出せない。言いかけた言葉をハクは呑み込んだ。
そんなハクの心情など知るよしもないルイは淋しげに笑った。
「ハクだって言うつもりないんでしょ?ヨナに
一緒だよ…
一緒」
「…お前と一緒にすんな」
「なんで??」
「俺は報われない想いを勝手に抱いてるだけだ
お前らとは違う…」
不思議そうに見上げるとルイの翡翠色の眼差しに映ったのは、苦虫を潰したような表情を浮かべ俯くハクだった。
ジェハとルイはハクから見たらずっと両片思いだ。どっちかが勇気を振り絞って一歩踏み出し、本気になれば実る恋。
だが、自分の場合は違う。ただの一方通行の報われない恋だ。
ずっと押し込めていた感情が今更になって溢れ出てきてハク自身が正直困惑している。でも、この想いを彼女にぶつけてはいけないのだ。だって彼女が想いを寄せているのは別の人なのだから。その証拠に彼女は未だに憎むべきイル王の仇である相手から貰った簪を捨てもせずに身に着けている。
「ハク??」
「ん…あ、わりぃ…
ちょっと考え事してた」
ルイの己を呼ぶ声で引き戻されたハクは苦し紛れに誤魔化した。その浮かない表情にルイは困惑する。
まただ…またあの殺気を…
感じる冷たい殺気の正体を知りたいと思いつつもルイはその興味心をグッと堪えた。興味本心で触れてはいけない、踏み込んではいけない領域があることをルイ自身が把握していたからだ。
「…ハ…ッ」
「とやかく言うつもりねーけどよ…
今思っていることそのままアイツに言ってみろよ
俺の予想じゃ…」
跳び跳ねるように喜ぶと思うぜ
スゥっと立ち上がったハクは意味深な言葉を落とす。そして、少年のように悪戯っぽい笑みを浮かべたハクは踵を返した。その彼の背を追うようにルイは振り返る。
するとそこには相棒の姿があったのだった。