深い闇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ざわつく店内に漂う負の感情
それは、集った客の身体全体から染み出し、空気中で集合し大きなどす黒い物体と化していた。
それをヒシヒシと感じていたルイは、ヨナが1人の中毒者を飛び蹴りした途端、その感情が一気に増幅していくのを感じ取った。
「…!?」
大きく膨れ上がった黒い感情は構える隙を与えずルイに襲いかかった。それを一心に受けたルイは脳内を次々と駆け巡っていく、人々の膨れ上がった嫉妬・怨嗟・妬み・憎悪に対処しきれず悲鳴を上げ、頭を抱えて倒れ込んだ。
「イヤァァァ!!!!」
床に膝を付き身体を丸めるルイ。そんな彼女を虚ろな双眼を持つ者が取り囲んだ。
「おい踊り子、もっと踊れ」
「踊れ、踊れ」
「俺たちを愉しませろ」
取り囲んだ男はベタベタとルイの四肢を掴み、強引に立ち上がらせる。通常の人間とは思えない異常な力強さに、掴まれたルイは痛みで顔を歪めた。
「…離せ!!」
ルイは力を振り絞り身を捩らせ抵抗した。その拍子に1人の男の頬に暴れるルイの手がバシッと当たった。
「痛ェな、おい!」
癇に障ったその男は声を荒げてルイを床に勢いよく叩きつけた。
「ウッ…」
「あんだけ誘っといて逃げる気か?」
「テメェは黙って大人しく、股開けばいいんだよぉ」
背を打ったルイは呻き声を上げる。そんなルイを押さえ込み馬乗りになった男は厭らしい顔を向けた。そんな男の一声をキッカケに他の男共もニヤニヤと不気味な笑みを浮かべてルイに手を伸ばした。ルイの露出した白い肌に黒い手が触れた。
「…ッ!!」
手の感触を感じた瞬間、ルイの全身がゾワッと粟立つ。指を肌に滑らせ、身体を弄っていく厭らしい手付きにルイは嫌悪感を感じた。
この先の展開がわかってしまうから余計に恐怖心が募っていく。
ルイは必死に力を振り絞り抵抗した。が、凶暴化した中毒者の拘束を解くことができなかった。
「…ヒィッ!!」
ザラついた舌がルイの首筋を舐めた。その感触にルイは身体を強張らせた。その隙に服の隙間から這うように手が侵入してきて、彼女のくびれている腰をスルリと撫でるのだった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…
こんなとこで見ず知らずの誰かに勝手に身体を弄ばられるなんて…
嫌だ!!
気持ち悪い
ルイは不快な感触にギュッと目を閉じた。目を閉じた途端、思い浮かんだのはただ1人。ルイは縋るように助けを求めた。
…ッ、助けて!!
ジェハ!!
「ルイ!!!」
心のなかで叫んだと同時に、彼の声が聞こえてきた。一瞬、幻聴かと思ったルイ。だが、纏わりつく不快な感触が消え、身体に伸し掛かる重さから解放されたことにルイは気づいた。ルイは恐る恐る目を開ける。すると、深緑色の髪を揺らしたジェハの大きな背が見えた。
「…ジェ…ジェハ?」
「ごめん!遅くなった!!」
半信半疑で彼の名を呼ぶと、反応した彼が瞬時に振り返った。駆け寄ってきて手を伸ばしてくれた彼は急いできてくれたのかまだ荒い息を整えるために肩で呼吸をし、飄々とした表情を崩していた。
「…ごめん、油断した」
ルイはホッと胸を撫で下ろし彼の手を掴んで立ち上がった。彼が来た途端、恐怖は薄れ、ポカポカと心が暖かくなり満たされていくのを感じた。そして、それに気づいたと同時に、身に襲いかかってきていた負の感情を知らないうちに制御できているのを知った。
立ち上がったルイの前で、ジェハは無言で彼女の肌蹴た上着をしっかりと掛け直した。
「ルイ…」
「あっ!それより、ヨナは!?
早く行こ!」
苦虫を潰した表情を浮かべるジェハを他所に、即座に心切り替え現状を把握したルイは危ない目にあっているであろうヨナを探して辺りを見渡した。
そして、自分と同じように中毒者に捕まっているヨナを見つけた。
「ジェハ!!」
「わかってる
一先ず話は後だ」
ルイの言いたいことがわかったジェハは小さく頷く。そして2人は急いでヨナのもとへと駆け出すのだった。
「どうした踊り子、もっと踊れ。」
「もっともっと笑ってみせろ。」
「痛っ…」
リリを連れて逃げようとした矢先、背後を取られ髪を勢いよく引っ張られたヨナは中毒者に捕まった。一方、リリは恐怖で足が竦んで動けずにいた。そんな彼女を瓶を持って暴れていた中毒者が目をつけた。ギラリと瞳を光らせてその男は涙目になったリリの背を追いかけた。そんな彼に黄色の髪を靡かせ1人の少年が止めようと飛びついた。
「とぉ〜ま〜れいっ〜!!」
だが、痛覚がなく凶暴化した中毒者を止めることができず、飛びついたゼノは振り落とされた。
この人達、正気じゃない…
やっぱりこの人達も薬に侵されて…!
グッと唇を噛みしめるヨナ。だが、突如床に放り出された。膝をついたヨナは慌てて後方を振り向く。するとそこにいたのは無表情でヨナを掴む1人の男の頭を鷲掴みするキジャだった。
「放せ…
頭を潰されたくなかったらな」
「キジャ!」
「放せと言っている」
「キジャ、落ち着いて
この人達は…」
今にも頭蓋骨を砕きそうな勢いのキジャを諭そうとヨナは口を開く。が、ヨナを襲われたことに頭に血が上っている彼らは何か一発お見舞いしないと気が済まなかった。
「斬っていい?」
「駄目シンア!」
普段温厚なシンアとは思えない殺気を剥き出しにしたシンアはギラッと銀色に輝く剣を男に向けていた。
そんな彼らをなんとか止めようとするヨナ。だが、2人が攻撃をする前に彼女の後方から来た3人の影がヨナの腕を掴む男達を突き飛ばすのだった。
1人はハクの拳で
もう1人は息のあった元海賊コンビの蹴りで
勢いよく床に沈められた。
「客に飛び蹴りかました人が何言ってんスか」
「全く
どんな教育受けたお姫様なんだい」
「でも、綺麗な蹴りだったね
いつの間にできるようになったの?」
寿命が縮む思いで駆けつけた3人は大きくため息を吐き出した。そんな彼らを他所にヨナはケロッとした表情で答えた。
「ジェハとルイの真似してみたの」
「お前らか、悪い見本は」
「いやぁ〜、嬉しいこと言ってくれるね」
「道理で美しい蹴りだ」
その言葉にハクは2人に白い目を向ける。が、2人は掌を返したようにヨナを褒め称えるのだった。
「ハク!ジェハ!ルイ!
店で暴れてる人を止めて」
「今の騒ぎで火がついちゃったみたいだね」
「よーするにヤク切れだろ」
「これは制圧するのに骨が折れそうね」
物陰に隠れたユンが声を大にして指示を出した。もう既に店内は暴れだした中毒者により滅茶苦茶になっていた。逃げ惑う人の悲鳴や、暴れまわる喧騒音、ごった返しのこの状況にヤレヤレと3人は息を吐き出した。
「こいつら不死身か?」
肌蹴た状態のヨナに己の上着を着させたハクは不思議そうに辺りを見渡した。そんなハクのふとした疑問を、麻薬に詳しい2人は冗談キツイと小さく鼻で笑い飛ばす。
「まさか?
不死身なわけがないでしょ?」
「ナダイをやってる証拠さ
痛覚が麻痺してるんだ」
「ナダイに関わってそうな人は捕まえて!話を聞く!」
のんびりと言葉を交わし合う3人。そんな彼らとは対照的に机を縦にしていたユンが身を守りながら声を上げた。
その声に悠長にはしてられないと3人は互いに背中を預け合い臨戦態勢に入った。
「話が出来る状態ならいいけどな」
「一般人だからむやみに傷つけないよーに」
「ところで、ユン
あれはどーする?放置??」
「…あっちで1人、怒りで我を忘れている人がいるね」
「キジャ~静まりたまえ~!!」
指示を出すユンに対して、別の場所で無闇に右手を振り回す者を視界に捉えたルイはそういえば…というテンションで尋ねる。そのルイの言葉に見て見ぬ振りをしていたジェハが苦笑気味に。そんな彼らの言葉でキジャが暴れまわっているのを把握したユンは神に祈りを捧げるように声を張り上げた。
「傷つけないように…ね
難しい事を言ってくれる」
「…ホントね
コッチは今にも殺されそうな勢いなのに」
ユンやキジャのやり取りを横目に2人は自分たちを取り囲み始めた中毒者に視線を投げた。そして、この状況にヤレヤレと肩を竦めて乾笑をした2人は暴れまわる者達に向けた視線を鋭く尖らせるのだった。