襲い掛かる魔の手
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふぅーと息を大きく吐き出したルイは、そっとジェハの元に行き彼の顔を覗き込んだ。
先ほどと打って変わって、スヤスヤと寝息を立てて寝ているのを確認したルイはようやく張り詰めていた糸がプツンッと切れた。途端に安堵したルイは目頭が熱くなるのを感じた。
「もう入ってきていいですよ」
そのルイの様子を横目でチラッと確認したハクは無言でルイを己の方に引き寄せた。そのまま襖を開けて、外に待機しているヨナ達に声を掛けた。途端に待っていましたとばかりに部屋に入る彼らを横目にハクは室外に出る。
「…雷獣??」
「俺はちょっとコイツ休ませてくる」
唯一、彼の行動を不審がったユンに対して一声掛けたハクはそのまま雨が降り止んだ外へと出るのだった。
*****
「ハク、大丈夫だよ」
「…どこがだ?
今にも泣き出しそうな顔しやがって」
意地を張り続けるルイに腰を屈めて視線を合わせたハクは呆れたように顔を顰めた。そして、ため息を零すとルイを強引に自分の腕に閉じ込めた。ハッと息を呑んだルイの頭上から彼の珍しく優声が降り注いだ。
「我慢すんな
アイツが起きる前に全部吐き出しとけ」
あやすように頭を撫でたり、背を優しく叩くハク。この一連の彼の行動に、かろうじて蓋をしていたルイの想いが溢れ出した。
「…ッ!こ…こわかったッ!!」
「……」
「ジェハがこのまま帰ってこれないんじゃなかって!!」
「苦しむジェハを見てられなかったッ!!
痛々しくて…ッ!!」
「ホントは逃げ出したかったッ…!!」
「恐ろしかった…ッ
ホントに消えちゃいそうでッ!!」
「助かんなかったらどうしようッ!!って…ッ
考えたら、
頭が真っ白になってッ…」
気丈に振る舞っていたかのが嘘のようにルイはハクの胸板に身体を預けてひたすら嗚咽を漏らして泣きじゃくった。
ギュッと己の服を強く握りしめて泣くルイの頭をハクは優しく撫でた。
「私はッ…
少しでもッ…力になれたのかな」
「当たり前だろ」
嗚咽をあげ、しゃくりあげてなんとか言葉を振り絞ったルイの声は小さく震えていた。その彼女の不安を払拭するかのように、ハクが力強い言葉が掛けた。そして、乱雑にルイの頭をわしゃわしゃと撫で回すのだった。
「よく頑張ったな、ルイ」
「うッ…うわぁぁぁぁッ…」
ハクのぶっきらぼうだけど優しく力強い言葉は、ルイの心の奥まで染み渡る。ルイはただただ幼子のように泣きわめいた。
「ホントお前、不器用だな」
「…ハクにだけには言われたくない」
ハァーと大きくため息を零すハクに対して、鼻をすすりながらルイは拗ねた声を零した。そんなルイをハクは無言で小突いた。
「…なぁ!?いきなりなによ!!」
「なにって…ちょっと手が滑って」
小突かれた場所を押さえてルイは顔を上げる。その怒りが滲む視線に耐えきれずハクは視線を外してトボけた。そんな彼を見ていたら、怒りも涙も引っ込み、遂に押さえきれなくなった笑い声がこみ上げてきた。
「…ック、ウッ…アハハハハ」
「ルイ??」
「ハクがやっと戻った」
「はぁ??どーゆーことだよ?」
「だってッ…
慰めてくれるハクが優しすぎてさ
ハクがハクじゃないみたいだったから」
「それは、俺が普段は優しくないって言いてぇーのか」
大人しく聞いていたハクの額に徐々に青筋が浮かび上がる。そして、ケラケラと笑うルイに反して、ハクは苛立ちを押し殺した言葉を発した。が、恐れることも動じることもせずルイは違う違うと否定した。
「優しいよ、ハクは
多少、強引でぶっきらぼうなとこがあるけど…
その優しさに、私は救われている」
「あっそ…」
「ありがと、ハク」
嬉しそうに目尻を下げ柔らかく微笑むルイの言葉に、ハクは照れくささを紛らわすようにぶっきらぼうに答えた。そして、視線を泳がしていたハクだが、深い息を吐ききるとルイに向き直った。
「たくっ…
ありがとうって思うならちゃんと弱音を出せ
タレ目に言えねぇーなら、
仕方ないから俺が聞いてやる
とりあえず抱え込むのだけはやめろ」
ガシガシと後頭部を掻くハクの言葉に、ルイは目を丸くした。だいぶ前に言葉は違うが似たような意味合いの言葉をゼノに掛けられたことがあったからだ。
「…善処する」
「お前の善処するは信用ならね!」
「ひっどいなぁ〜!」
暫しの躊躇の後、小さな声でポツリと落とされたルイの言葉に対して、ハクは無表情で拳骨を軽く彼女の頭に落とした。
「そう言われたくなかったら
自分の行動を改めるんだな」
ムスッとして睨みつけるルイを、軽快な声でハクは笑う。そして、彼女の背を軽く数回叩くともう話は終わりだと歩き始めた。その背をルイは慌てて追いかけるのだった。
「っーかよ」
「なに??」
「タレ目のことになると
すっげぇーお前、取り乱すんだな」
「そりゃあ、大切だからだよ
誰よりも…一番…アイツのことが…」
さり気なく聞いたハクに対して、ルイは視線を落として、一言一言を言葉を選んで大切に紡いでいった。
「ふーーん」
「ッ!!なっ…なによ!」
ふと足を止めてマジマジと顔を覗き込んできたハクに、ルイは後退りする。彼の勘くぐるような青藍色の瞳に、自分の心が見透かされているような気がしてならなかったのだ。そして案の定、ハクは面白い玩具を見つけたようにニタッと黒い笑みを浮かべるのだった。
「へぇ〜、そうかそうか!!」
「ちょっとハク!
なに1人で納得してるのよ!!」
「いやぁ〜、これからの道中が楽しみだな」
自己完結させて納得したように歩きだすハクに、ルイは嫌な予感が的中したと慌てふためく。が、その様子を1人愉しんでいるハクが振り向くわけがなかった。
どーせ、追求しても取り繕ってはぐらかされるだけだ
わかりきっているのに、敢えて聞き返す必要はない。そう判断したハクは、思わぬ収穫を内心に留めて軽い足取りで宿へと戻るのだった。