出稼ぎ
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「…なんか視線を感じる」
歩き始めて数秒で、ルイは四方八方から注がれる視線に落ち着かず眉を潜めた。そんなルイにジェハは小さく笑った。
「当たり前だろ?
僕ら単品でも人目に付きやすいのに、今は一緒に連れ添って歩いてるんだから」
「……この視線はジェハに向けられてるんじゃないの?」
「ホントこういうのは疎いな
色仕掛けしている者の言葉に到底思えないよ」
自分に注がれる熱い視線に全く気づかないルイに、ジェハは困ったようにため息を零した。
確かに己に向けられた視線もあるだろう
が、実際殆どの視線はルイに向けられている
ホントはその視線を鬱陶しいと思うのだが、今のジェハはその感情以上に上回るほど高揚感があった。
やっと念願が叶ったのだ。
男装していないルイと二人きりで手を繋いで歩くという念願が。
対して、今にも鼻歌でも歌い出しそうなジェハの横顔を、ルイは見上げて小さく笑った。
「二人で連れ添って歩くなんて今までにやってるでしょ」
「それはルイが男装しているときだろ?」
何もわかっていないルイを繋いでいない逆の手でジェハは小突いた。そしてギュッと握る手に力を込めた。
「こうやってさ
男装していないルイとさ、手を繋いで歩いてみたかったんだよね」
遠い目をして小さく独り言のように呟いたジェハの言葉にルイは目を見開いた。
確かに彼は阿波にいた頃から、何度も一緒に出かけようと誘ってきていた。その真意をルイはようやく理解したのだ。理解した途端、こそばゆく思い、言葉を発する代わりにジェハの手を握り返した。その仕草に、構えていなかったジェハの心臓が大きく跳ね上がった。それを悟らせないように視線を逸したジェハはその先で見つけた店へと、慌てて彼女を連れて行くのだった。
「見てみて!!」
武器屋を始め様々な店を回っていく最中、とある店で商品を眺めていたルイがとあるものを手にとってジェハを呼んだ。その声で振り返ったジェハは、はて?と首を捻った。
「ピアス??」
「そうピアス!!
じゃなくてこの色!!」
「色??」
ルイが見つけて手にとったのはピアス。それは、太陽の光に照らされて一層輝いていた。キラキラと深緑色に。
「ジェハの色だよ!!」
「…?!」
不思議そうに首を傾げるジェハに、声を高ぶらせてルイははにかみながら言葉を紡ぐ。その言葉にジェハは目を瞬かせた。
「ホントに綺麗な色だよね
私、この色好きだな」
隣に屈むジェハを見上げて屈託のない笑みを浮かべるルイに。彼女がポツリと溢した言葉に。ジェハは視線を逸らし慌てて袖口を口元に当てて緩み切った口を隠した。
「ジェハ、顔赤い?」
「…誰のせいだと」
ほんのりと赤くなっているジェハをルイは不思議そうに覗き込む。そんな無自覚な彼女を横目にジェハは恨めし気に睨みつけた。が、ボソッと呟かれた小さな声はルイの耳に入ることはなかった。
「はぁぁぁぁぁ…」
大きくため息を吐きだしたジェハは、ルイの手元にあるピアスを掻っ攫った。
「え...」
呆けているルイを無視して無言で立ち上がったジェハは店主と一言二言やり取りを交わす。そして戻ってきた彼は、ピアスをルイに手渡した。
「はい、どうぞ」
「あ...ありがとうって
買ったの?!」
「ルイが物欲しそうにしてたから」
「で、でもお金...」
「いいーのいいーの!」
流れに身を任して受け取ったは良いものの、この現状に驚きルイはアタフタする。値段は見てないもののそれなりの値打ちのものに違いない。だが、全く気負う素振りを見せないジェハはニコニコと笑いながら彼女を店外へと連れていく。そんな二人の後ろ姿を店主は孫を見るかのように柔らかく微笑みながらに送るのだった。
*****
「なんかあっちの方、賑やかだね」
「そうだね、ちょっと行ってみようか」
暫く歩いているとガヤガヤと賑やかな声が聞こえてくる。その声に誘われるように二人はある場所に歩を進めた。
すると、そこでは遠くに設置された的に向けて矢を放つ賭け射的が行われていた。そこまでは良かったのだが、その場にいた見覚えのありすぎる姿に二人は顔を見合わせて目を白黒させた。
「ヨナ?!」
「ヨナちゃん?!?!」
弓弦を持ち的をジッと見つめる人物はヨナだったのだ。もちろん、彼女が弓を引けるわけがないと野次が飛び交う。その中で、ある青年の力強い声がその場に通り渡った。
「”1”に2百リン!!」
それはヨナと一緒に辺りを回っていたハクだった。遠い的のド真ん中。それに懸け金が低いながらも懸けた彼に戸惑いの声が掛けられる。その中、無謀な懸けをする者が現れる。
「右に同じく”1”に2百リン」
「おっ?お前ら…」
場に通り渡った凛とした声の持ち主は、ルイ。その隣にはもちろんジェハがいた。二人の登場にハクとヨナは驚いた表情を浮かべた。
「なんか面白い展開になってるじゃないか」
「お前は愉しみすぎだ」
ニンマリとした表情を浮かべるジェハを横目に見たハクが軽く小突く。そんな二人の横でルイはジッとヨナを見つめていた。
「大丈夫
私とハクの弟子だもん
外すわけがない
そうでしょ?ハク」
「あぁ、当たり前だ」
柔らかい声で言い切ったルイにハクは視線を前に向けたまま小さく頷いた。そして青藍色の瞳を細めてニヤリと悪人面を浮かべたハクはヨナの名を呼んだ。
姫さん、軽くノシたれ
揶揄い混じりの野次が飛び交う中、ハクの小さいながらも闘志を宿した静かな声はヨナの耳に届いていた。その声は不安がっていた彼女の心を正常心に戻すとともに、力を与えていたのだった。
弓を引いたヨナは、まっすぐに的を見据える
その紫紺色の瞳は静かに炎を宿していた。
外野が静かに見守る中、ヨナの手から矢が離れる。ヨナにより放たれた矢は真っ直ぐに飛んでいき、的の中心を射抜くのだった。
木の的に刺さった矢は、心地よい音を響かせる。
そのヨナが的のド真ん中を射抜いた光景に、外野は呆ける。
対してルイとジェハは口元を緩め、ハクは腹を抱えて大きな笑い声をあげた。
「馬鹿め!!見たか!!
すげぇーだろ!
ウチの姫さんはよ!!」
目を細め心の底から笑うハクを見てヨナは頬を緩ました。
久しぶりに見たのだ。ハクがあんな風に無邪気に笑う姿を。
わたしがんばろ…
淋しそうに笑わないように、この笑顔を奪われないように、
ヨナは自分のできることを尽くしていこうと決意を固めたのだった。