戦の火種
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「スジン将軍!」
一方で、カン・スジンについてきた火の部族の兵の士気は喪失していた。スウォンの策略、そして予想だにしない地の部族グンテ将軍の援軍。千州軍が退却した今、もはや勝ち目はない。それを悟った兵の中の1人が一同の心の内を代弁するようにスジンにこう申し出た。
降伏しましょう…と
だが、その言葉に対してスジンはギロッと鋭い眼光を向けた。
「今、なんと言った…?」
冷めきった言葉を吐き捨てたスジンはその者の首を問答無用に切り捨てるのだった。その躊躇ないスジンの行動に一部始終を見ていた兵士は恐怖で震え上がった。
「降伏?
降伏!?
降伏だと!?」
そんな彼らにお構いなくスジンは怒りで声を震わせていた。もう彼の視界には火の部族の兵達のことなど入ってなかったのだ。
「有り得ん!!
有るはずがない!!
緋龍王たる私が!!!偽王に平伏せと言うのか!!??」
「真の火の部族の
緋龍王の民ならば
最後の一兵になるまで
王の為に命を賭して闘え!!
まだ終わってはおらぬ
あの若造が生きている」
「王がここにいる!!
緋龍城が!あの赤い城が!
闘え!闘え!!闘え!!!
竦む彼らに声を荒げて発破をかけるスジン。だが、それらの言葉は兵士らの士気を更に下げることになる。今の彼は己の私利私欲のために異を唱える者を圧力で捻じ伏せていく、兵士にとっては残酷極まりない暴君者だった。
「兵を退きなさい、スジン将軍。」
場には一瞬で静寂化させる小さいながらも鋭く威圧感がある一声が響き渡る。その声にスジンは訝し気に目をやる。するとそこにいたのは死亡報告を受けた少女、前高華国のイル王の娘のヨナだった。ヨナ達は、リ・ハザラを退けるとこに成功しカン・スジンの元まで辿り着いたのだ。そんな彼女に対してスジンは、信じられないと幽霊でも見ているかのように目を見開きながら重たい口を開く。
「生きていたのか…」
「何者だ…?」
一方でヨナのことを知らない火の部族の兵は互いに顔を寄せ合って火ガヤガヤとざわめき始めた。その光景を1人ユンは不安げに見守っていた。まさか、カン・スジン本人と対面することになるとは思わなかったのだ。
ヤバイよ…ヨナはずっと城の中にいたから火の部族の兵はヨナの顔を知らないみたいだけどこのままでは…
だが、ユンの心配を他所にヨナはスジンから視線を逸らすことをしなかった。
「あなたは高華国の五将軍の一人でありながらやってはならない大罪を犯した。
その上自らの兵の首を刎ね犬死にさせるというの?」
「クッ…小娘が私に説教か?
私が緋龍王として緋龍城に帰還するこの時…我が兵は喜んで王に道を造るものだ。
それが誇りある火の部族の民だ!!」
ヨナの言葉に対してスジンは鼻で笑い嘲笑った。
勝手極まりない横暴な態度を取り続けるスジン、その背後にいるのは怯えた表情をする火の部族の兵達。そんな彼らを見てヨナは寂し気に目を伏せる。が、ヨナは顔を上げると表情をガラリと変えてスジンを見据えた。そして、腹の底から低く重たい声を絞り出すのだった。
「……思い上がるな。
己がどれだけの民に生かされているとも知らずにお前は王の器ではない。」
たかが15歳の少女と高を括っていたスジン。だが、その少女が身体から醸し出す威厳のある風格にスジンは不覚にもたじろいでしまう。そんなヨナに恐怖を覚えたスジンは怯えた表情をしながら、指示を出した。
「…殺せ。殺せ!!
この娘を…ここにいる者共を私の前から消してしまえ!!」
絞り出したスジンの声はわずかに震えていた。が、先ほど見せしめのように1人の兵が切り捨てられた光景が脳裏から離れない兵士は異を唱えられず、スジンの指示に従いヨナ達を取り囲むのだった。
「あーあ、やっぱりこうなっちゃうよね…」
「これは生きて帰れるかなァ~」
この状況下に対して慌てる様子もなく間延びした声をルイとジェハが漏らす。そんな楽観的な二人に対して唯一現実的な考えを持つユンが前を見据えながら小言を漏らす。
「言わないでよ」
「まぁまぁ、そこまで案ずる必要はないよ」
「そうそう、僕らが力を合わせれば突破できない状況ではないしね?」
表情に影を落とすユンに対して、ルイとジェハがおどけてみせた。そんな二人の暢気な言葉に対して、ユンは彼らとの旅路を思い返しながら僅かに口元を緩めた。
「ほら、現にあの二人はこの状況を愉しんでそうだよ」
「この中で随一の戦闘狂だからね」
ユンの横顔にホッと胸を撫でおろしながら、ルイは彼の肩を叩いてある方向に目をやるように促す。その3人の視界の先にはニヤリと瞳を光らせるキジャとハク。そんな彼らを見てルイの言葉に付け足す形でジェハが苦笑混じりに言葉を足した。
「無論、こんなもの楽勝だ。」
「その異様な前向きさが白蛇唯一の長所だよな。」
彼らのやり取りに対してキジャは答えるように大きな右手を構える。そのキジャに対してハクが大刀を構えて、感嘆しつつも皮肉混じりの言葉を漏らす。
「ゼノは皆を応援するからー」
「…」
一方で無邪気な笑みを浮かべたゼノはこの場にそぐわない明るい声を出し、シンアは静かに背負っている剣の柄を持ちいつでも抜けるように構えていた。
そんな彼らの頼もしすぎる姿を捉えながらヨナは目の前にいるスジンにある者の姿を思い起こし頬を少し緩ませた。
「スジン、一つだけあなたに伝えたい事がある。
テジュンはあなたとは全く違うやり方で火の部族を導いているわ。
その姿をあなたに見てもらいたい。」
スジンはヨナからまさか息子のテジュンの名が紡がれるとは思わず拍子抜けした表情を浮かべた。それに反して一行を取り囲んでいた火の部族兵達は得物を片手に襲い掛かる。それに対して一同は迎え撃つ。ジェハの脚が、キジャの右手が、ルイやシンア・ハクの得物が兵士を蹴散らしていく。その中、ジェハが勢いままに右手を振るうキジャに騒音に負けないように大きな声を出す。
「キジャ君、手加減しないと」
「十分している!
哀れな兵を殺すのは姫様の本意ではない」
「全くだね
ここにいる兵は無理強いされているだけだし」
二人のやり取りに対して、兵の懐に入り込んで一人ずつ意識を奪っていっているルイが盛大に肩を竦めた。この戦が終結する方法はただ一つ。元凶のスジンを倒すことなのだから。だから権力を振りかざされて戦うことを虐げられている兵士は、士気を失っている今ある種の被害者だ。
「姫さんとユンは俺の後ろにいろ」
「ユン、大丈夫よ。私闘えるわ。」
「俺は…ここでは盾になるくらいしか出来ないからっ」
大刀を振り回しながらハクはヨナとユンに叫ぶ。対して、ヨナは己を守るように両手を広げて立つユンに大丈夫だと声を張り上げた。だが、今これしかできないユンはその行為をやめることをしなかった。せめて今自分ができる事を危険を顧みずに行うユンを横目にヨナは弓を引いた。そのヨナの前には彼女を守るようにゼノが盾を持ち構える。
玉座に取りつかれた将軍…
闘い続けなければならない兵士達
そして他国の脅威
このままではいけない
同じ高華国の民が争ってはいけないのだ
ヨナは悲痛な表情を浮かべながら弓矢を放つのだった。