次男坊の改心
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「ハク!!ルイ!ユン!!早く来て、緊急事態よ。」
茫然とする一行達の元にキジャを引き連れてヨナが現れた。顔を覆っていたテジュンはその声に恐る恐る顔を上げた。するとそこには自分が想い焦がれていたヨナがいたのだった。
先ほどまで賊を倒そうだとか、死にたくないだとかぐるぐるしていた頭の中が今は真っ白だ。ただ目の前の彼女が生きているという事実がテジュンにとっては夢のようだった。
だからこそ、貴女が今誰といようとどこに属していてもどうでもいい。
貴女が生きておられて……
貴女がお元気で本当に本当に…良かった…
ヨナを見た瞬間テジュンが地面に額が当たるほど深々と頭を下げて静かに涙を流した。そんな彼にヨナは戸惑いの声を上げる。
「えっ、あの…どなた?お顔を上げて?」
それでも顔を上げないテジュンに困惑したヨナは助けを求めるようにハクを見た。その視線に対してハクは彼の名をヨナに教える。その名前にヨナは驚きの声をあげ、背後にいたキジャが敵対心を露わにする。
「えっ…テジュン…」
「カン・テジュンといえば姫様を追って兵を差し向けた輩であろう?」
「この人烽火を上げて兵を呼んだの。
でも本人曰く烽火は誤って上げてしまったので兵達にその旨を伝え止めに行きたいから釈放しろ、だってさ。」
「随分と虫が良い話だよね~」
「ワガママかっ!本来なら即首を刎ねられるところだぞ!」
ユンとルイとキジャの言葉にテジュンは重々承知で震えた声を上げる。
「…わ、わかっていますっ!
ご理解頂くにはあまりにも滑稽だという事は。
しかしっ、村を取り囲んでいる兵の中には姫様もお顔を知る者も数名おります…っ
あのような大勢の兵が一度に押し寄せたら貴女がご存命であられる事が、私の父カン・スジン将軍に知られてしまいます!!」
頭を下げたまま己の行動の意図を話すテジュンに、ハクが心底呆れながら口を開く。
「それはてめェが筆頭じゃねェか。」
「私は…っ!誰にも口外しない!!」
「それは一族を裏切るということか??
どう信じさせるつもりだ。」
ハクの重たい一声がテジュンの胸に突き刺さる。
”裏切る”
ヨナのことだけを考えていたテジュンの頭はそこまで思考が回っていなかったのだ。この行為が…ヨナに生きていて欲しいと願うこの気持ちが…兄や父、一族に対する裏切り行為なのだろうか?とテジュンは自問自答しながらも震える声で今思っている素直な気持ちを述べるのだった。
「そ…それはわからない…わからないが…っ!
わ、私が兵を止めに行きます。そして…っ
今後私が約束を違えるような事があれば、
いえ少しでも疑わしくば殺して下さい!!
貴女になら私は殺されても構いません!!」
一息で言い切ったテジュンに、ここにきてヨナが「どうして??」と目を丸くし、不思議そうに彼に尋ねるのだった。
「貴方は風牙の都に害をなし、ハクを殺そうとした。
どうして今そんな事を言うの?
頭を上げて私の目を見て答えなさい。」
ヨナの強い口調にテジュンはゆっくりと顔を上げる。顔を上げたテジュンの顔は涙でぐしゃぐしゃ。そして未だに涙が溢れる彼の瞳は真っ赤に充血していた。そんなテジュンの顔を見たヨナは目を点にして驚いた。テジュンは涙で視界が歪んでる状態のまま口を開いた。
「も…申しわけ…ありませ…
しっ、視界が…歪んでおりまして…っ
姫様のお目が…どこにおわすのかわかりません…っ
自分でもなぜ…こんな事を言い出すのか…
なぜこんな事をしているのか混乱して…」
テジュンの一生懸命な様子をハクは冷たく見つめ、ルイとユンは少し引き気味、ゼノは笑って静かに見守っていた。
そしてテジュンは鼻水を啜り上げながら言葉を続けた。
「ただ…幸福で…
私のように罪深い者がこうして再び貴女と再び言葉を交わせる事が幸福で…っ
仕方がないのです…!!
生きていて下さってありがとうございました…!!」
「ふっっ…あははっ」
テジュンのグシャグシャな想いは確かにヨナに届く。思わず耐え切れず吹き出し笑い声を上げるヨナにハクが呆れたように彼女の名を呼んだ。
「姫さん…」
「ふふっ、ごめんねハク
釈放してもいい?」
ヨナの無邪気な笑顔にハクは溜息を吐いた。
「…そこで俺の意見は通るんですか?」
渋々同意したハクからヨナはテジュンに視線を移すと強い口調を発した。
「テジュン、貴方を釈放します。
貴方の兵はもう目前まで迫っているわ。
このままでは村の人達にも被害が及ぶ。
そうなれば私達は全力で兵を叩き潰さなきゃならない。
それは敵の大将である貴方も例外じゃないわ。
約束を違えたり村人に害をなすような事があれば、私は貴方を容赦なく射抜く。
その覚悟があるのなら、全力で止めに行きなさい。」
そのヨナの背後には、テジュンが呼んだ兵士が発する威嚇の灯が確実に近づいているのだった。