その背には
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「極楽極楽〜!!」
「安くて入れる温泉があって良かったね。
ゼノ、じっとして。髪しばる。」
同じくユンと一緒にお湯に浸かっていたゼノが嬉しそうにパシャパシャと足を動かしていた。そのゼノの声に頬を緩ましたユンが黄色い髪が濡れてしまいそうなことに気づき彼の背後に回った。そしてユンが温泉の中でゼノの髪を結い上げていると、まだ服を脱いでいないジェハ達がやってくる。そんな彼らにお湯に浸かったまま身を乗り出したゼノが無邪気に笑う。
「皆も早く来るといいから」
「お子様達は素早いね」
「おぅ!緑龍!早くコッチ来い!!」
口元を緩めたジェハは橙色の紐を解き、長い深緑色の髪を背中に散らした。そして何か企んだような笑みを浮かべた。
「ヨナちゃんとルイは向こう側にいるんだよね」
「うん」
「2人だけで寂しいよね
僕が行って…」
その言動にピクリと反応を示したハクが持っていた大刀の刃を突こうとする。が、それよりも先にジェハの身体は後方に吹き飛ばされた。突発的に彼一点へむけ風圧が吹きつけたのだ。その光景に、大刀を持ち直したハクは目を点にする。
「え……」
「なになに!?!?
急に風が吹き荒れた!?」
「これは姉ちゃんの仕業だな!!」
浴場に浸かっていたユンも靡く髪を抑えてキョロキョロ辺りを見渡す。その驚く皆を見てゼノが笑い飛ばすのだった。
「「ルイ!?」」
「どうやら姉ちゃんの逆鱗に触れちまったみたいだなぁ~緑龍」
「まぁ、自業自得だな」
吹き飛ばされたジェハにハクが軽蔑の眼差しを向けるのだった。一方で、突風を吹き起こした本人は悠々と男湯を気にすることなく温泉をご満悦していた。
「なんか向こう側騒がしいわね??」
「そう??
いつもあんな感じじゃない??」
ヨナが喧騒音が聞こえる男湯の方を気にして壁の方に不思議そうに視線をやる。が、ルイはこの騒がしい状況を作り出したことをあえて伝えることなくあっさりとした言動で受け流すのだった。そのルイの言葉に「それもそうね」とヨナは違和感を覚えることなく聞き入れて、壁から視線を外すのだった。
*****
「青龍、温泉初めて?服は全部脱ぐといいから。」
興味津々に水面を覗き込むシンアにゼノが近づくと温泉のお湯をバシャっとシンアに向けてぶちまけた。その結果、ビショビショになってしまった服をシンアが脱ごうとする。その背後でキランと立ち直ったジェハが目を輝かせ企みをもった笑みを浮かべてシンアの背後に近寄った。
「面も外さなきゃねっ」
ジェハがシンアの背後からバッと仮面を外して覗き込む。が、シンアは目をギュッと固く閉じて阻止するのだった。
そんな彼にジェハは気にすることなく彼の頬に手を添えると期待の眼差しを向ける。
「シンア君!目をあけてごらんっ」
「シンア、そいつ一ぺん心臓麻痺であの世に送ったれ」
そんな攻防戦を聞き流しながらハクは上着を脱ぐと、吐き捨てるように言葉を呟く。が、結局シンアはハクが言ったとおりにせず急いでその場で服を脱ぐと湯船へ飛び込むのだった。取り残されたジェハは残念そうに拗ねた顔をするとキョロキョロと辺りを見渡した。そして、ジェハは立ち上がると脱衣所の扉を開ける。するとそこにはまだ服を脱いでいないキジャがいた。
「どうしたのキジャ君」
「あ、いや
…私は遠慮する」
「風呂嫌い?」
「いや、風呂は好きだが…」
渋るように表情を曇らせるキジャに、ジェハの悪戯心が燻ぶられる。そしてニンマリと笑ったジェハはサッとキジャに近づくのだった。
「ならいいじゃないか
こういうのは付き合いだよ」
「わっ!よせッ、やめんか!!」
「さぁさぁさぁ」
ジェハは嫌がり抵抗するキジャの服を剥ぎ取っていく。その喧騒音はもちろん露天風呂にいるユン達の耳にも入ってくる。ユンはその騒ぎに不思議そうに脱衣所の方を振り向く。
「何かモメてる?」
「嫌がらせしてんだろ」
ユンの隣で浸かっていたハクがあっさりとした言葉を吐き出す。そんな二人の目の前では拾った仮面をゼノがシンアにつけるという微笑ましい光景が広がっていた。
一方脱衣所では攻防戦に勝ったジェハが満面の笑みを浮かべながらキジャの服に手をかけていた。
「何を出し惜しみしてんだか」
だが上着を剥いで見えたキジャの背中には爪に引き裂かれたような大きな傷跡。それを見たジェハはハッと息を呑んだ。そして無言のままなんとなくそっと上着を元に戻すのだった。戻された上着をキジャは振り向くことなく無言で服を正していく。そんなキジャの背にジェハが恐る恐る疑問をぶつけた。
「…戦闘での怪我…じゃないよね?」
「…あぁ、これは何でもない。失礼する。」
表情に影を落としたキジャはそのまま脱衣所を後にする。そんな彼にジェハは掛ける言葉が出てこなかった。
*****
「あれ、キジャは?」
ようやく喧騒音が止まったかと思うと、脱衣所から出てきたのはジェハ1人だけ。下ろしていた髪を上に纏めたジェハは無言のまま風呂に身体を沈め、岩に背を預けた。
それにゼノの背を流していたユンがキョロキョロと辺りを見渡し、尋ねる。
「…気分が悪いから休むって」
「えっ、そうなんだ」
ジェハの言葉にユンが驚きの声を上げる。
ユンの問を返したジェハは視線を下ろすと先程見た傷について考え始めた。
あの傷…最近のものじゃないな。少なくとも10年以上昔…
何か…獣の爪跡みたいな…まさか自分で?
いや、そんな自傷行為をする子じゃないだろう。
でもあの傷は間違いなく龍の爪…
キジャ君以外で龍の爪を持つ者がいるとすれば…
そこまで思考を巡らしたジェハはここでハッと気づいた。
「先代白龍…」
「何か言った?」
「あ、いや何でも。」
思わず脳裏に浮かんだものを無意識に口に漏らしたジェハの声にユンが反応を示す。が、ジェハは慌てて誤魔化した。
先代につけられた傷…か。
そりゃ他人に見せたいものではないよな…
教科書通りに動き甘やかされて育ったものと思っていたけど…
「なかなか人間臭い部分もあるじゃないか…」
ジェハはそう呟くと息を吐いて空を見上げた。風が吹き色鮮やかな葉っぱが空に舞い上がる。その光景にジェハは目を細めるのだった。