その背には
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「はぁ〜!!!綺麗!!
こんなの初めて見た」
「確かに
緋龍城の辺りじゃ見られなかった眺めだな」
「なんて色鮮やかな
まるで姫様の髪のようです」
山道を歩いていた一行は、辺りの山々を見渡せる見晴らしのいい場所で足を止めて眺めのいい景色に感嘆の声を漏らした。一面に広がる山々の木々の葉が赤・黄色と紅葉に色づいていたのだ。普段なら見えない、季節の移り変わりを感じさせる景色に一同が心奪われる中、1人遠くを見つめる者がいた。その彼を見てユンが不思議そうに尋ねる。
「ん??なに??
なんか見えるの?シンア」
「建物…看板…出てる…」
見えるものを言葉に出すシンアにジェハとルイとゼノが興味を示す。
「看板??どんなのだい??」
「ゼノも聞きたいから!!」
だが、どう伝えれば良いかわからずシンアが首を傾げる。そんな彼にルイは落ちていた枝を差し出して悪戯っぽく笑ってみせた。
「地面に書いてみてよ」
そのルイの言葉に頷くとシンアは枝を受け取り地面に屈む。屈んだシンアを一同は囲い込んだ。そしてマジマジとシンアが何を書くのかと一同は息を呑んで見守った。そんなシンアが書いたのは温泉マークだった。
*****
「ようこそ、秘湯の宿へ…
ごゆっくりと…」
シンアが見つけた建物を潜ると1人のお婆さんが出迎えてくれた。だが、頭を下げて挨拶をした彼女は言葉を言い切る前に鼻提灯をつけて寝息を立て始める。
「え!?寝た!!」
「あの〜聞きたいのだけど…」
「空いている部屋あるか??」
急に寝息をたてるお婆さんにユンが驚きの声を上げ、ヨナとハクが困惑する。しかし、ハクの問いに対して寝ていたお婆さんはピクリと反応を示すのだった。
「ハイハイ!ございますじゃ
お一人様300厘…」
「おぉ!!格安!!」
「食事付きですや…」
嬉しそうに目を輝かすユンとゼノ。だが、再び寝息をたててしまったお婆さんにキジャが心配そうに表情を曇らせた。
「おい、そなたこのようなとこで寝ると風邪引くぞ」
一方でこの宿が大丈夫かどうか視線を鋭くさせていたジェハが隣にいたルイに声をかける。その声にルイが相槌を打つ。
「問題なさそうだね、ルイ」
「そうだね
ここは山奥だから人目につかないし…
どう?シンア」
「うん…他に…客いない…」
シンアの言葉で今日はゆっくりと人目を気にすることがないことを知り一同の緊張感が一気に取れる。
そして早速ゼノが無邪気な笑みを浮かべてヨナに語りかける。
「温泉か〜
じゃ露天風呂で背中流し合いっこだなぁ〜
お肌すべすべになるぞ!娘さん!」
「うん!!」
「なるほど!!
山奥の温泉、しかも露天風呂ときたら…ここは定番の…」
「混浴〜〜!!!」
妄想を膨らませ始めるジェハの言葉を遮るように寝ていたはずのお婆さんがガバっと起き上がり目を大きく見開いてありったけの声を上げて叫ぶ。頬を染めて奇声を上げるお婆さんの急な声に一同は大きく目を見開いて驚いた。
そんな一同にお婆さんが佇まいを正すとトーンを元に戻してニッコリと微笑むのだった。
「は、やっておりませんじゃ
お湯は源泉、かけ流しですじゃ…」
「だって!残念だったね、ハク」
「なぁーにが?
つっーかお前が期待してたんじゃねーの??」
ピリピリとハクとジェハの間の空気が冷え込む。そんな彼らを見向きもせずにヨナが期待を膨らませる。対して、ルイは彼らを白い目で一瞥しているのだった。
「温泉なんて初めて〜」
「さて…
獣達のことは放っておいて露天風呂行こうか?ヨナ」
「うん!!」
二人を軽蔑していたルイはヨナに視線を戻すとニッコリと笑いかける。そして無邪気にはしゃぐヨナの背に回ると露天風呂へ誘おうと背中をそっと押す。
そのルイの自然すぎる行動にそのままスルーしかけたユンが慌てたようにストップをかけた。
「ちょっと待った!!何やろうとしてるの?ルイ」
「何って??」
足を止めたルイは不思議そうに振り向く。そんなルイの行動にユンに続いてキジャが声を上げた。
「何、姫様と一緒に風呂に入ろうとしてるのだ!!
そなたのことを見損なったぞ!ルイ!!
あの者たちならまだしも!!」
赤面しながら身体を震わすキジャが指差すのはもちろんハクとジェハだ。その言葉にもちろんハクは眉間に皺を寄せる。
「おい、白蛇…
タレ目ならまだしも俺がそんなことするわけないだろ…」
「ちょっと…僕だっていつもやるわけじゃないよ
まぁ〜、ヨナちゃんと一緒に入れるなら僕は…」
ギラッと瞳を光らせたハクが持っていた大刀を振りかざす。その殺気立った大刀はジェハの顔面に。それを目の前に振りかざされたジェハは顔を引き攣らせて半笑いした。
「冗談だよ、冗談…」
そんな彼らを他所にルイはうーーんと天井を見上げて唸る。
「だって流石に男湯入れないし…」
「入れないって、ルイは男でしょ??」
深刻そうに眉間にシワを寄せて考え老けるルイに、ユンは何を言ってるんだと遠い目をした。そしてユンの矛先はジェハに向く。
「ちょっとジェハ何やってるの!!
ルイに変なこと吹き込んだでしょ!!」
「えっとね…ユン君…」
目尻を吊り上げて迫るユンにジェハは言いづらそうに視線を泳がして言いよどむ。珍しく歯切れが悪そうなジェハにユンとキジャが詰め寄る。その光景を唯一、状況を把握しているハクは手を貸すわけもなく珍しくジェハに憐れみの眼差しを向けるのだった。
そんな緊迫の空気が漂う中、やけに間延びした明るい声が響くのだった。
「そうだよなぁ〜入れないよなぁ〜
だって姉ちゃんは女の子だもんな!!」
ニコニコと無邪気に笑うゼノが発した言葉。そのとんでもない一声に場がシーンと静まり返った。何を言ってるのといわんばかりに目を点にするユンとキジャ。状況をよく呑み込めず固まるヨナとシンア。そしてなんで知ってるんだと唖然とするジェハとハク。
その中でこの議論の渦中にいるルイは、拍子抜けするほどの笑顔を振りまくのだった。
「そうそう!!
僕一応性別上、女だから流石に男湯入れないんだよね〜」
「「「「へぇ!?!?」」」」
そうそう言うの忘れてたんだよね〜と秘密にしてたのを悪く思う素振りを見せることなく愛想笑いするルイに未だに信じられないとユン達は遠い目をした。
「……」
「そ…そなた…
ホントのホントに女なのか??」
「信用できないならここで脱ごうか??」
動揺し上ずった声を上げて恐る恐る尋ねるキジャの問いに答えようとルイが着ていた服に手をかける。そのルイの行動に、今まで黙り込んでいたジェハが血相を変えると慌ててルイに駆け寄った。
「ちょっと!!何脱ごうとしてるの!!」
「だってこのままだと信用してくれそうもないし…」
「だからって脱ぐことはないだろ!!」
噛み付くような勢いで声を荒げるジェハにルイはなんでそんなに怒ってるんだろうと思いながら再び制止を振り切って脱ごうとする。そんなルイにジェハは思い切り眉間に皺を寄せると有無を言わせない勢いでルイの肩に手を置くとクルリと彼女の身体を反転させた。
「へぇ!?!?」
「ヨナちゃん
このままルイを脱衣所まで連れてってくれるかい??」
キョトンとするルイをヨナに預けるジェハは彼女に困ったように眉を下げてみせた。
うわぁ…ジェハってそんな表情もするのね…
ヨナは初めて見るジェハの表情に新たな発見をし感嘆しつつも、彼を安心させようと大きく頷いてみせた。
「任せて!!
ちゃんと私が責任もって連れてくから!!」
ドンっとヨナは胸を叩くと嬉しそうにルイを引っ張っていくのだった。