次男坊の改心
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「近頃、横暴な役人減ってきたよね。」
その日から数日経ち、加淡村に一同が集結していた。その中央にいるユンが遠い目で空を見ながらポツリと声を漏らした。その彼の横顔はなにかある決意を決めたような表情だった。
「あの次男坊が何だかんだ統率しつつあるからかな。」
「でも蓄えはまだまだ
一朝一夕に出来る事じゃないけど
この地でも育てられる作物を探さないと。」
確かにテジュンのお陰で状況が刻々と変化しつつある。しかし、この痩せた土地では食糧難の状況は変えられない。だからこそ、ユンはこの土地でも育てられる作物を探したいと思ったのだ。
そしてユンは隣に立つヨナに声をかける。
「ねぇ、ヨナ。俺…ちょっと火の土地を離れようと思うんだ。」
ユンの申し出に一同は頷く。その中で1人、ジェハの隣で話を聞いていたルイが前に出ると、ヨナの名を呼んだ。その声にヨナが振り向き、他の皆も視線をルイの方にやった。
「なに?ルイ」
「今更だけど、僕もヨナ達の旅に同行していい??
皆と一緒にいたいんだ」
照れくささを滲ませながらルイは真っ直ぐヨナを見る。が、ヨナはルイの申し出に驚きながら口元を押さえて小さく笑みを浮かべた。
「ルイ、今更すぎだわ
もう仲間でしょ?」
「へぇ!?」
「そうだよ!!
もうルイはとっくのとうに頭数に入ってるの!!
だから忽然と姿をくらましたら許さないんだからね!!」
拍子抜けするルイに畳み掛けるようにユンが詰め寄った。
「それにルイがいなかったら俺が困る!!
珍獣集団の中でルイはまともな方だからね!!」
「確かに、そうかもね」
ユンの言葉に驚きながらも他の皆の顔を見渡したルイは納得したように頬を緩めて相槌を打った。
「ルイ、私には貴方の力が必要よ
一緒に来てくれる??」
「願ったり叶ったりだよ」
無邪気な笑みを浮かべるヨナの改めてのお誘いに、ルイは口元を緩まし彼女の前に跪いた。そして彼女の手を取り、忠誠心を誓うように己の額に当てるのだった。
「改めて皆、よろしく」
閉じていた瞳を開けて立ち上がり、ヨナの手を離すと一同を見渡しルイははにかむ笑みを浮かべるのだった。
そして、正式にルイを仲間に加えた一行は、火の土地を離れる為の準備を始めるのだった。
*****
その夜、ルイは何かを感じ取り、パッと目を醒ました。まだ眠っていていいはずなのにルイは胸騒ぎを感じそっとその場から離れた。今何時なのかはわからない。それでもルイはいても立ってもいられず村の中へ。
命の灯火が消える前に…
早く…早く!!
ルイは消えかけている灯火の元を目指してひたすら入った。そしてルイはある一角の家の前で止まる。ゆっくりと扉を見ながら息を整えたルイはゆっくりと扉を開けた。扉を開けたことで家の中が月明かりで照らされる。ルイはその明かりを元に部屋の中央に敷かれている布団に歩み寄った。
「…ミレイおばさん」
布団に横たわるミレイの名をルイはそっと紡いだ。そしてその声が届いたのかミレイが重たそうな瞼をゆっくりと開けた。ミレイは焦点が会わない目でルイの姿を捉えると顔を顰めた。
「なんだいルイ1人かい…
アイツはどうした??」
「…慌てて1人できちゃった」
相変わらずのミレイの口の悪さにルイは小さく笑いながら返す。せめてユンを連れてくればよかったと内心思ったルイは連れてこようかと腰を上げようとする。が、ミレイの弱々しい嘆く声に足を止めた。
「もう一度アイツの二胡を聞きたかったんだがね…」
「意外とジェハの二胡気に入ってくれてたんだ」
ミレイの心情を知ったルイは小さく笑うと置かれていた二胡に手を触れた。
「じゃ、彼の代わりに僭越ながら私が弾かせていただきますね」
そう一言発したルイは二胡を奏で始めた。二胡のキレイな音色にもう起き上がれないミレイの頬は無意識に緩んでいた。
「…ルイも弾けるのかい」
「そりゃあね…」
「キレイな音色だよ、ありがとねルイ」
普段はぶっきらぼうに言うミレイからは想像つかない優しい素直な言葉にルイは鼻の奥がツンとした。それでもグッと涙を堪えてルイは演奏を続けた。二胡のゆったりとした音調はミレイを優しく包み込む。
「…ルイ
アンタはアイツのことどう思ってるんだい??」
ミレイがふと漏らした言葉。すぐにアイツとは誰のことか検討がついたルイは二胡を弾く手を止めることなく彼のことを思い浮かべながら答える。
「…相棒、では収まりきらないくらい大切な存在
もし叶うならばアイツの重荷を減らしてあげたい、守ってやりたい
私と同じで抱え込みやすくて危なっかしい人だから」
この抱える今の気持ちが一体なんなのかをルイは言葉に表すことができない。だからミレイの問いにズバッと答える事ができなかった。でも、それでも一つだけ言いきれるものがあった。
「でもね、確実に一つ言えるのはそう思えるくらい私の心を占めている奴ってことかな」
そっと目を伏せて答えるルイにミレイは口角を上げる。ルイの表情はこの前ミレイが見た彼の表情と全く同じだったからだ。
こんな表情ができる癖に気持ちに気づいていないとは、罪深い女だね…
鈍感すぎるルイと彼の行末を放っておけばいいもののついつい案じてしまう。
「ルイ…
その気持ちをキチンと大切にするんだよ
わかったかい」
もしその想いに自覚したときには逃げないで向き合うように…
手を離してしまった後になって後悔しないように…
ミレイの弱々しいけど想いの籠もった言葉にルイは彼女の手を掴んで小さく頷いた。
「ルイ…最後にユンに会いたい」
ミレイが漏らした言葉にルイは大きく頷くと慌ててユンを呼びに出る。そして眠っているユンに申し訳ないと思いながら彼を起こして事情を伝えて再びミレイの家に向かった。
再びルイがユンとミレイの元に戻る時、真っ暗だった空は上り始めた太陽の光で薄っすらと明るくなり始めていた。そんな明朝、ミレイは駆けつけてくれたユンに感謝を述べ、静かに息を引き取った。
安らかに眠りについたミレイにルイは静かに涙を流した。同じく横で涙を流すユンはそのルイの頬を伝る涙の滴を見て不覚にもルイの泣く姿が綺麗だと見惚れてしまうのだった。