阿波の海賊
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「ん??」
船頭で海を眺めていたギガンが海の違和感を感じ取った。そのふと漏らした言葉にルイも違和感に気づき、顔を顰めた。
「シケってきましたね」
「この分じゃ、急がないとあの娘やばいね」
ボヤいたギガンの言葉に今まで黙り込んでいたハクが急に立ち上がった。
「案内してくれ」
「僕についてきな」
ルイはハク達にそう言うと雲隠れ岬までの案内を買って出るのだった。
*****
「ねぇ…こんな所に生えてるの、千樹草…」
雲隠れ岬に着いてこの絶壁の壁を目の当たりにしたユンとキジャは真っ青な表情を浮かべた。
「言ったろ、絶壁だって。」
「絶壁すぎでしょ!!
無茶だよ。海は荒れてるしヨナなんか風に飛ばされちゃうよ!」
「私が降りてお助けする。」
居ても立っても居られないとキジャは駆け出そうとする。そんな彼をルイは鋭い一声で静止させた。
「ちょっと待ちなよ
ヨナの覚悟を踏みにじるような真似をする気?」
「ルイの言う通りだ。
あの娘は私の信頼を得るためにこの仕事を引き受けたんだからね」
あくまでこれはヨナ自身が決意して選んだ道だ。それを手出しするような行動をしようとするキジャ達にルイとギガンはキツイ言葉を吐き出した。
「しかし、なにかあったら…」
「ヨナは女の子なんだよ!?」
「女だって闘わなきゃならない時があるんだ。ナメんじゃないよ。」
「流石、ギガン船長。言うことの重みが違うね」
「ルイ、茶々を入れるんじゃないよ」
「はーい」
それでも食い下がるユンとキジャにギガンはドスのきいた声を発し睨みつけるように目を細めた。その表情にルイは愉快そうに笑い、ユンはウッと仰け反り顔を青ざめ、対してキジャはずっと黙りっぱなしのハクに詰め寄る。
「ハク、そなたは良いのか?ハク!」
今にも飛び出していきたい気持ちと葛藤するハクは険しい面持ちを浮かべていた。ユンは目に涙を溜めてヨナの名を呟いた。そのときシンアが何かを見たのかユンの肩をとんとんと叩いて指をさす。その方向にユンは目を凝らした。すると、シンアが指差す方向からはヨナとジェハが細い足場をゆっくりこちらへ戻って来てくるのがわかった。たまらずユンはヨナに飛びついた。
「んーっ?あっ、ヨナ!!」
「皆、来てたの」
「ヨナっ!!」
無事に帰ってきたヨナに対してギガンはゆっくりとした足取りで近づいた。
「千樹草は?」
「ここに」
ヨナはユンの体から離れると千樹草が入った袋をギガンに手渡した。
「確かに。じゃあ約束通りお前を…」
「いいえ。私ジェハに助けてもらいました
突然の大波に海に投げ出されそうになってジェハに助けてもらいました。私一人の力じゃ成し得なかった。」
ヨナはギガンの言葉を遮って真実を述べた。
「…では諦めるんだね?」
「いいえ、もう一度一人で取って来る!!」
だが、ヨナは諦める気はなかった。ちゃんと1人の力で仕事を成し遂げるところを見せようとヨナはもう一度絶壁の壁に挑もうとしていたのだ。その衝撃的な事実に最初は素っ頓狂な表情になり呑み込めなかったギガンだが、数秒後には笑い声を上げるのだった。
「海に投げ出された女を見殺しなんてまねしたら、私がジェハを海に叩き落としていたよ」
「その前に僕が叩き落としてるよ、船長」
クスリと笑いながらギガンの横に立ったルイも澄ました顔で強烈な一声を吐き出した。そのゾクリとくる言葉にジェハは満更でもない表情を浮かべるのを振り向いたヨナは不思議そうに見ていた。そんなヨナの顎にギガンは近寄ると手を当てて目元を見る。
「目が真っ赤だね。だいぶ泣いただろう?」
「潮水が目に入っただけよ。」
見栄を張って言い返すヨナにギガンは楽しげに笑みを零す。
「手は傷だらけ。足はガクガク。
根性あるじゃないか。お前みたいなヤツは窮地に立たされても決して仲間を裏切らない。
そういうバカは嫌いじゃないよ。船に乗りな。」
ジェハはそっと拍子抜けしているヨナに歩み寄って頭にぽんと手を乗せた。
「君は合格だよ、ヨナちゃん。」
その言葉がストンと落ち事情を呑み込んだヨナの瞳からはポタポタと涙が零れ落ちた。その周囲では祝福の声が鳴り止むことはなかった。それを少し離れて見ていたハクは良かったと大きく溜息を吐きだした。
「あの子が絡むと君はそういう顔をするんだね」
「あんたこそ…10年くらい老けこんだ顔になってんぞ」
「え、それはいけない。ホントに?
や、まいったよ今回ばかりは。」
ハクの指摘にジェハは顔を真っ青にして急いで手鏡を取り出して確認する。そんな彼の様子に小さく笑みを零したルイが彼に向かって持ってきていたタオルを投げ込んだ。それを自然に受け取ったジェハはあの時の光景を思い浮かべながら心情を口にした。
「彼女があまりに必死で引き下がらないから寿命が縮む思いだったよ」
「ずいぶん入れ込んでんな。仲間になる気になったか?」
「まさか?!
僕は女の子にはいつだって入れ込むよ。
でもあんな子は初めてだ。
純粋でガンコで、そのくせ足元はフラフラで。
僕にとっては非常に厄介でめんどくさい。
護衛する奴の気が知れないね」
輪の中心で笑うヨナを目を細めて見ていたジェハは視線をハクに向けた。そのハクは笑いを押し殺しながらも満更でもない様子だった。そのふと柔らかく微笑んだハクの表情にルイとジェハは気づいた。
「まぁな」
「よっぽどハクにとっては、大切な人なんだね」
「まぁ幼馴染だし」
「恋人なのかい、ハク?」
ジェハの言葉にハクは青藍色の瞳に鋭い眼光を覗かせて否定した。
「まさか…大事な…預かりモンだ」
そう言い残すとハクは踵を返した。その後姿にジェハは意味深な声を出した。
「預かりモノね〜、なるほど」
「なんだよ」
不貞腐れた声を出し睨むハクにジェハは口角を上げるのだった。
「なんとなくパッと見だけど、君と彼女は近いようでいて距離があるなと思ってさ。」
「あ?」
「それって君が彼女を本気で欲しいと思ってないからかな」
「でっかいお世話だ!何でてめェがそんな事…」
思い当たる節がありすぎたハクはグッと勘くぐるジェハに詰め寄った。
「何でかな〜?
仲間になる気はさらさらないけど、彼女に興味を持ったからかも?」
そんな声を荒げるハクをジェハはとぼけながらからかいの言葉をかけた。そのジェハの言葉を真に受けてしまったハクは硬直してしまう。その反応を愉しむとジェハは種明かしをするように頓狂な顔をハクに見せるのだった。
「う・そ!四龍の主なんてごめんだね。それに…」
「それに??」
言葉を滑らしそうになったジェハは咄嗟に口を噤むと視線をある一点にやる。その先にいたのはヨナ達の輪を微笑ましげに見るルイだった。ジェハが中途で区切った言葉になにか察したのかハクがニヤニヤとし始めた。
「いや、なんでもない
それにヨナちゃんは魅力的だけど、恋愛感情とはだいぶ異なるよ。
近くで守らないといけない気持ちにはさせられたけどね。
今のハクの顔面白かったよ。ちょっと疲れがとれた」
「てめーはよぉー!!」
ヒラリと茶化しながら背を向けるジェハにハクは眉間に皺を寄せて怒鳴る。
「どうかしたのかい?ハク」
騒がしいやり取りにようやくルイが何かあったのではないかとルンルンと歩くジェハと険しい顔つきのハクを交互に見て尋ねる。
「......おまえさ」
「...ん??」
「い、いや...なんでもねぇ」
珍しく言いよどむハクが何を聞こうとしてるのだろうと思うルイだったが、見事にハクは目を泳がせて一方的に話を切り上げてしまう。
ジェハがルイに向けたフッと息をついて柔らかくした表情がハクの脳裏から離れなかった。
まさか??
いや、ありえるか??
ハクはヨナの輪に加わって行ってしまったルイに勘くぐる眼差しを向けるのだった。