高華王国、地の部族領、阿波の街。港町であるこの街は商業が盛んで活気が溢れていた。その街中で、1人の女性が悲鳴を上げる。

「やっ、やめて下さい！！」

女性の悲鳴に一人の人物が足を止める。濃紺の髪を右肩に流している青年…ルイはキレイな顔立ちをこれでもかと歪めた。その翡翠色の瞳の視線の先には、この街の役人が一人の女性に対して寄ってかかっていた。

「なんだァ、俺らはこの阿波の役人だぞ」

「誰のお蔭で生活出来ると思ってんだ」

「言い値でお前を買ってやるっていってんだ
悪い話じゃねぇだろ」

「困ります…離して…」

「来い。」

「お許しください。誰か…誰かぁあああ！！」

連れて行かれそうになる女性は助けを求め声を上げる。その絶叫とともに3人の男が役人へと動くのだった。

「あー…
やっちまった。」

「んー…
口説き方が美しくないんだから仕方ない」

「見てて胸糞悪い」

「「「…ん！？」」」

後頭部を掻いてぼやく黒髪で青藍色の瞳を持つ青年、長い深緑色の髪を橙色の紐で結いている青年、そしてルイは同時に役人の顔面を殴り蹴り飛ばしたのだ。衝動で手を出してしまった3人は他の人物の存在にようやく気付き顔を見合わせる。その間に地面にひれ伏せられた役人達が立ち上がり襲い掛かってきた。

「お前ら…こんな事をして…ただですむと思ってるのか！？」

「役人だからって何していい訳ではないだろ？」

「女性に乱暴した上に逆ギレとは美を学んで出直しておいで」

黒髪の青年…ハクは役人の手を殴り剣を弾き落す。深緑髪の青年とルイはそれぞれ顔面にもう一発蹴りをお見舞いした。が、騒ぎを聞きつけて役人が集まってくると流石にまずったと顔を引き攣らせる。

「やべ」

「あらら」

「さぁお手をどうぞ、お嬢さん」

ルイは女性に手を差し出し彼女の手を取って走り出す。双方役人に見つかると不味いと3人は役人に背を向けて走り出す。前方からくる役人は邪魔と殴り飛ばしながら3人は何者だと探り合いを始める。

「ヒュウ♪君、軍人さん？かなり鍛えてるようだけど。」

「…いや、ただの旅人だ。」

「旅人には見えないけど」

「あんたらこそ、その身のこなし、常人じゃねェな。」

「お兄さんに比べたら大したことないよ」

「そうか？」

「えっ、尋常じゃなく美しいって？」

「言ってねェよ。」

ハクは口笛を吹き称賛する深緑髪の青年の追及をはぐくらそうとするが、そんなわけないだろうとルイは苦笑いを浮かべる。そんな彼らに今度はお返しだとハクが追及しようとする。それにルイは満面の笑みを浮かべてやんわりと否定するが、もう一人は逆に目をキラキラさせるのだった。そんな彼にたまらずハクはツッコミを入れてしまう。

「役人は撒いたか」

「どうやらそのようだね」

暫く走り背後から迫る役人の気配が感じなくなり4人は足を止める。気配を探りながらハクとルイはホッと胸を撫でおろす。その中、もう一人は助けた女性に申し訳なさそうに軽い挨拶を交わしていた。その言動にハクはたまらず声を上げる。

「ごめんね、もう少し君といたいけどもう行かなきゃ」

「おい」

「あとはこのお兄さん達に送ってもらって」

「待て、コラ。俺はそこまでこの辺の地理に明るくな…」

ハクが制止させようとするが既に彼の姿は消えていた。瞬時に姿を消してしまった彼にハクは驚きを隠せずにいた。そんな戸惑うハクに苦笑いしながらルイは近づいた。

「いない…なんだ、あいつは…？」

「ごめんねぇ、アイツ自由奔放なんだ」

「知り合いか？？」

「まぁーね」

ルイは空を見上げてそっと呟くのだった。その頃、海に浮かぶ一隻の船の甲板に1人の男性が大きな音をたてて舞い降りる。その人物の姿を捉えた年配の女性は煙管を吹かしながら彼を呆れた表情で見下ろすのだった。

「…もう少し静かに帰宅できないのかい、ジェハ。」

深緑髪の青年…ジェハはその声に対して微笑んだ。

「華麗な帰還じゃないか、ギガン船長。」

「ひよっ子が…聞いて呆れるよ。
目立って困るのはお前じゃないか」

「ちょっと急いでたんでね」

「何だい、役人に追われたのかい？」

ギガンの発言にジェハの表情に影を落とす。確かにそれもあるが別の気配をジェハは感じ取っていたのだ。

「それもあるけど、もっとヤバイヤツらの気配がしてね」

「おや…それはもしやお前が昔言っていたアレかい？」

「あぁ。どうやら白龍と青龍がこの町に来ている。」

ジェハの言葉にギガンは息をつくが、その話よりも今はこの場にいない娘の行方が気がかりだった。

「そういえばアイツは見かけたかい？」

「あぁ！さっきまで一緒にいたよ」

「なんで一緒に帰ってこないんだい！」

「だってルイには別の件を頼んじゃったしね」

「私の娘1人置いてくんじゃないよ！！」

ギガンは目くじらを立ててジェハを踏みつける。その光景は日常茶飯事のため周囲にいた仲間達は微笑ましい光景に笑みを零すのだった。