1章
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ん...んっ...
身じろぎながらほの香は、抱えているものをギュと抱きしめた。この抱えているものから伝わるのは暖かく優しい匂い。この匂いに包まれてるだけで何故か安心感を覚えた。
でも、一体何を抱えているのだろうと夢心地だったほの香は違和感を覚え始めた。
未だに重たい瞼をゆっくりと開けると見覚えのない天井。だが、どこか懐かしさを覚えた。
一体ココはどこだろう?
ほの香はあたりを見渡しながらゆっくりと身体を起こした。だが、全く見覚えがない部屋だった。それでも、この場所に懐かしさをほの香は覚えた。
キョロキョロとあたりを見渡し、ふと手元に抱えているものに視線を落とした。そしてぱっと丸めているものを広げると、男物であろうコートであることがわかった。何故、こんなものを持っているのだろうと不思議に思ったが、ほの香は考えるのを取りあえずやめた。そして、無意識的にこのコートの匂いに包まれたいが為にほの香はこのコートを羽織った。
ガチャ...
だいぶ大きめのコートにくるまって安心感を感じていたほの香の耳に扉が開く音が聞こえた。ひょこっと顔を覗かせると、そこには唖然とする青年がいた。
「あ....あっ、あ〜〜〜〜!!!!
すッ!!すみません!!
もしかしてコレ剥いじゃいましたか!?!?」
その青年を見た途端、走馬灯のように昨日の出来事が脳裏を駆け巡った。
どこからどう見ても、今羽織ってるものは目の前の彼が昨日着ていたコートだ。
ベッドを借りただけでなく、なんて図々しく恥ずかしい真似をしてしまったのだろうと、ほの香は全身から火が出たように真っ赤な顔をした。どこかに穴があったら入りたいと、羞恥心でほの香は全身を隠すようにすっぽり布団に埋もれてしまった。
「ちょ!!隠れんなや!!」
ガバッと布団を剥ぎ取った草薙は、コートの隙間から上目遣いに見上げてくる彼女に、ドキッとしてしまう。そろそろ起こそうかと2階に来てみたら、嬉しそうに自分のコートを羽織っている彼女の様子は、普段中々見れない姿で柄にも無く見惚れてしまった。こんなの見せられたら崩壊してしまう理性をなんとか草薙は繋ぎ止めていたのだ。
「うっ...恥ずかしすぎて死にそうです」
「死にそうなのはコッチや!!
そんな姿してたら襲ってくださいって誘ってるようなもんやで」
「だッ!断じてそういう訳じゃないです!!」
「わかっとるから、はよ脱ごうか?」
このままだとホントに襲ってしまいかねないと草薙は、ほの香に脱ぐように催促する。それにほの香は小さく頷くと、急いでコートを脱いだ。そして、綺麗な状態に戻して手渡そうとすると、意地悪げな笑みをする草薙の顔がほの香の視界に入る。
「そんなにそれ気に入ったんか??」
口元に弧を描いた草薙は、魅惑的に見えてほの香は違う意味で頬を染める。
「気に入ったというか...
凄く安心するんです。なんでだかわかんないんですけど...」
視線を泳がせながら率直な想いを口にしたほの香。そして顔を草薙に向けるのだが、何故だか口元を手で抑えて頬をほんのりと染める草薙がそこにはいた。
「ど...どうかしましたか??」
「あっ、いや...
なんでもあらへんよ」
不思議そうに首を傾げるほの香の言葉で、思考を引き戻された草薙は我に返る。そして気恥ずかしさを隠しながらコートを受け取ると元あった場所に戻す。
「体調はどうや?」
「お陰様で今はなんともないです」
「そうか、それは良かったわ
じゃあ取りあえず、風呂入ってき?
場所は案内するから」
「え?いいんですか?」
「もちろん
人からのご厚意は素直に貰っとくもんやで」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
申し訳ないという気持ちが強かったが、草薙の厚意を無下に出来ずほの香は素直にお風呂に入らせて頂くことにした。
*****
存分に満喫させて頂いたほの香は浴室を出る。すると、そこには女性物の服一式が綺麗に畳まれて置かれていた。
瑞穂さんっていう人の物なのかな...
ほの香は心が傷まれながらも置かれていた服の袖に手を通した。そしたら予想以上に、丁度よいサイズでほの香は困惑した。それに派手すぎず地味すぎず、シンプルな動きやすそうな服装でしっくりと馴染んだ。
お風呂上がって準備できたら下に降りてこいと言われていたのでほの香は階段を降りて1階へ。ほの香は視界に広がった光景に目を大きく見開いた。
「さっぱりしたか??」
ほの香が降りてきたことに気づいた草薙は、手を止める声をかけた。
「はい」
草薙の言葉に頷くほの香は、物珍しそうにこの場を見渡した。そんな彼女にカウンター席にちょこんと座っていた長い白髪の可愛らしい少女がコトコトと駆け寄ってきた。
「一緒に食べよ」
「えっ!?」
「出雲の作るご飯美味しいよ」
ほの香の裾をさり気なく引き、上目遣いで見てくる純粋なアンナの瞳にほの香は断れずにいた。そんな彼女に止めを刺すように草薙が注文を聞き出す。
「ほの香ちゃん、何食べたい??
リクエストなければおまかせコースになるけど」
「じゃあ、お任せで」
外堀を上手く埋められてしまったほの香は断る事ができず、素直にご飯を頂くことに決めた。
「りょーかいや
すぐ作るから座ってアンナと喋って待っとき」
その言葉にほの香は頷くと、隣にいるアンナと共にカウンターにあるスツールに座った。
「可愛いね、アンナちゃんでいいの?」
「うん」
「そっか〜、私ほの香ヨロシクね」
お人形みたいに可愛らしい顔立ちのアンナとほの香はしばし時を忘れお喋りを楽しんだ。でも、こんなに小さな子がなんでこんなことにいるのだろうとほの香は疑問を抱いた。そして、ほの香の頭の中である仮説が出てきたタイミングでお皿に盛せられた料理が出された。
「よし!出来たで」
「あの...」
「あぁ〜、自己紹介まだやったな
俺は草薙出雲や
ここのバーのオーナーや」
言いよどんだほの香は彼をどう呼べば良いのか困惑した。そんな彼女の様子にわかっていたかのように草薙は軽い自己紹介をした。彼の名前を知ったほの香は、意を決するとこの仮説が果たしてあっているのか尋ねることにした。
「あの、付かぬ事を伺いますけど...
アンナちゃんって草薙さんの娘さんですか??」
「はぁ!?」
突発的に湧き上がったほの香の投げかけに素っ頓狂な声を上げた草薙はそのまま固まってしまう。そんな彼を見て救済の声を上げたのはほの香の隣にいたアンナだった。
「ほの香、違うよ」
「えぇ!?そうなの!?」
「俺はまだ26や!!」
驚きの声を上げるほの香にたまらず草薙はツッコミを入れた。それにほの香は血相を変え顔を青ざめた。
「しッ!失礼しました!!」
「そんなに老けて見えるんかいな?俺」
頭を下げるほの香を見ながら、草薙は眉尻を下げて弱々しい声をだして嘆いた。その言葉に慌ててほの香は弁解の意を唱える。
「あ、いえ!
決してそう言うことではなくて!!
草薙さんの醸し出してるオーラというか、なんというか...
とにかくッ!大人で紳士でカッコよくて...」
「あー!もういい!!
無理やり言わせてる気がして無性に虚しくなってきたわ」
なんとか思ったことを口に連連と述べていくほの香の言葉に、段々と草薙は照れくさくなって咄嗟に横槍を入れて話を中断させた。
「......お世辞じゃないのに」
「大丈夫、出雲は照れてるだけだから」
「ア...アンナ!?!?」
「そうなんですか??」
不貞腐れるほの香に、草薙の隠したい心情などお見通しのアンナがフォローする。その言葉を信じほの香はジーッと目を逸らすものかと草薙を凝視した。
そんな彼女の辛抱強さに痺れを切らした草薙は降参と肩を落としてため息を吐いた。
「あぁ〜もう〜....
そうや!
たく、よくそんなストレートに恥ずかしいセリフ言えるなぁ」
「だって思ったことはちゃんと伝えないと
勿体無いですから」
屈託のない純粋な彼女の笑みにそろそろ照れを隠すのは限界だと、草薙は視線をほの香から逸らした。
「この話はしまいや
料理が冷めないうちにサッサと食べなさい」
手をヒラヒラ振り草薙は話を切り上げる。そして、未だに手をつけられていない料理を指した。
彼の言うことも確かだと、アンナと顔を合わせて頷くと手を合わせた。
「「いただきます」」
ほの香はスプーンを手に取ると、目の前のオムライスの端にスプーンを差し込む。そして、すくったものを口に入れ頬張った。
「……美味しい〜〜」
「お口に合いましたか?」
「はい!!とても美味しいです!」
「そりゃあ、よかったわ」
幸せそうに頬を緩まして美味しそうに食べるほの香を見て、草薙も思わず頬が緩んだ。そして、よほどお腹が空いていたのかバクバクと食べていくほの香。だが、暫く経つと宙で手を止めて懐かしむように目を細めていた。
「どないした??」
「私、ここ来るの初めてなんですかね??
なんでだろ…食べたことがあるような懐かしい味が口の中で広がるんですよ」
「…ほの香」
アンナの寂しそうな声でしまったとハッとしたほの香は誤魔化すように後頭部を掻いた。
「あはは…もしかして記憶を失う私はここに通う常連さんだったんですかね〜」
しんみりとしてしまった空気を変えるように乾笑いをして、吹っ切るように食べるのをほの香は再開する。その言葉に草薙は複雑な心境だった。できればすぐに声を大にして言いたい。
アンタの名前はほの香でなく瑞穂だと
そして常連でなく、吠舞羅の一員であり、俺の恋人だと
今彼女に出したのは瑞穂の大好きなオムライスだ。この味で思い出すきっかけになってくれればと思ったがやはり現実は甘くなかった。
さて、どうしたもんか…と美味しそうに頬張る彼女たちを横目に飲み物を草薙は用意し始める。
だが、和やかなムードがそう長く続くわけがなく喧騒音がHOMURAに差し迫っていたのだった。