1章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ほの香を抱きかかえた草薙は、ある店の扉を開けて中に入った。そこはこじんまりと佇むHOMURAという草薙が経営するバーだった。今、ここは作戦中のため誰もいないことを知っている草薙はそのまま2階に上がり、一室の扉を開けた。
体調が悪いという彼女を置いていくのは気が引けるが、今は十束を殺し、瑞穂をこの状況に追い込んだ犯人を追い詰める作戦が進んでいる段階。やっと掴んだ奴の尻尾を逃さぬために奔走している彼らに指示を出さないといけない。よって、草薙はすぐに持ち場に戻らねばならないのだ。
「……堪忍な」
部屋にあるベッドにそっと草薙はほの香を横たわらせる。そっと彼女の絹のように細い胡桃色の髪に手を伸ばす。指先で暫し彼女の髪を弄んでいた草薙だがそろそろ行かなければと、後ろ髪引かれながらも重たい腰を上げ踵を返した。だが、その場を去ろうとした草薙は裾が小さな力で引っ張られていることに気づき足を止めて振り向いた。そこにはボンヤリと目を開けて自分を見るほの香がいた。
「行かないで...
置いていかないで...
ッ...、一人にしないで」
彼女の切実な声。無意識なのだろうが、これが彼女の本心なのであろう。
不謹慎ながら草薙は無意識的に笑みを浮かべてしまった。彼女が助けを求めて手を差し伸べたのが自分自身だったからだ。
かすかな声で呟く彼女の桜色の瞳からは涙が静かに流れ出す。草薙はそっと近づき、ベッドの脇に腰掛けると頬に伝る涙をそっと指先で拭った。
「…大丈夫や、置いていかへんから」
「…ホントに??」
「ホントや
ちょっとここを離れるだけで、すぐ戻ってくる
せやから少しだけお留守番できるか??」
少しでも安心させようと草薙は彼女の頭を撫でる。そして子供をあやすように優しく語りかけた。その言葉にほの香はコクリと頷いた。
「…いい子や
帰ってきたら好きなもん食わせてやるからな」
「うん…楽しみにしてる」
ポンポンと置いていた手のひらで彼女の頭を撫でると、草薙は立ち上がった。草薙の言葉にほの香はホッとしたのか蕩けた桜色の瞳を細める。そして嬉しそうに頬を染めて柔らかく微笑んだ。
そんな彼女に草薙は少しは気が紛れるかもしれないと今着ていたコートを脱ぎ彼女の胸元に置いた。
するとほの香は引き寄せられるようにそれを両手で引き寄せる。そして大事そうに抱えるとぐるっと丸くなってスヤスヤと寝息を立てて眠り込んでしまった。
新たに別の予備のコートを着込んだ草薙は、その様子を見ると緩む口元を腕で覆い隠した。
「……反則すぎやろ」
HOMURAを出て目的地に向かう中、草薙は冬風に当たりながら懸命に表情を元に戻そうと努めるのだった。
*****
ある路肩に止められたワンボックスカー。その車内では、吠舞羅のメンバーが沢山の備え付けられた機械を用いて情報集めに躍進していた。その車内を戻ってきた草薙が覗き込む。そして草薙は車内にいるメンバーに指示を出した。その指示に従い彼らは、十束が残した動画を街中に流した。そして画面一面に写真を公開し、賞金首として追っている青年を指名手配したのだ。情報提供したものには、1千万円を進呈するという告知も添えて。
「アンナ…どないや」
一通りの指示を終え、様子を確かめ終えると草薙は車の後ろに備わっている梯子に脚をかけた。そして、車の上に座っている少女...アンナに草薙は様子を尋ねる。
「……このへん」
車のルーフの上に一面に広げていたここら一帯の地図をぐるぐると回っていた3つの赤いビー玉が一点に集まり止まる。その場所を確認するとヒラリとアンナに手を振り、車の梯子に駆けていた足を地面に下ろす。そして、懐からジッポを出し咥えていた煙草に火をつける。そしてジッポを仕舞い代わりに端末を取り出す。煙草を手に取り煙を吐きながら草薙は先程アンナが示してくれた場所を指で赤いマーカーをつけると、その情報を赤色の映像として端末上に浮かび上がらせる。それを確認すると草薙は端末を操作する。するとその映像は粒子状になり各地に散らばる仲間の元へ空に消えていった。直様、その情報に八田達が反応を示す。
「こちらヤタガラス。了解ッスすぐに行きます!」
「地図にのってない路地に入っちゃいました~あはははっ」
「笑ってんじゃねーよアホ!」
「こちら鎌本、今ちょっと手が放せなくて、もう少ししたら…あっ、チャーハン追加で!」
「飯食ってんじゃねーよダァホ!」
「…おい、なんつったお前、吠舞羅がなんだって?」
「…んだ、おい。吠舞羅を馬鹿にした奴がいんのか?
場所にマーカー付けろ!すぐ行っから!」
八田を中心に繰り広げられる展開に耳を傾けながら煙草を吸っていた草薙はふっと小さな笑みを浮かべながら、火のついた煙草を灰皿で消す。
「ちゃんと探しや。
あっ、黒狗には手ぇ出しなや。お前らじゃどうにもならんから」
自由奔放な彼らに念のためにと草薙は釘を刺し終えると通信を一方的に切り上げる。
「ほんじゃ草薙オーバー」
「草薙さんそんなっ!」
八田の待ったを聞かず草薙は端末をオフに。そして、思わず小さくため息をついて嘆くのだった。
「大丈夫かいな…あの子らだけで…」
ちなみに通話を切られた後、八田は釘を刺されたにも関わらず黒狗と一戦を交えてしまう。
見事に草薙の不安は的中してしまい、再び草薙が頭を抱えたのは言うまでもない…
*****
アンナと共にHOMURAへ戻った草薙。そこでようやく彼女のことをアンナに伝えていないことに気づく。どうしようかと頭を掻く草薙の手をわかっているとばかりにアンナは小さく握りしめて、草薙を見上げた。
「…瑞穂、ここにいるんでしょ」
「やっぱりアンナにはバレバレやな」
「瑞穂の赤が微かに見える
会っていい??」
「あぁ…もちろんや」
アンナの言葉に小さく頷くとアンナを連れて草薙は2階へ上がった。そして、草薙が扉を開けるとアンナは一目散にベッドへ駆け寄った。ほの香の寝顔を見ると、アンナは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……瑞穂だ
やっと戻ってきたんだね」
「あぁ…そうやな」
「でも…どうして
いつもの瑞穂の赤が見えないの??」
コクリと首を傾げ不思議そうに見上げてくるアンナに、草薙は少し腰をかがめ彼女と視線を合わせると彼女に伝わるように語りかけた。
「今な、瑞穂はあの時のショックで俺たちのことを覚えてないんや
だからな…瑞穂の記憶が戻るまで俺たちで支えてやろうな」
「うん、瑞穂のこと支える」
「いい子やな、アンナは」
草薙は頬を緩めるとアンナの頭を優しく撫でる。それにまんざらでない様子で受け入れるアンナであったが、彼女の瞳は不安そうに草薙を見ていた。
「…出雲は大丈夫??」
純粋なアンナの見透かされた言葉に草薙は顔をくしゃりと歪ませた。
「ハハ…
俺そんな情けない顔しとるか?」
自嘲気味に笑みを浮かべた草薙にアンナは小さくコクリと頷いた。自分の気持ちを隠し誤魔化すのは得意なのだがやはりアンナには通じないのかと草薙は肩をすくめた。
「大丈夫や
ちゃんと今は瑞穂が目の前にいるからな」
昨日までの1週間は不安で胸が押しつぶされそうだった。アンナの感知能力を使っても自分の情報網を駆使しても見つけることが出来なかったからだ。でもどういう巡り合わせか、今ようやく瑞穂が手を少し伸ばせば触れられることが出来る場所にいる。再び瑞穂という女性に会えたこと事態が奇跡だと草薙は思っていた。
瑞穂のふわりとした声が…宝石のように輝く桜色の瞳が…時折見せる弾ける笑顔が…どれもが愛おしい。毎日一緒にいるからこそ気づけなかったことを再確認出来たのだとこればかりは前向きに考えるしかない。
記憶が戻るのか?そんなのは誰にもわからない。でも僅かにでも可能性があるのなら辛抱強く待つ。じっくりとゆっくりと記憶は取り戻せばいけばいいと自分に草薙は言い聞かせるように言葉を紡ぐのだった。
体調が悪いという彼女を置いていくのは気が引けるが、今は十束を殺し、瑞穂をこの状況に追い込んだ犯人を追い詰める作戦が進んでいる段階。やっと掴んだ奴の尻尾を逃さぬために奔走している彼らに指示を出さないといけない。よって、草薙はすぐに持ち場に戻らねばならないのだ。
「……堪忍な」
部屋にあるベッドにそっと草薙はほの香を横たわらせる。そっと彼女の絹のように細い胡桃色の髪に手を伸ばす。指先で暫し彼女の髪を弄んでいた草薙だがそろそろ行かなければと、後ろ髪引かれながらも重たい腰を上げ踵を返した。だが、その場を去ろうとした草薙は裾が小さな力で引っ張られていることに気づき足を止めて振り向いた。そこにはボンヤリと目を開けて自分を見るほの香がいた。
「行かないで...
置いていかないで...
ッ...、一人にしないで」
彼女の切実な声。無意識なのだろうが、これが彼女の本心なのであろう。
不謹慎ながら草薙は無意識的に笑みを浮かべてしまった。彼女が助けを求めて手を差し伸べたのが自分自身だったからだ。
かすかな声で呟く彼女の桜色の瞳からは涙が静かに流れ出す。草薙はそっと近づき、ベッドの脇に腰掛けると頬に伝る涙をそっと指先で拭った。
「…大丈夫や、置いていかへんから」
「…ホントに??」
「ホントや
ちょっとここを離れるだけで、すぐ戻ってくる
せやから少しだけお留守番できるか??」
少しでも安心させようと草薙は彼女の頭を撫でる。そして子供をあやすように優しく語りかけた。その言葉にほの香はコクリと頷いた。
「…いい子や
帰ってきたら好きなもん食わせてやるからな」
「うん…楽しみにしてる」
ポンポンと置いていた手のひらで彼女の頭を撫でると、草薙は立ち上がった。草薙の言葉にほの香はホッとしたのか蕩けた桜色の瞳を細める。そして嬉しそうに頬を染めて柔らかく微笑んだ。
そんな彼女に草薙は少しは気が紛れるかもしれないと今着ていたコートを脱ぎ彼女の胸元に置いた。
するとほの香は引き寄せられるようにそれを両手で引き寄せる。そして大事そうに抱えるとぐるっと丸くなってスヤスヤと寝息を立てて眠り込んでしまった。
新たに別の予備のコートを着込んだ草薙は、その様子を見ると緩む口元を腕で覆い隠した。
「……反則すぎやろ」
HOMURAを出て目的地に向かう中、草薙は冬風に当たりながら懸命に表情を元に戻そうと努めるのだった。
*****
ある路肩に止められたワンボックスカー。その車内では、吠舞羅のメンバーが沢山の備え付けられた機械を用いて情報集めに躍進していた。その車内を戻ってきた草薙が覗き込む。そして草薙は車内にいるメンバーに指示を出した。その指示に従い彼らは、十束が残した動画を街中に流した。そして画面一面に写真を公開し、賞金首として追っている青年を指名手配したのだ。情報提供したものには、1千万円を進呈するという告知も添えて。
「アンナ…どないや」
一通りの指示を終え、様子を確かめ終えると草薙は車の後ろに備わっている梯子に脚をかけた。そして、車の上に座っている少女...アンナに草薙は様子を尋ねる。
「……このへん」
車のルーフの上に一面に広げていたここら一帯の地図をぐるぐると回っていた3つの赤いビー玉が一点に集まり止まる。その場所を確認するとヒラリとアンナに手を振り、車の梯子に駆けていた足を地面に下ろす。そして、懐からジッポを出し咥えていた煙草に火をつける。そしてジッポを仕舞い代わりに端末を取り出す。煙草を手に取り煙を吐きながら草薙は先程アンナが示してくれた場所を指で赤いマーカーをつけると、その情報を赤色の映像として端末上に浮かび上がらせる。それを確認すると草薙は端末を操作する。するとその映像は粒子状になり各地に散らばる仲間の元へ空に消えていった。直様、その情報に八田達が反応を示す。
「こちらヤタガラス。了解ッスすぐに行きます!」
「地図にのってない路地に入っちゃいました~あはははっ」
「笑ってんじゃねーよアホ!」
「こちら鎌本、今ちょっと手が放せなくて、もう少ししたら…あっ、チャーハン追加で!」
「飯食ってんじゃねーよダァホ!」
「…おい、なんつったお前、吠舞羅がなんだって?」
「…んだ、おい。吠舞羅を馬鹿にした奴がいんのか?
場所にマーカー付けろ!すぐ行っから!」
八田を中心に繰り広げられる展開に耳を傾けながら煙草を吸っていた草薙はふっと小さな笑みを浮かべながら、火のついた煙草を灰皿で消す。
「ちゃんと探しや。
あっ、黒狗には手ぇ出しなや。お前らじゃどうにもならんから」
自由奔放な彼らに念のためにと草薙は釘を刺し終えると通信を一方的に切り上げる。
「ほんじゃ草薙オーバー」
「草薙さんそんなっ!」
八田の待ったを聞かず草薙は端末をオフに。そして、思わず小さくため息をついて嘆くのだった。
「大丈夫かいな…あの子らだけで…」
ちなみに通話を切られた後、八田は釘を刺されたにも関わらず黒狗と一戦を交えてしまう。
見事に草薙の不安は的中してしまい、再び草薙が頭を抱えたのは言うまでもない…
*****
アンナと共にHOMURAへ戻った草薙。そこでようやく彼女のことをアンナに伝えていないことに気づく。どうしようかと頭を掻く草薙の手をわかっているとばかりにアンナは小さく握りしめて、草薙を見上げた。
「…瑞穂、ここにいるんでしょ」
「やっぱりアンナにはバレバレやな」
「瑞穂の赤が微かに見える
会っていい??」
「あぁ…もちろんや」
アンナの言葉に小さく頷くとアンナを連れて草薙は2階へ上がった。そして、草薙が扉を開けるとアンナは一目散にベッドへ駆け寄った。ほの香の寝顔を見ると、アンナは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……瑞穂だ
やっと戻ってきたんだね」
「あぁ…そうやな」
「でも…どうして
いつもの瑞穂の赤が見えないの??」
コクリと首を傾げ不思議そうに見上げてくるアンナに、草薙は少し腰をかがめ彼女と視線を合わせると彼女に伝わるように語りかけた。
「今な、瑞穂はあの時のショックで俺たちのことを覚えてないんや
だからな…瑞穂の記憶が戻るまで俺たちで支えてやろうな」
「うん、瑞穂のこと支える」
「いい子やな、アンナは」
草薙は頬を緩めるとアンナの頭を優しく撫でる。それにまんざらでない様子で受け入れるアンナであったが、彼女の瞳は不安そうに草薙を見ていた。
「…出雲は大丈夫??」
純粋なアンナの見透かされた言葉に草薙は顔をくしゃりと歪ませた。
「ハハ…
俺そんな情けない顔しとるか?」
自嘲気味に笑みを浮かべた草薙にアンナは小さくコクリと頷いた。自分の気持ちを隠し誤魔化すのは得意なのだがやはりアンナには通じないのかと草薙は肩をすくめた。
「大丈夫や
ちゃんと今は瑞穂が目の前にいるからな」
昨日までの1週間は不安で胸が押しつぶされそうだった。アンナの感知能力を使っても自分の情報網を駆使しても見つけることが出来なかったからだ。でもどういう巡り合わせか、今ようやく瑞穂が手を少し伸ばせば触れられることが出来る場所にいる。再び瑞穂という女性に会えたこと事態が奇跡だと草薙は思っていた。
瑞穂のふわりとした声が…宝石のように輝く桜色の瞳が…時折見せる弾ける笑顔が…どれもが愛おしい。毎日一緒にいるからこそ気づけなかったことを再確認出来たのだとこればかりは前向きに考えるしかない。
記憶が戻るのか?そんなのは誰にもわからない。でも僅かにでも可能性があるのなら辛抱強く待つ。じっくりとゆっくりと記憶は取り戻せばいけばいいと自分に草薙は言い聞かせるように言葉を紡ぐのだった。