赤の王国【過去編①】※完結
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「尊、お前は床掃除な。
自分が住むところくらい自分で綺麗にせぇ」
意地悪気な笑みを浮かべながらモップを渡す草薙の言葉に、返す言葉がない周防は仕方なく床掃除に加わった。
周防はこのバーの2階に住むことになり、バーHOMRA自体も第三王権者周防尊の属領となった。
「草薙さん、この焦げたカーテン外すよね?」
「せやな、外しといてくれ。
インテリアも色々買い替えんとなぁ」
「出費がかさむね」
「頭痛いわ」
「けど楽しみじゃない?草薙さん好みに設え直して新装開店するの」
「確かに、大変な分やりがいもあるわな」
瑞穂はテンポ良く会話をする草薙と十束のやり取りに耳を傾けながら、焦げてしまったカーテンを外していく。
『そっか。ここがキングの王国になるんだね』
バーHOMRAを属領として手続きを終えたことを聞いた時、感慨深げな顔で零した十束の言葉がふと脳裏をよぎった。
"王国"
そう例えた十束の言葉はその時、ストンと瑞穂の胸に落ちて浸透した。王国として言うには程遠いほど小さく狭い空間。それでも、瑞穂にとって、かけがえのない大切な居場所だ。
瑞穂は、カーテンを外した手をそっと胸に当てる。その胸に刻まれている徴から伝わる温かい炎に、瑞穂は頬を綻ばせる。
第三王権者である≪赤の王≫が司るのは破壊の炎と言われているが、その炎は焼き尽くすことなく瑞穂を優しく包み込む。そして、目に見えない彼らとの繋がりを感じさせてくれる。
ずっとひっそりと誰かに追われる恐怖に怯えながら生きていくものだと思っていた。
でも、周防が、十束が、草薙が、温かい居場所と繋がりをくれた。
「おっ」
「どうしたの?」
棚の整理をしていた草薙がふと声を出す。その声に釣られて振り返った瑞穂に、懐かしそうに取り出したものを持ち上げてみせた。
「伯父貴のカメラが出てきたわ。
懐かしいな、こんなとこにしまっとったんか」
「…懐かしいね」
それはかつて、水臣がこの場所で彼らの写真を撮ったカメラだった。
『瑞穂ちゃん…
ここにいる友だちは、だれ1人キミの力のことを知ったとしても拒絶することはない。
だから1人で抱え込まず、いつかはちゃんと話しなさい』
水臣さんの言った通りだったよ…
長年のホコリを被ったインスタントカメラを見て、瑞穂は目尻を下げる。
誰ひとり、私の力を目の当たりにしても目の色を変えることはなかった。家族には化け物を見るような目線を向けられたのに…
巻き込みたくなくて突き放したのに、草薙さんは伸ばしてくれたその手を離してくれなかった。
私はこの場所なら、この人達と一緒なら、自分らしくいれる
「4人で撮ろうよ!」
雑巾を放りだして駆け寄った十束は、カメラが置いてあった場所の近くにあった付属品であるセルフタイマーを見つけ、目を輝かせて言う。
「言うと思った」
十束の次の言葉を悟っていた草薙は苦笑を浮かべながらも、どこか楽しげにカメラのセッティングを始める。その間に、十束は周防からモップを取り上げてカメラの前に連れて行った。
「瑞穂、いつまでそこに突っ立ってるの?早くコッチに来なよ」
振り返った十束は、急かすように瑞穂を手招く。
「瑞穂ちゃん」
セルフタイマーのネジを回し終えた草薙が彼女の名前を呼ぶ。
「...いま行く」
瑞穂は小さく頷くと駆け足で十束の隣に並んだ。その彼女の左隣に草薙も加わった。
ネジがゆっくりと巻き戻っていき、小さなシャッター音とともに写真が一枚現像される。
カメラによって切り取られた一枚の写真の中央で、孤独だった少女は大切な仲間たちに囲まれて満面の笑みを浮かべていた。
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