赤の王国【過去編①】※完結
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「「尊!」」
「キング!」
潜伏していたビルに駆け足で戻る3人が見たのは、割れた窓ガラスの破片とともに落下してくる周防尊の姿だった。闇山の手により吹き飛ばされた周防は空中で体勢を立て直すと足から着地する。が、衝撃に耐え切れず路面に膝と掌をついた。
「引っ込んでろ!」
聞きなれた声が耳に届いた周防は、血相を変えて走ってくる3人に離れるように声を荒げた。
そんな彼らの頭上からは笑い声が降り注ぐ。その笑い声の持ち主は、 闇山光葉。周防が落ちてきた窓から姿を現した彼は炎を纏っていた。その彼はこっちに飛び落りてこようと身を乗り出す。
「…尊!」
もう彼の身体は満身創痍だ。無理やり立ち上がっているが、足元はふらついている。このまま闇山とやりあってはダメだ。少しでも早く彼のもとへと瑞穂はスピードを速めた。
あともう少し
彼に触れることができれば、私の能力で回復させることができる。瑞穂は必死に手を伸ばした。あと少しで指先が触れる。そう思ったとき、彼の纏う空気が一変する。
「えっ…」
咄嗟に瑞穂は伸ばした手を引っ込める。それと同時に、身体ごと後ろに力強く引っ張られる。
「はぁはぁ…なんやこれ」
危険を察した草薙は息を切らしながら、前方にいた彼女を抱き寄せていた。彼女の温もりにホッと胸を撫でおろすも、目の前で起こっている現象に唖然としていた。
周防の身体から噴き出るのは真っ赤な赤い光。曇天空に向かって放たれたその光の中からは赤く輝く巨大な剣が出現する。
それと同時に荒れ狂う波のように赤い光が勢いよく漏れだし、広がった。その綺麗な赤い光はまるで炎のよう。その光はアスファルトを黒く焦がし、周囲にあるものを溶かしていく。
熱を持った爆風が光とともに彼らの傍らを吹き抜けていく。だが、不思議と瑞穂たちがいるところだけその赤い光は避けて広がっていた。
一方周防は苦しそうに自分の胸元を掴み、歯をむき出しにし身を折る。コントロールしきれないこの力はまるで猛獣のように周防に襲い掛かる。身の内に抑えきれず荒れ狂うこの力が、足元から放出されアスファルトに放射状の亀裂が走る。
狭い…息苦しい…
自由を欲して、周防の身体内を食い荒らしながら訴える。その望みを叶えようと、周防は抑える力を解こうとする。が、その時慣れ親しんだ声が自分を呼び止める。
「キング!」
らしくもなく必死な声で彼の名を呼ぶ十束を見て、周防は我に返った。解き放とうとした炎の猛獣の手綱を握り直した周防は、ゆっくりとその力を自らの内側に押し込めた。
「今から、ちょっとばかりバカみたいな話をするぜ?」
息を整えゆっくりと彼らに振り返った周防は、わずかに笑みを浮かべてみせた。そんな彼に対し、草薙はぎこちない笑みを浮かべながら上を指さした。
「いやぁー、もう十分、状況がバカみたいやからな…
お前、頭の上に剣出とるで?」
「…尊、赤の王になったの?」
その傍らでは瑞穂が不安そうに瞳を揺らして問いかける。3人とも頭の片隅ではこの状況を理解できているものの、否定してほしいという気持ちもあった。草薙は覚悟を決めた目で、十束は泣きそうな顔をしながらもジッと尊を見た。
「どうする?手を、取ってみるか?」
謎の空間で”石盤”の意識というものに触れた周防は、自分が”第三王権者”≪赤の王≫と呼ばれるべき存在になったことを知った。それと同時に、王に関する知識を得ることになった。だが、周防はどこからどう説明すればと、結局言葉にすることができなかった。
そんな彼らに周防は紅蓮の炎を纏った両手を3人に向けて差し出した。
この行為は≪王≫が同胞を増やす行為。自らの力の一部を与えて異能に目覚めさせるもの。
本来ならば説明すべきことだ。この手を取ることで彼らの生きる世界が変わってしまうのだから。
それでも3人は問い返すことなく、炎に包まれたその手を躊躇なく掴んだ。すると炎は繋いだ手から腕を伝って這い上がると彼らの身体を包み込む。炎を受け入れた彼らの体は薄く赤い光を纏っていた。草薙と瑞穂は鋭利に輝く鮮やかな色を、十束は柔らかい淡い色を放っていた。
「…1人にしないよ」
瑞穂は柔らかく微笑んだ。欲しい時に彼女は必ず言葉を掛けてくれる。その優しさに周防は目を細めた。
そういえば…
思い出したように尊は顔を上げた。すると、この一部始終を見ていた闇山が呆然と立ち尽くしていた。が、周防の視線に気づいた闇山は我に返ると、口角を上げた。自分との圧倒的な力の差をわかっているはずなのに、闇山は自らの炎を具現化させると、窓枠を蹴る。そして空中に飛び出た闇山は炎を纏った拳を、周防に向けて振り下ろした。だが、その拳は周防の前でピタリと動かなくなった。周防の体を中心に広がった赤い光により、止まった拳がジリジリと焼ける音を立てた。
「くっ…」
「無駄だ」
軽い動作で周防は片手で払いのける。が、吹き飛ばされた闇山は飛び起きると再び向かってきた。先ほどとは打ってかわり、闇山の動きは周防にとって怠く感じるほどゆっくりに見えた。右手1本で容易く受け止めいなしていった。
「草薙さん、平気?」
「瑞穂ちゃんこそ、平気か?」
「いや…ちょっとでも気を緩めると持っていかれそう」
周防の一方的な戦いが繰り広げられる中、草薙と瑞穂は受け取った異能の力のコントロールに苦しんでいた。そしてどうやら周防の力に同調しているのか戦闘が激しくなっていくにつれて、猛獣かのように抑え込もうとすればするほど暴れる。
「なんでお前はケロっとしてんねん」
肩で大きく息をしながら草薙は恨めしそうに、平然としている十束に視線を向けた。その問いかけに十束は不思議そうに首を捻った。
「だって、俺はなんともないよ?」
なんでだろう…と十束は淡い光を纏う己の手に視線を落とした。その手にふと瑞穂は触れてみる。
「瑞穂?」
「あっ…」
瑞穂は目を見開いた。先ほどと違い、身体が軽く、引っ張られる感覚が薄れたのだ。身体の内側で暴れまわっていた力が落ち着いていく。
「多々良、草薙さんに触れてみて」
「えっ、うん」
突発的に指示された十束は、疑問を抱きながらも素直に従った。膝に両手を置き、苦しそうな草薙の肩に十束は手を置いた。
「…楽になった」
「えっ、ほんと?」
身体から滲みでて不安定に揺らぐ赤色の光が落ち着きを取り戻す。ふぅーと息をつき草薙は立ち上がると、周囲をグルっと見渡した。
「あれはマズイな」
「止めなきゃ」
闇山の拳を受け止めた周防の身体から洪水のように溢れ出した赤い光は巨大な火の玉に。それだけに留まらずみるみると膨れ上がっていく。そればかりでなく、周防の頭上に浮かぶ赤い剣がギシギシと不吉な音を立て始めた。
周防の思考は完全に暴れる力の高揚に飲まれていた。そして、力を解き放とうとする周防に引っ張られるように、瑞穂と草薙の身体から再び炎のように赤い光が漏れ揺らぎだした。
「キング、待って」
一歩踏み出した十束は周防の左腕を掴む。そしてグイっと力強く引っ張った。間髪入れず、周防と闇山の間に割って入った草薙は足を振り上げる。草薙の回し蹴りは闇山を焼き尽くそうとしていた周防の炎の中から弾き飛ばし、後方へと吹き飛ばした。
「踊らされんな」
周防へと振り返った草薙は飴色の瞳を鋭くし、叱咤する。理性的な草薙の瞳に、力と同化しかけていた周防は少しだけ冷静さを取り戻す。だが、巨大な力は獣のように牙を向き暴れだそうとする。
「…尊」
周防の名を呼ぶ凛とした声。その声の持ち主は、彼の右手をそっと握った。
「ゆっくり…ゆっくりでいいよ」
落ち着きのある瑞穂の声は、じんわりと周防の胸に浸透していった。自らの炎と違い、穏やかな十束の力につられ徐々に落ち着き始める≪王≫の力。周防はその隙をつき、自分の制御下に押し込めた。
周防は自らの炎で焼かれ廃墟と化した周囲を見渡した。草薙に蹴り飛ばされた闇山は、地に膝をついたまま。そんな闇山を周防は見下ろす。
「消えろ」
一言そう告げた周防は、彼に背を向けるのだった。