赤の王国【過去編①】※完結
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「…んっ」
意識を取り戻した瑞穂の目に映ったのは真っ白な天井だった。ゆっくりと右へ視線を移すと窓から抜ける風により白いカーテンが揺れている。次に左へと視線を移すと隣のベッドには片足をギプスで固定されて吊り上げられている十束の姿があった。
「多々良ッ!」
ガバッとベッドから飛び出した瑞穂は彼が寝ているところへ駆け寄った。まだ意識が戻っていない彼の容態を確認する。左腕は添え木がされて分厚く包帯が巻かれ、頬は大きなガーゼで覆われ、頭は包帯で巻かれていた。大きな怪我が彼の身体に残った。それでも彼は生きている。それだけで瑞穂はホッと安堵してズルズルと床へ崩れ落ちた。
「…よかったぁ」
ふと頭が重くなる。その重さに気づいて顔を上げた瑞穂は薄っすらと目が開いていることに気づいた。
「へーきって言ったでしょ?」
目を醒ました十束は少し下にあった胡桃色の髪を優しい手つきで撫でて、掠れた声でそっと呟いた。その声に、なんとか繋ぎとめていた糸がプチッと切れた瑞穂の桜色の瞳からは一粒の涙が伝り落ちた。
「全然平気じゃないくせに」
「うん、凄く痛かった。でもちゃんとここにいるよ」
悪態つく瑞穂の頬に十束はそっと手を伸ばす。彼女の身体にもところどころ傷がついていて処置が施されていたのだ。
「瑞穂も怪我してる」
「多々良に比べたらどうってことないよ」
互いに自分のことを棚に上げて相手の心配をする構図がどこか歯がゆくて気づいたら二人は笑いが止まらなくなっていた。そんな二人の様子を見に来た看護師は呆れた眼差しを向けていたのだった。
「そういえば君達の身元わからなかったから、知り合いと思われる人に連絡してもらったの」
「「知り合いの人??」」
「HOMRAってお店。そこの店員さんに聞けばもしかしたら君たちの身元がわかるかもしれないって電話してくれたんだけど…」
2人の身元が分からず途方に暮れていた看護師は早々に意識が戻ってくれてよかったとホッと胸を撫でおろす。だが傍らでは顔を蒼褪めている者が一人いた。
「瑞穂??」
「あの…私の端末ってどこにありますか?」
「あぁ、これね」
今返そうと思ってたのと彼女の手にあった自分の端末を貰うと瑞穂は慌てて画面を開けた。するとつい最近追加したばかりの連絡先からの鬼電を知らせる通知で埋め尽くされていた。
「あぁ…どうしよう」
瑞穂は頭を抱えた。あの助けてもらった一件以降、偶然街で出逢おうこともなければ互いに連絡を取り合うことをしてこなかった。あの紳士で優しい彼が、突然一報を受けて心配しないわけがない。
「あの私帰っていいですか?」
「ダメに決まってるでしょ?そこの彼よりは全然軽症だけど念のために精密検査を受けてもらいますからね」
彼と顔を合わせたくない瑞穂はダメ元で看護師に掛け合うが当然のごとく却下されてしまった。
「瑞穂、ヘーキ?」
「全然平気じゃない…」
身を縮めてガクガクと震える瑞穂を十束は不思議そうに見下ろした。一体どうして彼女はここまで怯えているのだろうかと。
「もしかしてホムラさんと知り合いなの?」
「ホムラさんって誰?」
ふと十束はある名を口にする。周防が学校の先輩が働いているバーに行くことがあるって言っていたのを思い出したからだ。
「えっと、キングが時々行くっていう、HOMRAのお店の人?
その先輩の名前は知らないからさ」
「あぁ!そういうことね!」
アハハと笑う十束の言葉に合点がいった瑞穂はキョトンとしていた表情を和らげた。
「うん、この前逃げてるところを助けてもらって」
「ん?俺その話聞いてないんだけど、瑞穂。
なにかあったら言ってっていつもいってるよね?」
窮地にサッと現れた彼は躊躇することなく自分の手を引いてくれた。あの時のことを思い出すと胸がギュッと締め付けられた。そんな風に思い出に浸っている瑞穂の側では十束が急に眉を顰めた。楽観的な彼は一変して珍しく真剣な面持ちを浮かべた十束は問いただそうと彼女にグッと顔を近づけた。
「…言ってないっけ?」
「うん、聞いてないよ。また追われてたの?」
最初ははぐらかそうとした瑞穂。だがそれを見逃すはずがなく。十束の気迫に押されてしまった瑞穂は小さく頷いてしまっていた。そんな彼女に十束は脱力させると大きくため息を吐きだすのだった。
「この件は俺と一緒に対策を考えようってなったよね?」
「…そうだけど」
「何かあってからじゃ遅いんだよ」
珍しくキツイ言葉で窘めようとする十束に顔を向けられなくて瑞穂は黙り込んだまま俯いた。彼の言いたいことが痛いほど伝わってくる。自分が逆の立場であれば間違いなく目の前の彼と同じことをしているに違いない。でもそれでも普通の彼をこっちの問題に巻き込みたくなかったのだ。
このままだと話がまた平行線になってしまう。なんとかしないとと十束は再び口を開こうとする。がその時控えめにドアがノックされるのだった。