赤の王国【過去編①】※完結
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化け物!!
あんたなんて私の子供じゃない
不思議そうに顔を上げるとそこには恐怖の色に染まった両親の姿があった。いつからかは覚えていない。気づけば転んで擦りむいた傷も、刃物で切った怪我も綺麗さっぱりに消えていた。それが幼少期の頃は普通の現象なのだと勝手に思っていた。彼らの怯える表情を見るまでは…
仲睦まじい家族と近所に言われていた。だがその環境はある日を境に一気に崩れ去った。大切に育てていた一人娘が未知なる能力を持っていた。誰だってそれを目撃してしまったら煙たく扱うだろう。
それは彼女も例外ではなかった。
成人するまでは不自由ない生活を送れるようにお金の援助くらいはしてあげる。けどもう私たちの目の前に姿を現さないで
そう言われて彼女はたった一人きりになった。その時から彼女はその力をむやみに使うのをやめた。その力を使ったら気味悪がれるからだ。そして人と関わることもやめた。もう拒絶されることが嫌だったからだ。だがそんな彼女の領域に遠慮せずに足を踏み入れてくる者が現れた。
「ねぇキミ、なんでいつも1人でいるの?」
茶色の無垢な瞳がまっすぐに向けられる。この純粋な瞳が向けられることが怖くて彼女は少し視線を外した。
「そういうキミはそこでなにしてるの?」
「え?野草を摘んでるんだよ?」
「なんで?」
「おっちゃんがいないから野草を暫く食べようと思ってさ」
そう言って人懐っこい笑みを浮かべる少年に彼女は目を丸くして驚いた。どんな生活環境でも創意工夫で楽しく生きている少年をどこかで羨ましいと思ってしまったのだ。
「ねぇ…名前は?」
もう関わる気がなかったのにその時の彼女は自然と口が先走っていた。尋ねてしまった問いかけに対し慌てて口を噤み俯く彼女に少年は嬉しそうにはにかむと手を伸ばすのだった。
「十束多々良。キミは?」
「水無月瑞穂」
瑞穂は恐る恐る手を伸ばす。少年の手は久々に感じる人肌の温もり。今まで自分から避けていたのにもう手放したくなくて、野草摘みで汚れている彼の手に入れる力を少しだけ込めた。
「え?俺住んでいる家、隣だよ?」
「そこって借金取りにしょっちゅう追われているギャンブルおじさんとこ?」
「うん。石上さんに俺拾われたんだ。」
あっという間に距離を詰められてしまった瑞穂は、食事くらいならと家に誘った。すると十束が住んでいる家はたまたま隣だった。そのこともありそれ以降瑞穂は彼の様子を見に隣宅にお邪魔する機会が増えた。それに気づいた十束の育ての親である石上は彼女にわざわざ合鍵を手渡した。それから更に入り浸り始めた瑞穂は普通の人に戻れた気がしたのだ。
「いてっ」
「多々良?」
「指切っちゃった」
アハハと笑いながら、絆創膏を探し始める十束。そんな彼をさりげなく瑞穂は引き留めていた。
「瑞穂?」
「大丈夫、私が治す」
瑞穂は刃物で切って血が出ている指に手を翳す。するとその手からは淡い光が溢れだしその指を優しく包み込んだ。その光は一瞬のうちに切り傷を綺麗さっぱり消し去ったのだった。
今までこの力については十束に話したことはない。彼は何か隠し事をしていることに気づいていたが気づいてないふりをしてくれていたのだ。翳していた手を下ろした瑞穂は恐る恐る窺うように彼の顔を覗き見る。
どういう反応をするだろうか?
彼の様子を窺う瑞穂。だが、彼は驚きで目を丸くした後上ずった声を発した。
「えっ治った!!」
「なにこれ!!凄い!!」
興奮気味に目を輝かせて瑞穂の身体を揺さぶる十束が、彼女の予想していたものにどれも当てはまらなかった。
「あーもう…多々良には叶わないや」
「…なにそれ?」
「こっちの話」
勝手に自己完結してすっきりとした表情をする瑞穂に、十束は不貞腐れた表情で彼女を見る。出逢った当初から暗い表情を浮かべていた彼女が初めて心の底から笑ったような気がした。そう感じた十束は、この力についてゆっくりと話し始める瑞穂に気づいたら柔らかい眼差しを向けていたのだった。
すっかり瑞穂にとって、十束多々良が隣にいることが当たり前で心のよりどころにしてしまっていた。彼はどこか人を引き付けるオーラがあるみたいでいつも人の輪の中にいた。必然とその輪の中に溶け込むことが増えた瑞穂は巷で流行っているアプリを耳にした。
jungleってアプリあるんだよ!瑞穂も入れようよ!!
十束は端末を持っていなかったので必然的に持っていた瑞穂は色々と言い包められて気づいたらそのアプリをダウンロードしてしまっていた。だがダウンロードしただけ。決して瑞穂はそのアプリを開こうとは思わなかった。
「え?開いてないの?」
「…うん」
「折角入れたのに勿体なくない?」
きっかけは何気ない十束の一声から始まった。色々と興味を持つが飽きるのが早い彼は、瑞穂の端末に入っているjungleのことをふと思い出したのだ。家主がいない石上家でいつも通り夕飯を食べた二人は揃ってちゃぶ台に置いた端末を見下ろしていた。
「…いくよ」
「うん」
彼といる時間が増えてしまったせいか十束同様なんとかなるだろうという楽観的な考え方が根付いてしまった。ちょっと中を覗くだけ。興味心に勝てずに二人はアプリの画面を開いた。
それがきっかけだった…
『君のストレインの力に興味があります』
この力の正体を持った者をストレインと呼ぶことを知ったのは。そして、このH.Nという者の書き込みがきっかけでことあるごとに逃げ回り始めたのは。