1年生
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「あ〜あ…どうしよ」
雫は机に打っ潰して項垂れていた。
「どうしたんだ??香坂??」
「顔色が悪いな…」
項垂れる雫を心配そうに夜久と海は見た。対して、雫の悩みのタネに検討がついている黒尾はというと机に打っ潰す雫を鼻で笑い飛ばした。
「夜久も海も心配しすぎだ!!」
「え…でもよ」
「顔が真っ青だぞ」
「この時期は毎度のことだから、心配してるとこっちの身がもたないって」
「うッ…黒尾が酷い」
打っ潰しながら3人の話を聞いていた雫は塩対応の黒尾に思わず悪態をついた。
「あっれ〜??そんなこと言っていいのかな〜」
ヒヤリと口角を上げ意味深の言葉を吐く黒尾に雫はウッと言葉を喉に詰まらせる。対して、理解が追いつかない夜久と海は二人の様子を困惑気味に交互に見た。
「黒尾の意地悪!!」
「人に何か頼むときはどうすんだっけ〜、雫ちゃん」
もともと悪面の表情がさらに悪くなっている黒尾を、雫は不服そうに睨む。だが、自分一人ではどうしようも出来ないのは事実。雫は感情に流されまいと大きく息をつき、眼を少し閉じる。そして、数秒後眼をゆっくりと開けた雫はガバっと黒尾に頭を下げて手を合わせて懇願した。
「お願いします!!私の理系科目を助けてください!!」
「えぇ…どうしよっかな〜」
「助けてくれたら何でもするから!!!
お願いします!!黒尾様!!」
雫は無我夢中で、後先考えること無く口走ったセリフを言い放った。その言葉に、黒尾は待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「……なんでもって言ったな?」
「うん、言った」
「じゃあ……
香坂の夏休み、丸一日を俺に寄越せ
それが条件だ」
グッと黒尾は雫の方に身を乗り出して、条件を焚き付けた。もちろん、雫はその条件にひょうきんな声を上げた。
「へぇ!?!?」
「どうすんの〜?
呑むの??呑まないの??」
黒尾のおどけた声に対して、雫はジッと彼の瞳を見た。黒尾は照れて恥ずかしそうにおどおどする雫を期待していた。だが、雫の反応は予想の遥か斜めにいきたまらず黒尾は拍子抜けするのだった。
「いいよ…
ってか、そんなんでいいの??逆に??」
なんでもって言ったから、とてつもない無茶振りな要求をしてくると思いきやのこの条件に、雫は不思議そうな表情を浮かべた。
むしろ逆に……黒尾の貴重な休みの時間を貰って良いのだろうか!?!?
のんびりしたいだろうに良いのかと、逆に萎縮する雫。そんな彼女の気持ちなど知る由もない黒尾は予想外の雫の返答に珍しくテンパった。
「そんなんでって…お前な!!」
アタフタとする黒尾の様子に、珍しいなと他人事のように思う雫。そんな彼女の意志を再確認するように夜久が恐る恐る口を開いた。
「えっと…香坂」
「どうしたの??夜久??」
「お前、言ってる意味わかってるか??」
「夏休みの丸一日を黒尾に上げれば良いんでしょ
というか、逆に私が黒尾の貴重な1日を取っちゃうんだけど良いのかな…」
うーーん逆にソッチのほうが私は…
唸るように考え込む雫を見て、夜久は項垂れた。目の前にいる彼女は黒尾の事をどう思ってるんだと本気で心配してしまうほどに。その応対を横で見ていた海が思っていた疑問を口にした。
「なぁ…ずっと気になっていたことがあるんだけど…
香坂と黒尾って付き合ってはいないんだよな…」
ここ暫く時間を過ごして海が感じたのは、二人の距離感だ。いくら同じ中学でずっと同じクラスで席が前後だったからといって、ここまで親密な関係になるのかと。男子と女子の間の友達関係にはどうしても見えなかった。その海の言葉に、夜久も気になっていたのか喰い付くように二人をジッと見た。
「付き合ってないよ」
「二人共、なに言ってんだ?
俺らはただの腐れ縁だって言ったろ??」
ポカンと意味がわからんと問いかけられた雫と黒尾は即座に反応を示した。その二人のタイミングが合わさった声に、夜久と海は呆気に取られて言葉を失ってしまうのだった。
「というか、なんで真面目にノート取ってるのに出来ないわけ??」
「私の頭が拒絶反応を示すからさ」
「なんじゃそりゃ!!」
そんな彼らの心情など知らない雫と黒尾は、あーだこーだとまた二人軽口を言い合いはじめるのだった。
*****
「ちょっと、休憩…」
「駄目だ!!まだ始めたばっかだろ」
「だって〜〜!!」
試験1週間前…
部活動は停止となり、雫たちは勉強会を開いていた。各々が各自で勉強する中、数学の教材を開いていた雫は数分で集中力を切らした。休憩という言い訳をして勉強から逃げようと、机に置いたヘッドホンに手を伸ばそうとする雫。だが、彼女の眼の前でサラリとヘッドホンはかっさらわれるように消え去った。アッと顔を上げるとしかめっ面の黒尾が雫の瞳に映ったのだ。
呆れながら雫を見る黒尾、対してそんな彼に駄々をこねる雫。そんな二人に海と夜久は思わず勉強の手を止めてしまった。いや、実際には雫の様子を見て驚いた。
「香坂って、ホントに理系科目無理なんだな」
「意外だな…普通に勉強出来ると思ってたよ」
「だろ〜〜!!
パッと見、勉強できそうに見えて実際理系科目はこれッきしなんだよ」
雫に対する夜久と海の本音に、すぐさまニコニコと笑いながら黒尾が反応を示した。その3人の刺々しい言葉が雫の胸にグサグサと突き刺さった。
「ウウッ…だ、だって〜〜
こんなの暗号じゃん!!無理!!」
ドヨーンと酷く落ち込みながらも雫は自分の言い分を言い放った。文系の科目なら平均並、だが、理系科目は残念なことにこれッきしであり、ボーダーラインの赤点ギリギリなのだ。雫自身、理系が出来ないと自負してるしどうにかしたいとは思う。それでも。無理なものは無理。教科書に散りばめられた数字やアルファベットが暗号にしか見えないのだ。こんなの見るなら一日中楽譜とにらめっこしていたほうがマシである。
「ほら!!やんぞ!!」
「ちょ…ちょっとだけ脳に栄養を…」
雫の教科書を開き直す黒尾の片手に握られている己のヘッドホンに雫は弱々しい声を上げて手を伸ばす。だが、その手はもちろん空を切った。
「ここまでやったらな」
「ここまでやるの…」
「赤点とっても知らねーぞ」
「……頑張ります」
ガクリと正論を言われた雫は肩を落としながら筆記用具を手に取る。そして、すぐさま、早速……と黒尾に質問し始める雫。それに嫌な顔をせずに黒尾はここはな…と教え始める。
「黒尾って面倒見いいよな」
「香坂以外にもこんな対応するのかな??」
ふと浮かび上がるのは素朴な疑問。果たして、黒尾は他の女子に対しても同じ態度で接するのだろうか?だが、その疑問に答えられる者はこの場には誰もいないのだった。