2年生
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「なぁ、なんかすっげぇ見られている気がすんだけど…」
朝練を終え教室へと向かう最中、異様な視線を感じた黒尾は不可解に思いながら顔を顰める。その黒尾が漏らした言葉に夜久が怪訝な表情を浮かべて彼を見上げた。
「お前なんかしたんじゃねーか?」
「ちょっと、俺がいつもトラブルメーカー的なニュアンスを匂わせんのやめてくれませんかね~」
その夜久の言葉に神経を逆撫でされた黒尾は眉をピクリと動かすと掴みかかるように夜久を見下ろした。その視線に対して負けじと夜久は睨み返す。
「現に事実だろ!!
後、見下ろすのやめろ!!不愉快だ!」
「あぁ?!どこがだ!!
それに見下ろさざる負えないんです~」
「遠回しに俺の身長が低いからだと言ってるだろ!!」
「事実だろ??」
「なんだとこら!!
喧嘩売ってるだろ!!お前!!」
「言いがかりはよせよ
俺はただ喧嘩を買ったまでだ」
「……これじゃないか??」
二人が口論を繰り広げる中、1人沈黙を貫いていた海が声を上げる。その声に二人はピタッと口を閉じて同時に海が見ている方に目をやった。すると海の前にあったのは掲示板。数ある紙切れの中、目立つようにデカデカと掲載されていたのは一枚の新聞部による新聞の記事だった。
「アハハ!!なるほどな!!」
その記事の写真を見た途端、夜久は軽快に笑いだす。対して先ほどまで威勢が良かった黒尾は気分が一気に降下していた。
「なんでこんなに大々的に掲載されてんだよ…」
3人の目の前にある記事は先日行われた文化祭の特集。他のどの記事よりも大々的に取り上げられているものは軽音部のステージの様子だった。そしてそこに載せられている写真は、ステージ上で1人の青年が1人の少女を抱き上げているシーンだった。
「いやぁ~、でもバッチリ撮れてるな!!」
「ホントだな。
まるで狙っていたかのような一枚だし」
マジマジとその一枚の写真を見る夜久と海。二人が言った通り、その写真はまるで意図されていたかのように障害物もなく綺麗なアングルで撮られていたのだ。スクープと大々的に掲載されているが、3人の脳裏には悪巧みを企む1人の同級生の顔が浮かび上がっていた。
「あのやろ…」
不機嫌そうに舌打ちをすると黒尾は踵を返して教室に向かい始める。そんな彼の様子に、困ったように互いに顔を見合わせた夜久と海は慌てて彼の背を追うのだった。
*****
バン!!!
勢いよく教室の引き戸を開ける。その大きな音で教室にいた一同は視線を上げる。その彼らが持っているのはもちろん今日配られていた新聞だった。視線をあげた彼らの目の前に現れたのはいままで話題に上がっていた人物。だが、普段の装いは全くなく無表情な彼の姿に誰も声をかけることが出来なかった。
視線を感じながらも黒尾はずんずんと教室の中へ。そして迷うことなくある人物が座る席の目の前に回り込むと勢いよく片手を彼の机に叩き落とすのだった。
バン!!
「ん?どうした?黒尾?」
えらくご機嫌斜めだなぁー
ゆったりと顔を上げた彼は愉快げに笑みを浮かべた。そんな彼の姿に黒尾の苛立ちはさらにこみ上げた。
「あぁ??誰のせいだと思ってるんだよ、長谷川」
黒尾は主犯格であろう、長谷川を頭上から見下ろす。その黄土色の瞳は冷え切っていた。だが、動じることなく長谷川は見上げた。
「そんなに怒ることねぇーだろ、黒尾。
俺のお陰で構内全体に牽制できるだろ?
雫は俺のものだってな」
「だからってやっていいこととダメなことがあるだろ!」
「えぇー?
折角話に乗ったんだから美味しいとこは貰わないと損だろ?」
ケラケラと笑う長谷川。だが、その背後には仁王立ちする者。その人物が視界に入る位置に居た黒尾らはギョッとした表情を浮かべ始める。その怯えた表情にどうかしたかと首を傾げる長谷川の頭に拳骨が突き落とされるのだった。
「いっ…てぇっ!!って、紗英?」
「おはよー、和真。随分と騒々しい朝ね」
黒い笑みを浮かべるのは別のクラスの紗英だった。その背後からはひょっこりと覗き見るように少女が顔を覗かせた。
「おっ、おはよ…みんな」
「雫!!」
一同は雫の登場に目を瞬かせた。
「雫、これ見た?」
「見て動揺して、紗英に泣きついたの」
若干涙目を浮かべる彼女は頬を赤らめていた。そんな彼女は無自覚にも色香を振りまいている気がして、黒尾は手をこまねいた。不思議そうに紗英の背から出てきた雫を黒尾は抱き寄せると満足そうな笑みを浮かべるのだった。
「えっ、どうしたの?」
身体をもぞもぞとさせるが、すっぽりと腕の中に収まっていて動きそうにない。んーと唸る雫に対し、勝手に手が伸びていた黒尾はどう説明しようかと難しい顔をする。そんな黒尾を見て愉しげに夜久と海は笑みを零した。
「今のお前を見せたくねぇーんだって」
「はっ、ちょっ!夜久!!」
「確かに今のはちょっとわかるよ」
「海までそんな事言うなよ」
2人に対し噛みつくように黒尾は声を上げる。そのやり取りに雫は目を丸くして頭上を見上げた。するとギャアギャア騒いでいる黒尾の耳は赤くなっていて、雫は照れ臭くて俯いてしまう。
「よし!和真が秘かに稼いだお金で祝賀会やるよって、なにこの状況…」
和真を凝ってりと絞り終えた紗英が満面の笑みで振り返る。その背後では撃沈している和真がいたが、彼のことを憐れむ者は誰もいなかった。
「あぁ…イチャついて恥ずかしがってるだけだから」
「…ふーん,なるほどね」
黒尾の腕の中にすっぽりと収まっていて全く顔が見えない雫.そしてそんな彼女を抱く力を弱めることなく、夜久に噛み付く黒尾。
そのやりとりを見守っていた海が状況について行けてない紗英に説明をする。その説明を聞いて紗英はニンマリと黒い笑みを浮かべた。
「で?そっちはどうなったの?」
「あぁ…和真が新聞部に情報を流していい席を確保してあげたみたい」
雫からこの話の相談を受けた和真はこっそりと新聞部に情報を垂れ流しにしていたのだ。そしてその美味しい情報にもちろん新聞部は喰い付いた。なにしろ校内で人気絶頂グループのギターリストと強豪バレーボール部キャプテンのビッグカップル誕生の瞬間だ。それを記事にできるのならば新聞部にとっても願ったり叶ったりだったのだ。
「まぁでも,公に交際していることを明かしてあげたかったって気持ちもあるみたい」
特に雫は執着心が強いファンに迫られることが多い。それに対していつも拓斗が割って入って適当にあしらっているのだ。そのことを考えると事実を捻じ曲げられるよりよっぽどいい。その点に関しては紗英は和真に賛成だ。まぁ一人で勝手に動いて話を進めていた点に関しては気に食わないが。
「さて…」
紗英は未だに啀み合う両者にも聞こえるように声を張り上げる。
「和真が騒がせたお詫びで奢ってくれるって!二人は何食べたい?」
「肉!!」
「魚!!」
その声に同時に振り向いた二人は全く正反対のことを言う。それに気づいた二人は再び睨み合いを始めてしまう。仲がいいのか悪いのか。さっぱりわからない紗英の隣で海は日常茶飯事の光景を眺めるのだった。
「海くんって結構苦労人?」
「えぇそうかな?慣れると見てるのが楽しくなってくるよ」
嫌な顔一つせずに爽やかに答える海を見て、紗英は顔を引きつらせるのだった。